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はやぶさのサンプル分析からわかったこと

物構研ハイライト
2011年10月14日
image_01.jpg からっぽに見えるサンプルコンテナの内壁にイトカワ由来の微粒子が付いているかどうか、「掻き出しヘラ」を使って壁面をこすり取り、走査型電子顕微鏡で観察した。人工物であるアルミ粒子に混ざって、カンラン石、輝石などの鉱物の微粒子が見つかった。
画像提供:JAXA

JAXAの小惑星探査機はやぶさが世界で初めて小惑星イトカワの表面からサンプルを持ち帰っ たニュースには世界中が興奮しました。地球と月以外の天体の表面から直接得られたサンプルとしては世界初の快挙です。当初、カプセルを開けた時はからっぽに見えたサンプルコンテナも、その後の慎重な調査で髪の毛の直径より小さい微粒子が1500個近く見つかり、さらに調査が続いています。

太陽系の形成史にせまる

image_02.JPG 東北大学(宮城県仙台市)で記者会見した研究者。左から、圦本尚義・北海道大学教授、長尾敬介・東京大学教授、中村智樹・東北大学准教授、土`山明・大阪大学教授、海老原充・首都大学東京教授、野口高明・茨城大学教授、上野宗孝・JAXA/ISASプログラムオフィス室長。長尾教授が手に持っているのはサイエンス誌のイトカワ微粒子の初期分析結果特集号の表紙。

太陽系の惑星や小惑星などの天体は、周辺の超新星の爆発などで生まれた星間塵などが集まって、太陽の周りをまわるうちに徐々に集積されてできあがったと考えられています。これまでにも地球上で見つかった隕石などの分析から、太陽系形成の歴史についてはある程度わかっていましたが、いろいろな種類の隕石の起源が本当に小惑星なのか、太陽光を反射する小惑星のスペクトルが隕石と異なるのはなぜか、など、いくつかの大きな謎がありました。

8月25日、イトカワのサンプルの分析結果に関する記者会見が東北大学で宇宙航空研究開発機構(JAXA)とテレビ会議で接続して開かれました。出席したのは圦本尚義(ゆりもと ひさよし)北海道大学教授、長尾敬介東京大学教授、中村智樹東北大学准教授、土`山明大阪大学教授、海老原充首都大学東京教授、野口高明茨城大学教授、上野宗孝JAXA/ISASプログラムオフィス室長、村上洋一高エネルギー加速器研究機構構造物性研究センター長の8名です。

今回の記者会見では、はやぶさ搭載の帰還カプセルにより持ち帰られた微粒子のうち比較的大きなサンプルに対し、様々な分析を行った結果が発表されました。その結果、小惑星イトカワが現在のような姿になるまでにどのような歴史を辿ったのか、また、今後どのようなことが起きるのか、など、太陽系の形成史に迫る貴重な発見がありました。

この結果は翌日に発行されたアメリカの著名な学術誌サイエンスでも特集号として取り上げられ、世界がいかに小惑星探査機はやぶさの成果に注目しているかがわかります。サイエンス誌がはやぶさの特集号を出すのは、はやぶさがイトカワに着陸した後の2006年6月2日号に続いて二度目になります。

コンドライト隕石と一致したイトカワの微粒子

この微粒子からどんなことがわかるのでしょう。多くの研究者が、放射光X線や中性子、電子顕微鏡などの手法を使って分析した結果、様々なことがわかってきました。そして、その化学組成は「コンドライト隕石」に非常に近いものだということが明らかにされたのです。

中村准教授らはKEKフォトンファクトリーとSPring-8の放射光X線回折と電子顕微鏡を使って、微粒子を構成する鉱物の種類と比率を調べました。X線は微粒子の試料を壊さずに内部の組成を見ることができるので、微量で貴重な試料の分析にはぴったりの方法です。この実験に使用したビームライン「BL-3A」はフォトンファクトリーの中でも特にX線強度が強く、微粒子に含まれるごく僅かな元素でも検出することができます。その結果、カンラン石、カルシウムが少ない輝石、カルシウムが多い輝石、斜長石などが見つかりました。この化学組成は、普通コンドライト隕石と非常に良く似たものです。「普通コンドライト隕石」とは、最も一般的な石質隕石で、含有される鉄が多い順に、H型、L型、LL型に分類されます。この分析結果では、イトカワの微粒子の組成は、LL型と非常に近いものでした。

圦本教授らは、微粒子の酸素の同位体比を調べました。この結果からは、微粒子が普通コンドライトのL型やLL型に近いことが確認されました。海老原教授らは、中性子放射化分析と呼ばれる手法で、微粒子の元素組成を調べました。この分析からはさらに、イリジウム/ニッケル比が小さいことが確認されました。このことは、イトカワ微粒子が原始太陽系の初期の元素分別プロセスの痕跡を残しているということを意味します。

ガンドルフィカメラ。微粒子は針の先端に付けられ、カメラ内にセットされる。写真は既知の隕石によるリハーサル分析時のもの。微粒子は矢印の先端あたりに置かれる。この針を自転させながら円周上を回転させることで、X線を様々な方向から試料に照射することができる。
ガンドルフィカメラに微粒子を設置する。この写真は「はやぶさ」微粒子を想定した鉱物試料によるリハーサル分析の様子。微粒子が先端に固定された針をゴニオヘッドに取りつける。
KEKフォトンファクトリー BL-3A に設置されたガンドルフィカメラ。写真奥の白い壁の向こうから伸びるビームパイプにより導かれるX線はガンドルフィカメラ(中央、銀色の円筒形の物体)内に照射される。

微粒子の宇宙風化から分かるイトカワの未来

image001.png今回分析された微粒子の1つ
画像提供:東北大学

右図は、今回分析された微粒子の写真です。小さな鉱物がまるで静電気力でくっついたかのように寄り集まっています。そして表面の角がどれも削られて丸くなっていることに気づくでしょう。微粒子がどのように形成されたのかを調べることで、イトカワが今後どのようになっていくのかを調べることができます。

土`山教授らはマイクロX線CT分析によって、微粒子に含まれる鉱物の種類と3次元分布を明らかにしました。これによって決定された切断面で微粒子を薄くスライスし、表面と内部を電子顕微鏡を使って比較することで、微粒子表面が受けた宇宙風化の進み具合を調べたのは、野口教授らです。

宇宙風化の原因の一つである太陽風の影響を調べるため、長尾教授らは微粒子に含まれる希ガスの濃度と同位体比を調べました。その結果、微粒子がイトカワ表面において太陽風に曝されていたこと、微粒子ごとに太陽風に曝されていた期間が異なることなどを明らかにしました。

イトカワは「S型小惑星」と呼ばれる小惑星です。これまでの研究では、小惑星の中では最も一般的なS型小惑星のスペクトルと、隕石として最も一般的な普通コンドライトの反射スペクトルとが一致しないことがわかっており、謎とされていました。分析の結果により、これは、宇宙風化によって小惑星表面にある微粒子のごく表面に金属鉄超微粒子が作られているために、反射スペクトルが違って見えるということがわかりました。

今回分析した微粒子は、数百万年といわれる太陽系の歴史の中では、比較的短期間しかイトカワ表面に存在しなかったということです。また、微粒子の角が丸くなっていたことから、イトカワに隕石が衝突するとイトカワ全体が振動し、それに伴って表面の粒子も振動して摩擦が起きたと考えられています。

これらの宇宙風化の分析結果から、イトカワの表面では100万年に数十cmというペースで表層物質が失われているかもしれません。もし、このペースで風化がすすめば、10億年後にはイトカワは消滅してしまう計算になるそうです。

宇宙の中でガスやチリが集まって出来た太陽系の天体の壮大な歴史。中村准教授は「第1回目のタッチダウンで得られたサンプルもフォトンファクトリーで分析して、結果を出していきます。注目していてください。」と意欲を見せています。はやぶさが持ち帰った小さな微粒子がこれからも太陽系天体形成の歴史の謎を解き明かしてくれることに期待しましょう。

image_06.jpg KEKフォトンファクトリーの放射光を用いて取得したイトカワ微粒子のX線回折パターン。完全非破壊で微粒子(100ミクロン程度)内部に存在する鉱物の種類と存在度を知ることができる。この粒子の場合、主な構成鉱物がカンラン石(O)、カルシウムが少ない輝石(LPx)、カルシウムが多い輝石(HPx)、斜長石(Pl)であることがわかる。
画像提供:東北大学
image_08.jpg イトカワの形成史。(1)原始太陽系星雲でコンドリュールなどの起源物質が集積し、イトカワの母天体を形成。(2)直径約20kmに成長し、天体内部が800℃程度まで加熱。赤は高温部分(LL5-6)。緑は低温部分(LL4)で、起源物質の情報を残している。(3)天体が冷却後、イトカワ母天体上で大きな衝撃現象が起こり、天体を破壊。(4)破壊された天体のかけらは、ほとんどが宇宙空間に散逸。(5)一部のかけらが再度集まり、イトカワを形成。LL4-6の角礫岩形成。(6)宇宙風化作用が進行し、現在のイトカワへ進化。
画像提供:東北大学
関連サイト

放射光科学研究施設 フォトンファクトリー
KEK|はやぶさ微粒子分析プロジェクト
JAXA|米科学誌「サイエンス」における「はやぶさ」特別編集号の発行について
HAYABUSA特設WEBサイト - 東北大学大学院理学研究科・理学部
JAXA|小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)
Science - Hot Topic: Hayabusa - Dust from Itokawa

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