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小包みを作る・荷解きをする運び屋 2006.11.2 |
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〜 2つの仲介役と働く運び屋FIP 〜 |
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生命の最小単位である細胞では、ありとあらゆる生命活動が行なわれていて、小さな「社会」が形づくられています。細胞の中では生命を司る分子であるタンパク質が絶えず作られていますが、それらのタンパク質が機能するために働いているのもまたタンパク質たちです。現実の社会ではいろいろな役割の人が働いているのと同じく、細胞の中でもいろいろなタンパク質が役割分担をして整然と仕事をこなしています。細胞の中には、脂質二重膜により囲まれたさまざまな細胞小器官(オルガネラ)が存在し、タンパク質はそれぞれのオルガネラでそれぞれの仕事をしています。正しく仕事をするためには、それぞれのタンパク質は正しいオルガネラに確実に輸送されなければなりません。この、タンパク質を正しい場所に送り届ける役割をしているのが、これまでも何度かこのニュースで取りあげている「運び屋タンパク質」の仲間たちです。KEKフォトンファクトリーでは、これまでにも多くの運び屋タンパク質の立体構造を明らかにしてきましたが、最近また新しい運び屋タンパク質の構造が明らかになりました。 タンパク質の小包み、小胞輸送 タンパク質は、細胞の中でむき出しで運ばれているのではありません。それでは、どうやって運ばれているのか、今わかっていることを見てみましょう。図1は、タンパク質(ピンクの丸)があるオルガネラ(供与オルガネラ)から別のオルガネラ(標的オルガネラ)に運ばれる過程の模式図です。積荷となるタンパク質は、脂質二重膜により囲まれたオルガネラの一部が出芽し、輸送小胞と呼ばれる小さな小包みの中に入って別のオルガネラに運ばれます。標的オルガネラに送り届けられた輸送小胞は、標的オルガネラの脂質二重膜と融合し、積荷がオルガネラの中に入る、という仕組みです。 今日の主役は、この輸送小胞の出芽と融合の両方の過程で働く運び屋タンパク質、FIP3です。この運び屋は、出芽のときはARF、そして融合の過程ではRabというそれぞれ別の仲介役タンパク質の助けを借りて、積荷を小包みにしたり、その小包みの荷解きをしたりしているのです。 別の部分を利用してARF、Rabを認識 ひとつのタンパク質が、小胞の出芽と融合という別な仕事を正しくやりとげるためには、仲介役ARFと一緒に仕事をするときには小包みを作り(出芽)、そして仲介役Rabと一緒に仕事をするときには荷解き(融合)を行なわなければなりません。そこでまず、運び屋FIP3が、どの部分でARFとRabという仲介役を見分けているのかを調べることにしました。 途中で切れたいろいろな長さの運び屋FIP3を大腸菌に大量に作らせ、ARFとRab、それぞれに結合する能力を持っているかどうか詳しく調べ、結合できる最小領域をつきとめることができました(図2)。この2つの仲介役と結合する領域は重なりがなく、運び屋FIP3は別の領域を利用して2つの仲介役を認識していることが明らかになりました。 分解されて偶然に得られた結晶 運び屋FIP3が仲介役Rabをどのように認識しているかを調べるために、FIP3とRab11の複合体の結晶を作ろうとしました。まず、FIPのうち、ARFとRabの両方を認識する領域の部分を使って複合体を作り、結晶化を行なってみました。結晶化に用いたサンプルは、非常に分解されやすく純度も良くないものでしたが、針のような結晶を得ることが出来ました(図3a)。 この針のような結晶は、このままでは構造解析ができませんが、この結晶をよく分析してみると、結晶に含まれているのは、たまたま分解された短いFIP3がRabと複合体を作ったものばかりでした。つまり、最初に使ったFIP3は、ARFとRabの両方を認識する最小単位を含んだ領域で、完全なFIP3に比べ短いものではあるのですが、それでもよい結晶を作るには長すぎたのです。もう一度、今度はRabの認識部位だけを含んだ短いFIP3を作り、結晶化に再挑戦して、ようやく図3bのような大きな結晶をつくることができたのです。 仲介役Rabを従える運び屋FIP3 フォトンファクトリーの放射光で明らかになった運び屋FIP3と仲介役Rab11の複合体は、図4のように、運び屋FIP3が二量体を作り、その両側に仲介役Rab11を1分子ずつ結合しているという構造をとっていました。Rab11とFIP3の結合している部分を詳しく見てみると、疎水的な相互作用(水になじみにくい領域を内側にして結合)と静電的な相互作用(電気的にプラスの部分とマイナスの部分が引きつけ合う)の両方を用いて、厳密に認識していることが明らかになりました(図5)。 仲介役Rabは、ヒトの細胞内に60種類以上存在する小さなタンパク質で、それぞれが他のタンパク質と結合して仕事をしています。これまでに、Rabと他のタンパク質との複合体で、構造解析に成功している例はたったの5例しかありません(図6のb-f)。今回得られた運び屋FIP3-仲介役Rab11との複合体の構造(図6a)は、これまでに解析されたどの複合体とも全く似ていませんでした。 この研究は、KEKの構造生物学研究センターの若槻壮市(わかつき・そういち)教授、志波智生(しば・ともお)博士(現東京大学大学院総合文化研究科助手)のグループと、京都大学大学院薬学研究科の中山和久(なかやま・かずひさ)教授のグループの共同研究で、2006年10月17日発行の(オンライン版は10月9日に公開)のProceedings of National Academic Sciences(米国科学アカデミー紀要)に掲載されました。運び屋FIPと仲介役Rab11の複合体は、仲介役Rab11が関与する複合体として最初の構造であり、その生物学的な重要性から競争も激しく、立体構造は世界の3つのグループからほぼ同時に報告されました。アイルランド・トリニティー大学のグループはFIP2とRab11の複合体をStructure誌に報告し、米国・マサチューセッツ大学医学部のグループは、KEKのものと同じFIP3とRab11複合体の構造をJournal of Molecular Biology誌に報告しています。
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