世界最高のパルスミュオン強度を達成
#プレスリリース平成24年11月26日
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構
J-PARCセンター
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【概 要】
平成24年11月7日、J-PARC※3物質・生命科学実験施設(MLF)のミュオン施設(MUSE:ミューズ)にて、世界最高となる1パルスあたりのミュオン強度2,500,000個(ミュオン生成に用いられた陽子ビーム強度212kW)を達成した。これは平成22年に同施設で達成した1パルスあたり72,000個(同120kW)、180,000個(同300kW)を超えて、世界でも群を抜いた強度となる。
今回の成果は、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の三宅康博(みやけ やすひろ)教授らのMUSEグループが開発した「常伝導無機絶縁捕獲ソレノイド電磁石」、「超伝導輸送湾曲ソレノイド電磁石」、及び「超伝導軸収束電磁石系」という軸収束系の電磁石だけで構成することにより、ミュオン生成ターゲットで発生したミュオンの高効率での捕獲、輸送を実現したものである。
今後、高強度のミュオンを超低速化し、新しい三次元イメージングを可能とする「超低速ミュオン顕微鏡」の実現、標準模型を超える新しい物理法則の存在を示唆するミュオニウムの超微細分裂※4やミュオンの異常磁気モーメント(g−2)※5の精密測定など、基礎物理研究につなげていく。
【経 緯】
J-PARC/MLFは光速近くまで加速した陽子をターゲットに照射して得られる中性子、ミュオンを利用して研究を行う実験施設である。現在、ミュオンビームラインは1本(Dライン)が運用中で、今回最高強度を達成したビームラインは、今年度中の完成を目指し建設中のビームライン(Uライン)である。
MLFでは、平成20年9月に初めてミュオンを発生させ、同年12月に20kWの陽子ビーム強度で運転を開始した。以降、陽子ビーム強度の向上にしたがってミュオン強度も向上してきたが、2011年の東日本大震災により一時運転を中断していた。現在は復旧し、212kWで運転されている。
ミュオンを利用した研究は、磁性・超伝導などの物性物理学、電子材料の特性解析、さらには考古学的史料の非破壊分析など多岐にわたって行われている。ミュオン強度の向上は、実験時間の効率化、分解能の向上などに関わる重要な要素である。今回達成した強度では、従来の測定時間を10分の1に短縮でき、これまでとらえることができなかった微弱な情報を得られると期待される。
この強度の達成のため、MUSEグループがJ-PARC低温セクションと共同で開発したミュオンの輸送システムは、ミュオン生成ターゲットから実験エリアまでのビーム輸送の全てがソレノイド(常伝導無機絶縁捕獲ソレノイド電磁石、超伝導輸送湾曲ソレノイド電磁石、及び超伝導軸収束電磁石系)で構成されている。ソレノイドが作りだす磁場にミュオンを巻きつけることで、効率良く大量のミュオンを取り込み、輸送することに成功した。
【結 果】
1パルスあたりのミュオン数比較
施設名 | 1パルスあたりのミュオン数 (括弧内はミュオン生成に用いた陽子ビーム強度) |
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J-PARC/MLF | 2,500,000個(212kW) | 2012年11月 |
J-PARC/MLF | 72,000個(120kW) 180,000個(300kW) |
2010年3月 |
英国ラザフォード・アップルトン研究所 | 30,000個(160kW) |
【お問い合わせ】
J-PARCセンター広報セクション
セクションリーダー 坂元 眞一
TEL : 029-284-3587
FAX : 029-282-5996
E-mail : sakamoto.shinichi@jaea.go.jp
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構 広報室
報道グループリーダー 岡田 小枝子
TEL : 029-879-6047
FAX : 029-879-6049
E-mail : press@kek.jp
【用語説明】
※1 ミュオン
ミュオンは素粒子の一つで、正または負の電荷を持つ2種類のミュオンが存在する。自然には宇宙線として地球に降りそそいでいる。J-PARCでは、加速器からの高速の陽子を炭素(グラファイト)標的に当てて人工的にミュオンを生成し、電磁石によって実験装置まで輸送して研究に用いている。ミュオンは大量にまとまった集団としてパルス状に作られるため、パルスあたりのミュオン強度が施設の性能を表す重要な指標となる。
※2 軸収束
ソレノイドの作りだす磁場によって荷電粒子を巻きつけるようにして水平方向・垂直方向を同時に収束させることを軸収束という。
※3 J-PARC
独立行政法人日本原子力研究開発機構(JAEA)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)が共同運営する大強度陽子加速器施設(Japan Proton Accelerator Research Complex)。
※4 超微細分裂
ミュオニウム(正ミュオンと電子が結び付いた水素原子のような状態)のミュオンと電子のスピンが同じ向きか反対向きかの違いで生ずる小さなエネルギーレベルの差のこと。この量を精密に測定することで、ミュオンの質量を精密に求められ、かつ量子電磁気学の精密な検証、CPT対称性の破れの探索を行うことができる。
※5 異常磁気モーメントg−2
ミュオンの磁気モーメント(磁場の下での磁気的な相互作用の大きさを表す量)に現れる比例係数gは、量子電磁気学により最低次の理論計算では2と計算される。しかし、実際に測定されるgは2より大きく、この差を異常な磁気モーメントを表すパラメーターとして異常磁気モーメントg−2という。
量子電磁気学による高次効果を取り入れたgの計算値は約0.4 ppmの精度で求められているが、測定値は計算値より約1.5 ppmほど大きく、この差が標準模型を超える新しい物理法則の存在を示唆するものとして脚光を浴びている。この検証のため、米国フェルミ国立加速器研究所で従来の方法を踏襲した測定が検討されている。J-PARCでは、超低速ミュオンビームを基にした全く新しいアイデアによる実験を計画している。
【参考図】
図1 世界最高強度を達成したUライン模式図
図2 Uライン鳥俯瞰
図3 軸収束系電磁石
左が図1中の2.「超伝導湾曲ソレノイド電磁石」、右が図1中の3.「超伝導収束ソレノイド電磁石」。
関連サイト
J-PARC
J-PARC物質・生命科学実験施設(MLF)
物質構造科学研究所(IMSS)
ミュオン科学研究系
新学術領域研究「超低速ミュオン顕微鏡が拓く物質・生命・素粒子科学のフロンティア」
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