プロジェクトリーダー:瀬戸 秀紀
摩擦や潤滑という現象は、我々の身の回りのあらゆる場所で起きていますが、摩擦・潤滑を起こしている界面で何が起きているかについては、未だに解明されていない点が多く残されています。例えば、アモントンとクーロンが提唱した、(1) 摩擦力は見かけの接触面積に依存しない、(2) 摩擦力は荷重に比例する、(3) 動摩擦力は静摩擦力より小さく、速度に依存しない、という法則が広い範囲で成立することがよく知られていますが、この法則に関する統一的な説明は未だになされていません。
摩擦・潤滑を起こしている界面では、分子や原子といったミクロスケールからマクロスケールに至るまでの、様々なスケールの現象が複雑に絡み合って、全体の現象を形成しています。その全貌を解明するためには、摩擦・潤滑界面のその場観察を様々なサイズスケールで、とくに、解明されていない点の多いミクロスケールで行うことが必要です。
本プロジェクトでは、中性子やミュオンを利用して、摩擦・潤滑界面におけるミクロスケールでの構造と運動状態を観察することで、摩擦や潤滑の現象の本質を明らかにしようとしています。
プロジェクトリーダー:中尾裕則
強相関電子系では、電子の局在状態と遍歴状態の狭間で、高温超伝導、巨大磁気 抵抗効果といった特徴的な物性が頻繁に発現する。例えば、強相関電子系で発見 された超伝導体は、スピン・電荷の秩序状態が抑制され消失する量子臨界点近傍 に一般に位置していることが知られている。従って、局在性と遍歴性の競合した 電子状態の研究が、新奇物性発現メカニズムの解明の上で極めて重要となる。本 研究課題では、CMRCで利用できるX線・中性子・ミュオンを相補的に利用し、こ れまで注目してきた局在性の強い電子(遷移金属 3d電子, 希土類 4f電子) だけ なく、遍歴性の強い電子(酸素2pなど)状態、さらに これらの軌道の混成状態、 特に局在相側で出現が期待される軌道混成秩序状態の定量的な評価を目指す。ま た、外場(磁場、圧力、温度)により遍歴性と局在性を制御することで、系の電 子自由度(電荷・スピン・軌道)の秩序状態だけでなく、「軌道混成」状態をパ ラメータとした物性研究を行う。最終的に、遍歴性と局在性の狭間で出現する新 奇な物性発現機構に、軌道混成状態をパラメータとした研究により、迫れるもの と期待できる。
プロジェクトメンバープロジェクトリーダー:門野良典
局在電子系(=絶縁体)においては、「幾何学的フラストレーション」のもたら す複雑・多彩な電子構造とダイナミクス、およびその背後にある興味深い物理が 過去30 年あまりに渡って明らかにされてきた。具体的には競合する相互作用に よる非整合・長周期構造、逐次的なエネルギー階層構造と自己組織化、巨視的な 縮退度に伴う大きな揺らぎの効果、弱い臨界発散と新しい臨界普遍性、フラスト レーションによって平均化されない弱い効果の出現、等である。一方、遍歴電子 系(=金属)についてもこのような幾何学的フラストレーション(=三体の電子 相関)は新機構による「重い電子状態」、高温超伝導をもたらす可能性がある 「共鳴原子価(RVB) 状態」、さらには「e/2 分数電荷(「セミオン」)状態」と いったエキゾチックな準粒子励起など物性科学で注目される効果をもたらすと予 想されるが、その詳細はほとんど明らかになっていない。本研究では、このような相関を局在電子系のそれと区別するために、仮に「幾何学的電子相関」と呼び、 またそれにより異常金属性を示す物質を「フラストレート金属」と呼ぶ。我々はこれまで導電性スピネル酸化物LiV2O4が示す「重い電子状態」がフラストレー ト金属の異常と見なされるべき特異な揺らぎの存在をミュオン・スピン回転法 (SR)により示したが、 本プロジェクトでは、金属伝導に対する幾何学的フラストレーションの効果の解明を目指すものである。
プロジェクトメンバープロジェクトリーダー:熊井玲児
分子性結晶は、構成分子、分子構造、分子配列という複数の自由度をもち、 それらの組み合わせによって多彩な物性を発現する系である。一見複雑に見 える構造も、分子に内在する自由度と、分子間の相互作用という複数のパラ メータに帰着させることによって種々の物性発現機構の理解が可能である。 分子に内在する自由度は、分子合成、あるいは分子配座によって変化させる ことができ、格子点を設計可能であると言い換えることができ、 これは他の物質群にはみられない特徴である。また、分子性結晶の持つもう ひとつの特徴として、格子の柔軟性に由来し、外場(温度、電場、圧力など) に敏感な応答を示す点が挙げられる。外場による物性と構造の変化に関する 知見は、新規分子の設計指針を与え、機能性分子集合体あるいは有機エレク トロニクス材料開拓のための重要な知見ともなり得る。 CMRCで利用可能な種々のプローブ(放射光・中性子・ミュオン)を用いることで、 これら分子性結晶のもつ自由度及び外場による構造変調を明らかにすることが できると期待され、本プロジェクトでは、それらの構造的知見をもとに、 分子性結晶の見せる多種多彩な物性の発現機構を理解することを目的とする。
プロジェクトメンバープロジェクトリーダー:組頭広志
遷移金属酸化物は、銅酸化物の高温超伝導、Mn酸化物の超巨大磁気抵抗効果に代表される異常物性を示すことから盛んに研究されてきた。これらの異常物性は、電荷・スピン・軌道の自由度の競合により生じている。つまり、この自由度をヘテロ構造や量子井戸構造といった「超構造化」により制御することで、バルクでは発現できないような物性を示す新規物質の開拓が可能である。近年、酸化物薄膜作製技術の発展により、強相関酸化物における原子レベルでの構造制御が現実のものとなっており、この「超構造」を用いた強相関酸化物の研究が物性物理学の大きなトレンドとなっている。この強相関酸化物における超構造研究を推進するためには、酸化物超構造内の数nm領域で発現する新奇な量子(電荷・スピン・軌道)状態を精密に決定することが鍵となる。そのため、本プロジェクトでは、放射光・中性子・ミュオンといった量子ビームの特長を駆使して酸化物超構造の量子状態を明らかにし、その知見に基づいて新たな量子物質を設計することを目的とする。酸化物分子線エピタキシーという「作る」技術と量子ビームという「見る」技術の高いレベルでの融合により、酸化物超構造を用いた新たな新奇物性の開拓を目指す。
プロジェクトメンバープロジェクトリーダー:雨宮健太
磁性金属,強相関電子系物質,希薄磁性半導体などからなる,原子層レベルで制
御された磁性薄膜・多層膜の,表面・界面における原子構造,磁気状態,および
電子状態を明らかにし,基礎科学からスピンエレクトロニクス材料の開発といっ
た応用までを視野に入れた先端的な研究を行う。
原子レベルで制御された磁性薄膜・多層膜は,垂直磁気異方性や巨大磁気抵抗効
果など,バルク磁性体にはない特長を示すことから,いわゆるスピンエレクトロ
ニクス材料としてはもちろん,基礎科学としての観点からも盛んに研究されてい
る。こうした薄膜磁性体において,表面や界面がその磁性の発現に対して決定的
な役割を果たすことは当然であろう。
例えば強磁性体/MgO/強磁性体という構成からなる三層膜は,極め
て大きなトンネル磁気抵抗効果(磁場によってトンネル抵抗が異なる現象)を示す
ため,磁気記録の読み取りヘッドとして近年の高密度化に大きく寄与するととも
に,これを利用した不揮発性かつ高速書き換えが可能な磁気メモリも実用化段階
にある。こうした三層膜(磁気トンネル接合と呼ばれる)においては,強磁性体と
絶縁体の界面のまさに1原子層がどのような化学状態・磁気状態になっているの
かが,素子としての性能に大きく寄与することが,計算等によって明らかになり
つつある。したがって,界面の磁性と化学状態を知ることが,より高性能な素子
を設計するうえで必須である。
また,同じくスピンエレクトロニクス材料の候補として,強相関電子系物質や希
薄磁性半導体にも注目が集まっている。例えば強相関電子系物質は,温度,圧力,
組成などによって多様な物性を示すことがよく知られており,巨大磁気抵抗効果
も報告されている。また,希薄磁性半導体は,半導体であるがゆえにデバイスへ
との相性がよく,次世代のスピンエレクトロニクス材料として期待されているが,
特に室温における強磁性の発現が重要なポイントとなっている。これらの物質は,
基本的にはバルク磁性体であるが,最近,異種の強相関電子系物質の界面におい
て特異な磁性が注目を集めている。また,希薄磁性半導体についても,薄膜を利
用することによって新たな性質を発現させる試みが行われており,表面・界面の
状態を知ることが重要になりつつある。
一方,非常に基礎科学的な側面では,例えば極めて単純なAu/Co/Auといった金属
薄膜でさえも,AuとCoの界面の原子構造と磁気状態はほとんど明らかになってい
ない。この薄膜は面直磁気異方性を示すことが知られているが,そのような磁気
異方性の発現において界面の原子構造,磁気状態,および電子状態が極めて重要
なことは疑いの余地がない。また,薄膜の表面にCOのような分子や原子が吸着す
ることによって,単に表面の磁化が減少するといったことではなく,薄膜全体の
磁気異方性が変化することも報告されており,分子による磁性の制御という意味
で興味深い。
本研究の目的は,放射光,中性子,ミュオンといったプローブを相補的に用いる
ことによって,上述のような磁性薄膜・多層膜の界面における原子構造,磁気状
態,および電子状態を,原子層レベルで明らかにすることである。
プロジェクトリーダー:和田健
Surface and near-surface structures have large effects on the properties of industrial materials, especially those used for nanoelectronics devices and as catalysts. To develop those materials efficiently, definitive knowledge of the material surface and near-surface structures is essential.
Recently, it has been revealed that reflection high-energy positron diffraction (RHEPD), a positron counterpart of reflection high-energy electron diffraction (RHEED), is an ideal method for solid surface and near surface structure analysis. In contrast to the electron, the positron is totally reflected from the material surface when the glancing angle is smaller than a certain critical angle because of the positive crystal potential energy for the positron. In the total reflection condition (e.g., < 2º for Si with 10-keV positrons, which is wide enough for the typical observation angle range of < 6º), the positrons are reflected from the topmost surface. This method also gives information on the near surface structure when the glancing angle is larger than the critical one without background signals from the deeper atoms. Emphasizing the advantage of using total reflection, we propose renaming the RHEPD method as total-reflection high-energy positron diffraction (TRHEPD).
We have started a project "Surface structure and electronic state", which makes use of TRHEPD for surface structure analysis and other complementary methods for determining surface electronic states, e.g. angle-resolved photoemission spectroscopy (ARPES), to obtain full information at and near the surface.
We report briefly the TRHEPD experiment station at the KEK Slow Positron Facility (SPF) and present the results of determining the structure of silicene on a Ag(111) surface performed in fiscal 2013 together with that of the structure of Pt-induced nanowires on Ge(001) in the preceding fiscal year as the first report on this project.
プロジェクトリーダー:瀬戸秀紀
ソフトマターとは、高分子や液晶、両親媒性分子等の「やわらか」な物質系の総称である。これらは単独で、あるいは混合されることにより液体でも固体でもない秩序を持つ。その空間スケールとしては原子・分子レベルからナノ、マクロのスケールに至っていて、階層性を持っている。また、各階層において独自の動
的構造を持っていて、ダイナミクスにおいても階層性を示す。このような特徴を元に、金属や半導体などでは見られないような特異な物性を示すことが多く、工業的にも広く応用されている。更にソフトマターは生物の基本構成物質であり、ソフトマターの理解は生物学の発展にも寄与する。
本研究では、このようなソフトマターの性質を物理学的な観点から明らかにする。中でも階層構造が自発的に秩序化する要因を明らかにする。とりわけ、非平衡状態において形成される秩序に着目し、その動的構造を明らかにする。
プロジェクトリーダー:大友季哉
Hydrogen plays important roles in material & life sciences and bridges fundamental science and engineering. There are many unsolved issues related to hydrogen: hydrogen bond, hydrogen induced properties such as magnetism, superconductivity, embrittlement, thermal conductivity, hydrogen absorption/desorption mechanism on materials surface, activation of hydrogen near the surface of photo catalyst and so on. Isotope effects and/or quantum effects are dominant for these properties, for example, inverse isotope effects on the superconductivity of palladium.
Quantum beams such as neutron, X-ray and muon are expected to observe the position of hydrogen, bonding of hydrogen with surrounding atoms and so on. However, none of these beams can observe all the nature of hydrogen in materials: neutron can observe nuclear of hydrogen but electron, X-ray can observe electron but protons and muon can observe excitation state of hydrogen but muon-trapped site. It is needless to mention that these beams are truly comprehensive to observe hydrogen in materials. This project is formed with neutron, synchrotron and muon beam specialist for hydrogen observation and is aiming at establish observation of quantum nature of hydrogen in materials through exchanging information of state-of-the-art technique and projects with external funds. The core members of this project are follows: T. Otomo (neutron, IMSS/KEK), S. Ikeda (neutron inelastic measurements, IMSS/KEK), K. Ikeda (in-situ neutron diffraction, IMSS/KEK), H. Ohshita (in-situ neutron diffraction, IMSS/KEK), O. Yamamuro (neutron quasi-elastic, ISSP/Tokyo Univ.), H. Abe (in-situ XAFS, IMSS/KEK), A. Machida (synchrotron under high pressure, QUBS/JAEA), Y. Harada (high-resolution X-ray emission spectroscopy, ISSP/Tokyo Univ.), D. Sekiba (high-resolution X-ray emission, Tsukuba Univ.) and K. Shimomura (muon, IMSS/KEK). The project member will be extended flexibly at the time when each (sub-) project is formed.
プロジェクトリーダー:近藤忠
地球を構成する鉱物の中でも、鉄を主とする遷移金属と水素を主とする軽元素は、 最近の研究から特に重要と考えられている。本研究ではこの2つの成分に着目し、 これらの元素を含む主要鉱物の高温・高圧下における挙動に関して、 結晶構造変化・磁気構造変化などの観点から、従来のX線を用いた回折法の他に、 各種のX線分光法、また中性子散乱法を用いた実験手法を確立し、新しい 地球観を構築することを目的としている。
プロジェクトメンバープロジェクトリーダー:村上洋一
Japan is reliant on imported supplies of actinide and rare-earth elements from foreign countries. Thus, there is a risk of a supply shortage of rare elements induced by the export control policy of resource-rich countries and the rapid increase in global demand of these elements. In order to avoid this situation, the functional substance is not composed of the rare elements but it is necessary to exhibit its function by a common element. For the purpose of achieving a strong comeback in materials science of fierce competition, national project "Element Strategy Project" was started from 2012. In the element strategy project, four areas directly competitive to Japanese industry were selected: electronic, magnetic, battery, and structural materials. We are aiming to develop entirely new material that does not use rare elements. Therefore in each material region the formation of the different fields collaborative research center with (1) material creation (2) theory of electronic state (3) analysis and evaluation are required.
For electronic materials region, Tokyo Institute of Technology (representative supervisor: Prof. Shigeo Hosono) was adopted, deputy base of the material evaluation and analysis the KEK (agency supervisor: Prof. Yoichi Murakami). In the Tokyo Institute of Technology for element strategy "TIES", we develop a material open based on successful experience far away from development policy, and pioneer a frontier element of electronic material to build new guidelines of material design, and then by making a material for practical use in the harm less elements it is intended to open up new material science. To achieve this goal, by the support of the theoretical calculations and advanced evaluation technology, we develop the effective system to create new materials, new high performance electronic materials containing no toxic element. In the KEK deputy base, we research the electronic structure, magnetic structure of the system, and the local structure of light elements such as hydrogen and oxygen in the material that material creation group was synthesized, those are precisely determined by using the synchrotron radiation and neutron scattering. The precise electronic structure of the interface and ultra-thin film also can be observed and evaluated by visualization of the depth distribution of electronic and chemical states. We will establish new technique that can further determine the magnetic phase diagram, the degree of spin freedom, identification of the charge state and hydrogen stable position measurement by using the muon.
プロジェクトリーダー:小野寛太
Elements Strategy Initiative Center for Magnetic Materials (ESICMM) at National Institute of Material Science (NIMS) put its goals on (1) laboratory-scale synthesis of mass-producible high-performance permanent magnets free of critical scarce elements for the next generation and (2) framework-building and provision of basic science and technology that are needed in industrial R&D activities. For these goals, ESICMM focuses on theoretical search and mining of new permanent magnet materials, and simultaneously pursue every possibility of processing technology to improve the existing high-performance permanent magnet materials through cooperative activities in three research fields of computer physics, structural and property characterization, and material processing. Another important mission of ESICMM is to edify scientists who will contribute to sustain future developments in magnetic functional materials.
In CMRC, "in situ analysis using neutrons and x-rays" project has been started in July 2012 as an analysis group member of ESICMM. Complementally use of neutrons at J-PARC/MLF and synchrotron x-rays at Photon Factory is very useful in the characterization of magnetic materials from atomic scale to micrometer scale.
Figures show some results in the project. Figure 1 indicates the magnetic structure of Nd2Fe14B permanent magnet obtained by neutron powder diffraction at iMATERIA beamline of J-PARC/MLF. We have successfully determined the magnetic structure using pulsed neutrons for a short beamtime about an hour. Figure 2 shows the spin-wave dispersion of Nd2Fe14B permanent magnet determined by neutron Brillouin scattering at HRC beamline of J-PARC/MLF. Figure 3 shows the single crystalline analysis results of Sm2Fe17N3 permanent magnet using x-ray diffraction system at Photon Factory.