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last update:05/09/15  

   image ヤグルマギクの青色の秘密    2005.9.15
 
        〜 花の色の謎を解いた放射光 〜
 
 
  みなさんは花が好きですか? 花の色はとても美しく、わたしたちの目を楽しませてくれます。さまざまな色の花の中でも、青色の花には涼しげな美しさがあり、人々の心を捉えてきました。今日の主役は、そんな青色の花、ヤグルマギクの花の色のお話です。

色とりどりの花色をうみだすアントシアニン

花の色をつくりだしている色素にはいろいろな種類のものがありますが、なかでもフラボノイド色素であるアントシアニンは花色の中心的な存在で、オレンジ赤色から青色までの幅広い花色をつくりだします。

アントシアニン色素は、花色を決めている骨格部分(図1)に糖が結合した構造をしています。この骨格部分がOH化されたりメチル化されたりするほんのわずかな違いで、ペラルゴニジン型のアントシアニンはオレンジ赤、シアニジン型は赤、デルフィニジン型は紫から青、といったようにいろいろな花の色を作り出しているのです。アントシアニン色素は、自然界には6種類しか存在していません。非常に多様性に富んだ花の色は、たった6種類の基本構造から産み出されているのです。

ところが、花の色の秘密はこれだけではありませんでした。不思議なことに、同じ種類の色素を持つ花でも花色の著しく違うものがあるのです。たとえば、赤いバラ(図2上)、紫色のストック、青紫色のマルバアサガオ、そして青いヤグルマギク(図2下)は、すべてシアニジン型のアントシアニンで花の色をつくっているのです。

図1に戻ってみましょう。アジサイやツユクサなど青い花の大半は、デルフィニジン型のアントシアニンを持っています。しかし、同じ青い花でも、ヤグルマギクは赤いバラと同じシアニジン型アントシアニンという赤い色素で青色を出しているのです。

赤いバラ、青いヤグルマギク

ヤグルマギクは、赤いバラと同じ色素をもっているのに、花の色が青いのはなぜでしょうか。

この謎は、1910年代に花の色素が発見されて以来、90年近く科学者の間で議論の的になっていました。最初は、花びらが酸性かアルカリ性かの違いによるというpH説が出されましたが、その後、コピグメント説(コピグメント=補助色素が関与している)、金属複合体説など、さまざまな説明がされていました。このうち、金属複合体説は、日本の植物生理学者、故柴田桂太博士によって1919年に提唱されたものです。赤いシアニジン型アントシアニンが青色になるのは、アントシアニンと金属が錯体を作るためである、という考え方です。しかし、この仮説を証明するためには、アントシアニンと金属の複合体の立体構造が解明されるまで、長い年月を待たなくてはなりませんでした。

4個の金属イオンで赤から青へ

武田幸作(たけだ・こうさく)東京学芸大名誉教授は、この論争に決着をつけるために、ヤグルマギクの色素の立体構造を調べることに挑戦しました。そして、ヤグルマギクの色素を再合成し、結晶化することに成功したのです。武田教授は九州大学理学部の塩野正明(しおの・まさあき)博士、KEK放射光科学研究施設の松垣直宏(まつがき・なおひろ)博士と共同で、この色素の結晶をフォトンファクトリーやSPring-8の放射光ビームラインに持ち込み、非常に高分解能の放射光X線回折データを収集し、色素の結晶構造を詳しく調べました。

その結果、ヤグルマギクの色素は、単独では赤いシアニジン型アントシアニンに、鉄、マグネシウム、カルシウムの3種類の金属イオンと、フラボンと呼ばれる有機物が結合した構造をとっていることが分かりました(図3)。色素の中心部には、鉄イオン(紫)とマグネシウムイオン(赤)が複合核を形成し、6個のアントシアニンと6個のフラボンを配位しています。カルシウムイオン(緑)は複合核と同じ軸上にあり、フラボンと結合することで色素の安定化に役立っているものと考えられました。

これまでにも、金属と錯体をつくる色素は知られていたのですが、ヤグルマギクの色素のように、鉄とマグネシウムの2つの金属イオンによる複合核と、さらに2個のカルシウムを加えた4個の金属による錯体は、今までに知られていない複雑な立体構造のものです。

Blue Rose:不可能を可能に

ヤグルマギクのアントシアニンはこのように、金属錯体を形成することで青い色を出すことが明らかになりました。バラは、何らかの要因でこの複合体ができない可能性が高いと考えられます。

ここで思い出すのが「青いバラ」です。英語でBlue Roseと言うことばは、不可能なものや実在しないものを意味するぐらい、青いバラを作るのは難しいことでした。最近、日本の会社が、デルフィニジン型アントシアニンを作る遺伝子を組み込んだ「青いバラ」を作り話題になったのを覚えている方もいるでしょう。でも、バラがもともと持っているシアニジン系の色素で青い色を出せる秘密が明らかになったことで、この結果を「青いバラ」の作出に利用できるかもしれないのです。

これまで多くの人々が挑戦してきた青いバラ。でもバラと同じ色素を持つヤグルマギクは、たった4個の金属イオンと(ほとんど無色の)フラボンのおかげで、こんなにきれいな青色を出しているのです。自然というのはほんとうに不思議なものですね。

この研究は、2005年8月11日発行の英科学誌ネイチャーに掲載されました。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

  →放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)のwebページ
  http://pfwww.kek.jp/indexj.html
  →構造生物学研究センターのwebページ
  http://pfweis.kek.jp/index_ja.html

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[図1]
アントシアニン色素の骨格部分。R1とR2の部分のわずかな違いによって、6種類のアントシアニン色素が存在し、違った色をつくりだしている。
拡大図(24KB)
 
 
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[図2]
赤いバラ(上)と青いヤグルマギク(下)。全く違う色にもかかわらず、両者は同じ色素、シアニジン型アントシアニンを持っている。
拡大図上(66KB)
拡大図下(48KB)
 
 
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[図3]
ヤグルマギクの色素の構造を2方向から見たもの。赤い骨格がアントシアニン、水色の骨格がフラボンで、おのおの6分子ずつが存在する。中央には鉄イオン(Fe3+、紫)およびマグネシウムイオン(Mg2+、赤)の2つの金属イオンが複合核を作っている。2個のカルシウムイオン(Ca2+、緑)は、複合核と同じ軸上にある。
拡大図はステレオ図になっています。右目で左の絵を、左目で右の絵を見るようにすると、2枚の絵が重なって立体に見えてきます。
拡大図上(50KB)
拡大図下(49KB)
 
 
 
 
 

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