KEK公開講座「スーパーBファクトリーで探る宇宙・素粒子の世界」開催される
#トピックス #公開講座6月18日(土)KEK公開講座2011が開催されました。KEK公開講座は、高エネルギー加速器研究機構の研究で蓄積された知見や加速器科学について一般の方に広く紹介し、興味や関心を持って頂くことを目的に毎年実施しているもの。今年度は年2回の実施予定があり、6月18日開催の公開講座は第1回目でした。
今回は「スーパーBファクトリーで探る宇宙・素粒子の世界」と題して、2014年度の本格稼働を目指し現在準備が進められているSuperKEKB(※1)に関連した2つの講義が行われました。
1つ目は、「未踏のルミノシティを目指す-SuperKEKB加速器」との題で、赤井和憲KEK教授が講義を行いました。赤井氏は、まず導入としてSuperKEKB加速器の前身であるKEKB加速器の説明をしながら、加速器のビームの衝突性能を表す指標である「ルミノシティ(※2)」について説明をしました。SuperKEKB加速器では、これまでの40倍のルミノシティ達成を目標にしています。そのために行う改造や増強について、ナノ・ビーム方式(※3)やビーム電流(※4)の倍増を例に挙げ、詳細に説明しました。
2つ目は「宇宙の反物質消滅の謎-小林・益川理論を越えて」との題で、堺井義秀KEK教授が講義を行いました。堺井氏は宇宙と素粒子の関わりや、宇宙が誕生した頃には物質と同じ量存在していたとされる「反物質」について解説しました。また、2001年にKEKのBファクトリー実験で実証された「CP対称性の破れ(※5)」について解説しました。しかし、Bファクトリー実験で調べられたCP対称性の破れは、現在の宇宙に至る反物質の消滅を説明するには不十分であり、SuperKEKBによって新しい物理法則の探索が不可欠であると述べました。
質疑応答の時間には、「直線の加速器ならもっとエネルギーが出そうだが、なぜ円形の加速器なのか?」「反粒子はこの世界にほとんどないというのはどういうことか?」といった質問をはじめ、多くの質問が出ました。さらには、途中の休み時間や講義終了後に講師に質問をされる方が列をなしていました。今回はおよそ200名が参加され、賑わいのある公開講座となりました。
<補足説明>
- ※1 SuperKEKB
- 2014年度本格稼働を目指し進められているプロジェクト。SuperKEKBに向けてKEKBファクトリーを担ってきたKEKB加速器およびBelle測定器は、2010年6月に運転を停止した。現在はいずれも高度化作業が行われている。
- ※2 ルミノシティ(単位:cm-2s-1)
- 加速器のビームの衝突性能を表す指標で、ルミノシティに反応断面積をかけた値が、1秒間あたりの衝突反応の回数となる。この値が高ければ、一定の確率でしか起こらない稀な粒子の衝突反応が短い時間の中でたくさん起き、研究にとって有用なデータ量を得ることに繋がる。
- ※3 ナノ・ビーム方式
- ビームである粒子の塊(バンチ)を長く・細く・薄く絞り込んでバンチ内の粒子の密度を高め、さらに2つのビーム同士を大きな角度で交差させる方式のこと。この方式により、ルミノシティの向上を図ることが出来る。
- ※4 ビーム電流(単位:アンペア)
- ビームパイプの断面を1秒間に通過した電荷量のことを示す。ビーム電流はバンチ内の粒子の個数および加速器内のバンチの個数に比例する。SuperKEKB加速器ではビーム電流をKEKBから倍増させ、ナノ・ビーム方式と合わせてルミノシティの向上を目指す。
- ※5 CP対称性の破れ
- CPとは「C(荷電変換)」と「P(パリティ変換)」を合わせたもののことで、粒子の電荷などを逆にした上で鏡に移した像のように反転させる変換のことで、粒子を反粒子に変換する。CP対称性とは、粒子と反粒子のふるまいが同じであることを言う。しかし実際には粒子と反粒子のふるまいは異なっており、CP対称性は破れている。小林・益川両博士は、クォークが3世代6種類あればCP対称性が破れることを説明できるとし、2001年KEKBファクトリーがこのCP対称性の破れを実証したことで、両博士の2008年ノーベル物理学賞受賞に繋がった。CP対称性の破れは、今の宇宙でなぜ反物質が消えてしまい、物質優勢の世界が形づくられたのかという謎を解く鍵の一つと考えられている。
-
カテゴリで探す
-
研究所・施設で探す
-
イベントを探す
-
過去のニュースルーム