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last update:04/10/14  

   image ニュートリノの質量とは    2004.10.14
 
        〜 ニュートリノの性質と二重ベータ崩壊 〜
 
 
  ニュートリノは電子の仲間のレプトンという素粒子の一種です。電気的には中性なので、中性微子(ちゅうせいびし)と呼ばれることもあります。原子核のベータ崩壊現象を説明するために1930年にパウリによって理論的に存在が予言されて以来、謎の多いこの粒子は長い間、質量を持たない、と考えられてきました。

ところが、以前の記事でもご紹介したように、1998年にスーパーカミオカンデ検出器によってニュートリノも質量を持つことが発見され、その後、K2K実験によって人工的に作り出されたニュートリノによる実験でも、質量の存在が99.99%の確度で検証されました。

質量が有ることは分かったのですが、その大きさは一体どのくらいでしょうか。この疑問に答えるために世界中で種々のニュートリノ質量測定器が提案され、研究開発が進められています。このことについて以下に説明しましょう。

ニュートリノの質量を測定する

原子核がベータ崩壊をする時、弱い相互作用によって電子が放出されます。この時の電子のエネルギーを測定すると、運動エネルギーが連続的に分布していて、エネルギー保存則を破っているように見えます。

1930年に物理学者のパウリはこの謎を解くために、質量を持たず、電気的に中性な粒子が足りない分のエネルギーを担っている、という理論を提案しました。この粒子は「小さな中性の粒子」という意味でニュートリノと名付けられました。

ベータ崩壊の時に、ニュートリノが電子と同時に放出されていれば、両方のエネルギーを合計すると一定の値になってエネルギー保存則が成り立ちます。このときニュートリノに質量があると、その大きさに応じて電子の運動エネルギー分布が変わります。つまり、電子の運動エネルギーを精密に測定すると、ニュートリノに質量があるかどうかがわかることになります。これはニュートリノの質量を直接に測定しようという試みです。

これまでに世界中でいくつかの原子を使ってベータ崩壊による電子の運動エネルギー分布が詳細に調べられましたが、明確な変化は認められませんでした。この実験からは現在では、ニュートリノ質量は2.2電子ボルトよりも小さいという結果が得られています。(1電子ボルトは約5グラムの1京分の1のさらに1京分の1)

最近の宇宙観測の結果からはニュートリノ質量はさらに一桁以上低いことが予測されています。言い換えれば、現在までの測定精度では、ニュートリノに質量がないと考えても妥当だったのです。

スーパーカミオカンデやK2Kなどの実験で、ニュートリノに質量があることまではわかりましたが、これまでの実験では質量の値そのものは決定されていません。

さらに1桁以上低い領域までを調べる唯一の実験方法として原子核の二重ベータ崩壊現象の半減期を測定する方法があります。この方法について、もう少し詳しく説明しましょう。

二重ベータ崩壊とニュートリノ質量

二重ベータ崩壊とは原子核(親原子核)が同時に2つのベータ線(電子)を放出して原子番号が2だけ大きい原子核(娘原子核)に移る現象です(図3)。このとき弱い相互作用の標準理論に従っていれば図3の上図で示すように2つの反ニュートリノも放出されるので、図4に示すように2つのベータ線の運動エネルギー和は連続的に分布します。

しかし、ニュートリノに質量があると分かった以上、標準理論は破れているので、図3の下図に示すような反ニュートリノが放出されないニュートリノレス崩壊が理論上考えられます。その場合には図4の右端の線として示すようにベータ線の運動エネルギー和は親原子と娘原子の質量差に一致します。つまり、連続分布ではなく一定の値をとるという明白な違いが起きます。

この違いを実験的に検出しニュートリノレス崩壊の半減期を求めれば、半減期とニュートリノ質量の間の関係式からニュートリノ質量を導くことが出来ます。

ニュートリノレス崩壊が起きる条件

通常、物質粒子には反粒子が存在しディラック粒子と呼ばれています。特に電気量を持った物質粒子には反対の電気量を持つ反粒子が必ず存在します。ところがマヨラナという物理学者が電気量を持たない物質粒子には粒子と反粒子との区別が付かないものもあることを指摘したので、そのような粒子はマヨラナ粒子と呼ばれています。マヨラナ粒子は未だ見つかっていません。

ニュートリノがマヨラナ粒子なのか、ディラック粒子なのかは現在も大きな謎として残されています。1979年に柳田勉(やなぎだつとむ)博士がKEKの研究会で発表したシーソー機構(同年にゲルマン博士達も独立に発表)という理論はニュートリノが他の基本粒子に比べて極端に軽い理由を自然に説明できますが、そこではニュートリノがマヨラナ粒子であることが前提となっています。

ニュートリノレス崩壊が起きるためには、ニュートリノはマヨラナ粒子であるということが条件となります。逆に言うとニュートリノレス崩壊が見つかれば、ニュートリノはマヨラナ粒子であることが確認されたことになります。このことはシーソー機構を裏付けることにもなり、それ自体が大発見になります。さらに、その半減期を測定してはじめてニュートリノ質量の絶対値を求めることが出来るのです。

次回は、二重ベータ崩壊を測定する実験についてお伝えしましょう。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→DCBA実験のwebページ(英語)
  http://dcba.kek.jp
→K2Kつくば−神岡間長基線ニュートリノ振動実験のwebページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→神岡宇宙素粒子研究施設のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
→キッズサイエンティスト:クローズアップKEKのwebページ
  http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html

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[図1]
物質の基本粒子群。
拡大図(42KB)
 
 
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[図2]
コバルト60の原子核がベータ崩壊でニッケル60と電子になる例。(a)静止しているコバルト60の原子核が電子とニッケル60だけに崩壊すると仮定すると、エネルギー保存則から電子は必ずある一定のエネルギーを持つことになり、実験結果を説明できない。(b)電子とニュートリノとニッケル60に崩壊すると仮定すると、電子がいろいろなエネルギーを持つ可能性をうまく説明できる。
拡大図(19KB)
 
 
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[図3]
2通りの二重ベータ崩壊様式。
拡大図(35KB)
 
 
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[図4]
2通りの崩壊様式のベータ線運動エネルギー分布。
拡大図(12KB)
 
 
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[図5]
理論上、ニュートリノはディラック粒子である可能性とマヨナラ粒子である可能性の二通りが考えられている。ディラック粒子であればニュートリノと反ニュートリノは異なる粒子であるが、マヨナラ粒子はニュートリノと反ニュートリノの区別がない。
拡大図(27KB)
 
 
 
 

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