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last update:07/03/29  

   image タンパク質分子の形を保つ    2007.3.29
 
        〜 ジスルフィド結合をつくる 〜
 
 
  タンパク質は、アミノ酸が連なった鎖として細胞の中で合成されますが、その機能を発揮するためには正しい立体構造を取る必要があります。これまで何度も紹介してきたタンパク質の立体構造の図を思い出してみてください。リボンが複雑に巻いたり折れ曲がったりしていますが、これは、タンパク質をアミノ酸のつらなったリボンとして表現し、それがどのように畳まれて立体構造を取っているかをわかりやすく示した絵になっています。

タンパク質が正しい立体構造を保つには、分子の内部でいろいろな方法で結合を作り、構造を安定化させる必要があります。今日の話題は、その結合のひとつであるジスルフィド結合を作るタンパク質のお話です。ジスルフィド結合という強い橋を架けるタンパク質は、その力をどのように獲得しているのでしょうか。

最強の橋ジスルフィド結合

ジスルフィド結合、またはS-S結合と呼ばれる結合は、タンパク質の中に含まれるイオウを用いた結合です。この結合には、システインというイオウを含んだアミノ酸が深く関わっています(図1)。システインは、タンパク質中の含有量としてはそれほど多くありませんが、タンパク質の中の他のシステインとジスルフィド結合を作ることができます(図1右)。このジスルフィド結合は、他の結合に比べてとても強い結合なので、タンパク質はしっかりと構造を保つことができます。

このタンパク質の中のシステインが作るジスルフィド結合を利用した例として、美容院でかけるパーマがあります。髪の毛を作っているタンパク質、ケラチンにはシステインが多く含まれているので、たくさんのジスルフィド結合を作っています。このジスルフィド結合をいったん切って、髪の毛にくせをつけたままで結合させるのがパーマです。

パーマではジスルフィド結合を切ったりつないだりするのに薬品を使います。それでは生体の中では、どのようにしてタンパク質のジスルフィド結合を切ったりつないだりしているのでしょうか? 細胞の中では薬品を使うわけにはいきません。パーマのようにランダムにジスルフィド結合を作るのとは違って、細胞の中では、正しい組合せでジスルフィド結合を作らないといけないのです。

橋架けコンビの酸化力の謎

京都大学ウイルス研究所の伊藤維昭(いとう・これあき)教授らのグループは、大腸菌でジスルフィド結合を作る「橋架け屋」タンパク質DsbAを発見しました。このタンパク質の活性部位にはジスルフィド結合があり、生まれたてでまだ立体構造ができあがっていないタンパク質の2ヶ所のシステインの-SH基から水素を引き抜き、ジスルフィド結合をつくります。2つのシステインは水素を奪われているので、この過程でシステインは「酸化」されることになります。

橋架け屋DsbAは、相手を酸化すると、自分自身は還元されてしまい、もう他のタンパク質を酸化することはできません。これではとても効率が悪いので、大腸菌では、DsbAを酸化して相手を酸化できる能力を回復させるタンパク質DsbBがペアになって働くという巧妙な仕組みを持っています。この有能な相棒DsbBは、膜に足場を固めて働く膜タンパク質です(図2)。

DsbAは、いろいろなタンパク質にジスルフィド結合の橋を架けるのが仕事なので、橋を架ける能力、すなわち酸化力がたいへん強いという特徴があります。一方、相棒DsbBには2つのジスルフィド結合、つまり相手を酸化することのできる部位が2ヶ所あるのですが、どちらもそれほど強い酸化力を持っていないことがわかっていました。このことは、普通のやり方では、DsbBはDsbAの能力を回復させる力がないということを意味します。DsbBが、自分より酸化力の強いDsbAを酸化して強い橋架けの能力を回復させることができるのはなぜでしょうか?

最近の研究で、細胞内で活動エネルギーATPを作り出すことに関与している「ユビキノン」という分子が、DsbA-DsbBコンビと共同で働くことによって、DsbBによるDsbAの酸化力回復という仕事を助けているということがわかりました。ユビキノンは、細胞が酸素を取り入れ二酸化炭素を放出する細胞呼吸の過程で、その最終段階である電子伝達系で電子の仲介をしている分子で、他の分子を酸化する能力を持ちます。

この共同作業はどのような仕組みで行われているのでしょうか? 稲葉謙次(いなば・けんじ、現九州大学生体防御医学研究所特任助教授)、伊藤維昭教授の研究グループは、大阪大学産業科学研究所の村上聡(むらかみ・さとし)助教授と大阪大学蛋白質研究所の中川敦史(なかがわ・あつし)教授および鈴木守(すずき・まもる)助教授らとの共同で、DsbA-DsbBコンビにユビキノンを加えた三者の複合体の結晶構造解析を試みました。一般に、細胞膜の中に組み込まれたタンパク質、すなわち膜タンパク質は、水に溶けにくく、結晶を作るのがたいへん困難です。膜タンパク質であるDsbBについても、世界中で結晶構造解析が試みられていたにもかかわらず、今まで構造を解くことができませんでした。稲葉さんたちのグループは、4年以上の歳月をかけて実験条件を検討し、工夫を重ねてようやく構造を解くことができました。また、KEKフォトンファクトリーのNW12Aや、SPring-8のBL44XUといった高性能のビームラインを用いたことにより、小さな結晶でも解析が可能になったのです。

構造変化で強力な酸化力を獲得する名コンビ

橋架け屋の相棒、DsbBは膜を貫通する4本のαヘリックス(らせん)が基本骨格で、ユビキノンはその中に結合していることがわかりました(図3)。また、橋架け屋のDsbAとは、基本骨格から伸びたループ状の領域にあるシステインを用いて、分子間でジスルフィド結合をつくっていることがわかりました。本来は、DsbB内部でジスルフィド結合をつくっていたシステインのペアが引き離され、DsbAのシステインとペアを作っていたのです。どうやらDsbBは、DsbAとの間で選択的にシステインのペアを作ることによって、DsbAを酸化しているようです。この頼もしい相棒DsbBは、相手がDsbAのときにだけ強力な酸化力を持つタンパク質に変身するのです(図4)。

また、DsbBは酸化力の源であるユビキノン分子の力を借りて、自らの分子中にジスルフィド結合を作り出す能力を持っています。構造解析によって、ユビキノンはDsbB内の鍵となるシステインや他のアミノ酸の近くにいることが確認されました(図5)。

普遍的なジスルフィド結合形成の仕組み

大腸菌では、橋架けコンビDsbA-DsbBの他にも、DsbAが間違って橋を架けた場合にそれを修正し、正しい橋を架けるシステムも存在し、これらの役割分担によってタンパク質に正しい橋が架けられるような仕組みになっていることがわかっています(図2)。この修正を行うタンパク質DsbCは、いったんできたジスルフィド結合を外すという、酸化とは正反対の還元反応を行いますが、DsbAと非常に良く似た構造を持っています。ところが、DsbCはDsbAと違って二量体構造を取っているので、DsbAと同じようにDsbBと結合しようとしても、もう1つの分子が膜にぶつかってしまい、結合することができません。このような構造上の仕組みで、DsbBは、酸化力が必要なDsbAにだけ結合して酸化力を回復させているのです。

この研究によって、タンパク質が正しく安定な立体構造をつくるのに重要な橋、ジスルフィド結合が作られる仕組みについての理解が格段に進みました。タンパク質のジスルフィド結合の形成は、細胞の生命活動にとって重要であり、多くの細胞に普遍的に存在しています。わたしたち人間を含めた真核細胞の小胞体やミトコンドリアにも同じようなシステムがあり、そしてさらにより複雑な働きをするタンパク質の存在もわかってきました。今後の研究で、高等生物におけるタンパク質の立体構造の仕組みについてもだんだん理解が深まってくることでしょう。また、この仕組みを応用した、ジスルフィド結合を持つ有用な酵素の大量生産の可能性など産業的な面からも非常に期待されています。

この研究は米国の科学雑誌Cellの2006年11月17日号に掲載されました。


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→科学技術振興機構(JST)のプレスページ
  http://www.jst.go.jp/pr/announce/20061117-2/index.html
→京都大学ニュースリリースのページ
  http://www.kyoto-u.ac.jp/notice/05_news/
          documents/061117_1.htm

→科学新聞(11月24日 1面)のページ
  http://www.sci-news.co.jp/news/topics/200611/181124.htm
→放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
→構造生物学研究センターのwebページ
  http://pfweis.kek.jp/index_ja.html
→文部科学省タンパク3000プロジェクトのwebページ
  http://www.mext-life.jp/protein/

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[図1]
システインの構造。システイン2分子で、ジスルフィド結合(S-S結合)を作ることができる。
拡大図(9KB)
 
 
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[図2]
大腸菌のジスルフィド結合形成に関わるシステム。2つのシステインの-SH基が酸化されてSSとなることによってジスルフィド結合が導入される。この酸化経路は赤色の矢印で示した。一方、SS結合の組み換えに関わる還元経路は青色の矢印で示した。DsbAは自らのSS結合を用いて、立体構造形成途上のタンパク質のシステインペアを酸化する。その結果、還元型となったDsbAは膜タンパク質DsbBによって速やかに再酸化される。DsbBはユビキノンの酸化力を利用して自らのSS結合を創成する。一方、誤った組合せのSS結合は、ジスルフィド異性化タンパク質であるDsbCが矯正する。DsbCはDsbBによって酸化されることはなく、別な膜タンパク質DsbDの働きで還元型に保たれる。これら酸化システムと還元システムが互いにクロスすることなく役割を分担することによって、効率よく適切なジスルフィド結合を作っている。
拡大図(42KB)
 
 
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[図3]
DsbA-DsbB-ユビキノン(UQ)三者複合体の立体構造。DsbA-DsbB間で分子間ジスルフィド結合が形成されることによって、DsbB内部にシステイン残基の再配置を伴う構造変化が起こり、DsbAに対する酸化能力を獲得している(図4参照)。
拡大図(84KB)
 
 
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[図4]
単独での酸化力が弱いはずのDsbBがDsbA酸化能力を獲得する仕組み。DsbB-DsbAの複合体においては、DsbBのペリプラズム領域がDsbAによって捕捉され、そこに含まれるCys104とCys130のペアは互いに引き離され、Cys130はもう1組のペアであるCys41-Cys44ペアに接近する。この構造変化により、DsbBからDsbAへの逆電子移動は防がれ、DsbBからDsbAへの正しい電子移動反応のみが促されると考えられる。DsbBは特異的な基質であるDsbAと結合することによって、酸化力を変動させ、DsbAを選択的に酸化できる超強力な酸化酵素に変身すると考えられる。
拡大図(40KB)
 
 
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[図5]
ジスルフィド結合の反応スキーム(上)とDsbBとユビキノン(UQ)の反応中心の構造(下)。ユビキノン(UQ)はDsbBのCys41とCys44の近傍に位置し、Arg48の助けを借りてCys44との間に電荷移動錯体や付加生成物を形成する。その結果、Cys41-Cys44ジスルフィド結合が創り出される。
拡大図(117KB)
 
 
 
 
 

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