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現場をみてジャッジ 2008.2.7 |
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〜 国際委員会がKEKB加速器をレビュー 〜 |
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「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」と、若い刑事が捜査本部に向かって叫ぶドラマの1シーンがありましたね。加速器という巨大な実験施設を24時間休まず運転する研究所はまさに「現場」ですが、一方で、世界各国から専門家を招いて、加速器の運転実績や将来の方針について審査する会議が定期的に開かれます。昨年11月末から12月始めに開催されたKEKB加速器の国際レビュー委員会は、集まった委員が加速器の「現場」にまで “連れ回される” ちょっとユニークなものになったようです。会議室と現場が一体となったKEKBレビュー委員会の様子をご紹介しましょう。 ライバルであり仲間 基礎科学はもともと国境のない学問ですが、特に加速器という高度で大型の設備を使った研究では、研究者たちは、自分の研究目的に合った加速器施設を求めて国境を越えて活発に行き来します。中でも素粒子物理学を探求するための加速器施設は世界を見渡しても数が限られているので、各施設では世界中から多くの研究者が集まり国際色豊かな研究風景が見られます。KEKB加速器も数少ない素粒子物理学のための加速器で、この加速器を使ってB中間子と反B中間子の対称性の破れや、新しい粒子、新しい物理を探索するBelle実験が世界14の国と地域から約400名の研究者が参加する国際共同実験として行われています。この国際実験を世界一の性能で展開するKEKBは、いわば「世界の財産」とも言える加速器です。 KEKB自体の運転や保守は、主に日本人の研究者や技術者によって行われていますが、レビュー委員会は年に1度、海外から委員を招いて開催され、今回が13回目になります。これは、「世界の財産」として国際的に共有されるべき大型加速器の運転方針や今後の改造・改良計画には、日本の研究者のみならず海外の研究者の視点が重要であるという考えに基づきます。また一方では、KEKBは日本国が大きな予算を掛けて建設し、運用している装置ですから、その効果的な運用ついては客観的な立場から助言を仰ぐことが大切であると考えられているのです。 今回の委員会は、アメリカから4人、ヨーロッパから2人、ロシアから1人、アジアから1人の委員が参加して行われました。素粒子物理学の研究に使われる加速器は非常に多くの部分から成る複雑な機器で、そのパーツごとに様々な分野のエキスパートたちによって、建設、維持、運転が行われています。ですので、こうした活動について助言を与える委員も、同様に、海外で大型加速器に携わり様々な経験をもったエキスパートたちにより構成されます。今回の委員の中にはKEKBのライバルであるアメリカのPEP-II加速器の研究者も含まれていましたが、実験の結果を競いあう時にはライバルとなる研究者も、お互いの施設を訪れて経験を分かち合い、客観的に将来の進むべき道を語り合う時にはかけがえのない仲間となります。 会議室から現場までをレビュー レビュー委員会は 、KEKBの建設がたけなわになった1995年から毎年行われていますが、今回は今までとは大部趣向が変わったものでした。これまでのレビュー委員会では、資料を書類で編修し委員に読んでもらい、KEKBスタッフの何人かがこの1年の作業の進展などをプレゼンテーションして議論する、といった形式で行われてきました。しかし今回は会議室での議論に加え、加速器そのものの運転現場をみてもらうことにしたのです。 KEKBは昼夜をわかたず24時間、実験のために運転をしていますが、2週間に1度8時間運転を停止します。定期的に点検を行い、高い性能を保つためです。この機会を捉えて、委員の人たちに加速器が設置されているトンネル内のいろいろな機器を実際に見てもらいました(図1、2)。この時は委員の中でもハードウェアの専門家の目が光ります。 また、8時間の点検の後、加速器の各機器を改めて立ち上げて運転を再開するには、数々の準備、手順があり、定常状態の運転に戻るまでには何時間もかかります。その間は、繊細な機器調整など、大型加速器の初運転のさまざまな要素をミニチュア化したような状況で、ちょっとした緊張感につつまれます。この様子を、コントロール室などでまさに進行中のチューニング作業に同席してもらう(図4)など、委員にも一緒に体験してもらいました。こうした場面ではいろいろ細かい点でちょっとした失敗をしても隠すことはできませんので、ありのままをさらけ出すことになります。中には、運転再開の行程で、ソフトウェアで自動化された部分を深く質問して来る委員もおり、日ごろ運転やソフトウェアを専門にしている委員は、自分達の加速器での作業と重ね合わせながら、興味津々の様子でした。 更には、毎日のKEKBの運転状況を報告・確認するスタッフミーティングにも加わってもらいました。レビュー委員会の期間は1週間に及び、朝早くから夜遅くまでつぶさに「本物を直視」の連続となりました。このような体験型のレビューは世界でもまれなのではないかと思います。 現場の空気が報告書にも この異例のレビュー期間中、KEKBのスタッフは、会議室で、現場で、詳細な説明をさまざまにこなし(日常日本語で行っているとても細かい作業の打ち合せなども委員に公開したので、現場の英語は学会発表などの英語よりずっと難しい!?と各人が改めて実感したようです。)、委員の方々もいろいろな場所に引き回され、お互いにハードな1週間でした。しかし、こうした「現場主義」のレビューは委員の人達に強烈な印象を残すことができたようです。委員会終了後にまとめられた報告書には、この1年間の成果に対する評価やこの先1年間にやるべきことの助言などが書かれているわけですが、とても生き生きとしたものになりました。これは、KEKBの今後の運用の方針を定めて行く上で貴重な助言となるものです。 報告書の中で、「たまには現場を離れて、計算機やネットワーク以外は何もない所で羽をのばしながら議論するのもいいのでは・・・」という印象的な言葉がありました。これは、「世界の財産」であるKEKBを世界最高の性能で運転し続けるスタッフの「現場」をつぶさに見たからこその、委員からのねぎらいの言葉だったのかも知れません。 【専門家向け】 今回のレビューのプログラムと委員会による答申は http://www-kekb.kek.jp/MAC/2007Dec/ に掲載されています。
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