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所要時間:約6分

第38回 ICHEP国際会議の参加者の集合写真/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> Fermilab/Reidar Hahn

第38回 ICHEP国際会議の参加者の集合写真/ Fermilab/Reidar Hahn

2016年8月3日から10日まで、アメリカ・シカゴで、第38回 ICHEP国際会議が開催されました。

ICHEP国際会議は高エネルギー物理学に関する国際会議で、素粒子物理学・宇宙物理学/宇宙論・加速器科学に関わる実験・理論の研究者が一同に集い、最新の結果および将来計画について議論する場です。 隔年開催であり、次回は2018年に韓国・ソウルで開催されます。

今回の会議には過去最高の1400名を越える研究者が参加しました。 若手研究者も多数参加し、4日から6日までの分科会では600を越える口頭発表が行われ、ポスターセッションは500枚を越え大いに賑わいました。

以下では、本会議中に取り上げられたいくつかの研究トピックのハイライトと、会議期間中に発表されたプレスリリースに関して簡単に紹介します。


ニュートリノ振動実験:CP対称性の破れの解明への第1歩

「T2K実験の最新結果と将来計画」について発表する岩本康之介氏(ロチェスター大学)/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

「T2K実験の最新結果と将来計画」について発表する岩本康之介氏(ロチェスター大学)/ KEK IPNS

T2K実験グループは、6日午後に行われた「T2K実験の最新結果と将来計画」と題した講演で、これまでにT2K実験で得られたニュートリノビームと反ニュートリノビームの全てのデータを組み合わせた解析を行いニュートリノにおけるCP対称性の破れの探索を開始し、その大きさに関して世界で初めて制限をつけた測定結果を発表しました。 その結果、ニュートリノと反ニュートリノで電子型ニュートリノ出現が同じ頻度では起きない可能性が高く、CP対称性の破れが90%の信頼度で示唆されました。 これは、今後T2K実験を継続してデータを取り続けると、ニュートリノのCP対称性が破れていることを期待させる結果で、これからもニュートリノが私たちの宇宙に対する理解に新しいブレークスルーをもたらし続けてくれることを期待させます。

T2K実験はこれまでに、当初の実験計画の20%にあたる統計データの収集を行ってきました。 今後は、J-PARC加速器やニュートリノビームラインの増強を行い、ビーム強度を向上させ、2020年頃には目標である7.8 × 1021 POT(標的に照射した陽子数; ニュートリノ実験の統計量を示す指標)に到達する予定で、さらに2026年頃には現在の約13倍である20 × 1021 POTへと増強させることでニュートリノのCP対称性の破れを99.7%の信頼度で検証することを計画しています。

この発表の後にはプレス向け説明会も開催されました。 詳細はKEKプレスリリース(PDF)をご覧ください。

LHC実験:エネルギーフロンティアの開拓へ邁進

[ATLAS実験の2光子共鳴の探索結果](https://indico.cern.ch/event/432527/contributions/1072336/)を発表するBruno Lenzi氏/<i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

ATLAS実験の2光子共鳴の探索結果を発表するBruno Lenzi氏/ KEK IPNS

LHC実験グループからは、重心エネルギー13 TeV(テラ電子ボルト)での陽子・陽子衝突による新しい解析の結果が多数発表され、名実ともに「エネルギーフロンティアの開拓」に突き進んでいることを示すのに相応しい会議になりました。

LHC実験は今年の5月にデータ収集を再開したばかりですが、加速器の性能向上が著しく、わずか3ヶ月足らずの運転でそのデータ量は2015年の5倍を越えました。 衝突型加速器の粒子衝突頻度を表すルミノシティと呼ばれる指標は、6月に設計値に到達し、その後も期待を上回るスピードで世界記録を更新しています。

5日午前には、昨年話題になった約750 GeV(ギガ電子ボルト)の質量を持つ未知粒子探索の続報が発表されました。 2015年のデータ解析では、2つの光子の共鳴状態とも解釈できるわずかな事象数過剰があり、標準理論を超える新粒子ではないかと期待されていました。 会場が立ち見で溢れかえるほど、研究者の関心が高いことをうかがわす発表でしたが、データを大幅に増やしての再探索の結果、2015年の事象数過剰は統計的なふらつきであったようです。

この他にも、ATLAS実験やCMS実験グループからは、ヒッグス粒子やトップクォークなどのより精密な測定結果や、標準理論を超える物理の候補である超対称性粒子などの未知粒子の探索をより高い感度で継続中との発表がありました。 これらの成果は、高いルミノシティで得られた大量のデータを素早く解析できた結果によるものです。

これらの発表に関するプレス向け説明会も開催されました。 詳細はCERNのプレスリリース(英語)およびATLAS日本グループによる和訳をご覧ください。

B物理:SuperKEKB加速器、稼働開始!

SuperKEKB加速器が順調に稼働開始したことを発表する大西幸喜氏(KEK加速器)/ <i class='fa fa-copyright' aria-hidden='true'></i> KEK IPNS

SuperKEKB加速器が順調に稼働開始したことを発表する大西幸喜氏(KEK加速器)/ KEK IPNS

8日午前の本会議では「SuperKEKB加速器の稼働開始」と題し、KEK加速器研究施設の大西幸喜准教授が講演しました。 SuperKEKB加速器は、ルミノシティ世界一を目指した加速器で、前身のKEKB加速器と比べて約40倍のルミノシティを設計目標としています。 運転を停止したKEKB加速器は、約6年の歳月を掛けて様々なアップグレードを施され、生まれ変わった新たな大型加速器として今年の2月に稼働を開始しました。

6月末までのPhase1と呼ばれる段階では加速器のコミッショニングを行っていました。 電子リング・陽電子リングともに、その立ち上げからビーム周回・蓄積までたいへん順調に進み、ビーム電流は1 A(アンペア)に到達、ビーム品質の指標であるエミッタンスも8 pm(ピコメートル)という低エミッタンスを達成しています。

SuperKEKBプロジェクトは3段階で計画されています。 Phase1はいわゆる三段跳びでいう「ホップ」の段階でした。 今後はビーム衝突点付近へ最終収束電磁石を設置するなどしてナノビームサイズでのビーム衝突に向けた改良を加え、2017年秋からのPhase2で「ステップ」、2018年秋からのPhase3では、標準理論を超える物理現象を探索するための「大ジャンプ」を目指します。


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