物質構造科学研究所の新領域開拓室は、統合型量子ビーム科学 の構築に向けて、量子ビーム施設を連携・統括し、量子ビームの種類に依らない共通技術開発と人材育成を行い、国内外の各施設にも展開を図ることで、新領域開拓機能の強化を行うとともに大学等の研究力強化に資することを目的に2023年度、2024年度の2年計画の概算要求で整備された新組織です。
以下のような4部構成となっています。1部門当たり教員2名程度、研究員・技術員・支援員を2、3名程度配置する計画になっています。
大学共同利用のための大型量子ビーム施設の端緒を物構研放射光実験施設PFが開いてから40年以上となり、国内量子ビーム施設の増加によるそれぞれの利用者人材の増加が続いています。PFのあとに続いた量子ビーム施設(特に共用施設)も運用後20年程度を経て、今、施設系人材の世代交代時期になっていますが、人材不足が非常に深刻になっています。そのため、本部門では人材源である大学の共同利用・共同研究拠点、大学共同利用機関に置かれた量子ビーム施設の学術連携ネットワーク(物構研を核として構築済み)をベースに、施設系若手人材(教員、高度専門職)を相互に育成・輩出・長期派遣するプログラムを立ち上げ、司令塔的な役割を果たします。2007年度〜2020年度に活動した放射光を中心とした光ビームプラットフォームを継承し、他の量子ビームにも拡張しつつあります。
【参照】光ビームネットワーク https://photonbeam.jp/
AI・機械学習を活用した測定・解析の自動化の技術をさらに高度化することで、様々なマルチプローブ研究のニーズに応えます。これまでハードルの高さゆえにマルチプローブ利用を行っていなかった研究者に対して、リモート測定を含めた、ポスト・コロナ時代における新たな研究展開をもたらします。
X線イメージングや電子顕微鏡の技術を使いながら、X線(電荷なし)や電子(電荷あり)よりも透過性の高い中性子(電荷なし)やミュオン(電荷あり)にそれぞれ置き換えることで、試料厚に制限が少ない新規透過イメージング技術(X線→中性子)・新規透過顕微鏡技術(電子→ミュオン)の開発を行うとともに、試料の扱いやデータ解析などの共通化を進めます。3次元像を得るためのCT技術を組み合わせることで、コントラストだけではなく、元素の分布に加え、それぞれの化学状態分析も行う手法開発に取り組みます。
実材料そのままで計測を行う非破壊分析技術の開発により、各量子ビームの特性が違うことを利用して試料の多面的な評価をマルチプローブ・マルチスケールで行うとともに、試料の扱いやデータ解析などの共通化を進めます。X線励起や電子線励起では蛍光分析がよく知られていますが、さらに透過性の高い負ミュオンビームを使った蛍光分析(電子→負ミュオン)を使うことで、文化財、生命系、化学反応・電気化学反応系など、保管容器中、反応容器中であっても大気中でそのまま観測することのできる手法の開発と応用拡大を進めます。また、稀少な試料・史料を安心して保管したり測定準備をしたりできる環境整備も進めます。