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マグネシウムバランスを保つ 2007.11.1 |
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〜 生体膜上で働くマグネシウム輸送体 〜 |
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わたしたちの身体は、いろいろな元素でできています。有機物を作っている炭素、水素、窒素、酸素の他に、カルシウムやリン、イオウ、ナトリウム、マグネシウムといった、いわゆる「ミネラル」があります。みなさんが口にする食品やサプリメントの中にも、こういった元素の表示を目にしたことがあるでしょう。これらの元素は、生命に必要な元素ですが、過剰であっても生命にとっては有害なのです。最近、放射光を用いたタンパク質構造解析によって、ミネラルのひとつであるマグネシウムを、常に適正な濃度になるように細胞内に取り込むしくみが明らかにされました。 細胞内のマグネシウムバランス マグネシウムは、豆腐の原料である「にがり」や海藻などに多く含まれている、生命に必須な元素です。一時期、にがりダイエットが話題になりましたが、マグネシウム化合物は下剤に使われているほど下痢を引き起こす性質があり、過剰摂取は生命にとって大変危険です。一方、マグネシウムが不足する場合も、虚血性心疾患といった生命に関わる病気の原因であることが知られています。 このように、多すぎても少なすぎてもいけないマグネシウム。もともと微量な成分ですから、いつも適正な量を保つのはとても難しそうですよね。でも安心してください。生命には、マグネシウムのバランスを取るしくみがちゃんと備わっているのです。 細胞は、脂質でできた膜によって外界と区切られていますが、膜の中には、外界からの物質を取り込む仕事をしている「輸送体」というタンパク質が埋め込まれています。これらの輸送体タンパク質は、細胞内の物質の量が異常にならないように、取り込む量を絶えず調節しているのです。マグネシウムを担当する輸送体のひとつに、MgtEという名前のタンパク質があります。東京工業大学大学院生命理工学研究科の濡木理(ぬれき・おさむ)教授のグループは、フォトンファクトリーやスプリング8の放射光を使ってMgtEタンパク質の立体構造を明らかにし、この輸送体タンパク質がマグネシウムのバランスを維持する巧妙なしくみを世界で初めてつきとめました。 マグネシウムセンサーによってふたを開閉 濡木教授のグループは、マグネシウムが過剰に存在するときと欠乏しているとき、それぞれの輸送体MgtEタンパク質の構造を調べました(図1)。その結果、このタンパク質には、生体膜に埋め込まれている「膜貫通領域」という部分があり、この部分にマグネシウムが通るための「孔」があることがわかりました。そして、マグネシウムが過剰に存在するときには、らせん構造によってマグネシウムの通る「孔」がふさがれていました。 また、膜貫通領域に続いて細胞内に突き出した部分(図1)について、マグネシウムが過剰なとき、欠乏しているとき、それぞれの場合の構造を見てみると、マグネシウムが欠乏している時には、「孔」のふたが外れるような立体構造の変化が起きていることがわかりました(図3)。どうやらこの細胞内に飛び出した部分は「マグネシウムセンサー」として働いているようです。センサーが細胞の中のマグネシウムの濃度を感知して、マグネシウムの通り道のふたを開けたり閉めたりすることによって、細胞は適正なマグネシウムバランスを維持しているわけです(図4)。 生体内への物質の取り込みや排出を高度に制御している輸送体タンパク質。これらのタンパク質は生命にとってとても重要な働きを担っています。2003年のノーベル化学賞が水やカリウムの輸送体タンパク質の立体構造解析に対して与えられていることからもわかるように、多くの研究者が注目していますが、このような膜に埋め込まれた「膜タンパク質」は、構造解析に必要な結晶を作ることが最も難しいタンパク質なのです。 KEKフォトンファクトリーでは、小さな結晶でも構造解析ができるように、細くしぼられた高輝度のX線ビームを使える高性能のタンパク質結晶構造解析ビームラインを次々と建設してきました。今日ご紹介した輸送体MgtEタンパク質もそれらのビームラインがあったからこそ立体構造を解くことができたのです(図5)。 この研究は英国の科学雑誌「Nature」の8月30日号に掲載されました。
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