高崎史彦名誉教授が日本学士院賞を受賞

 

KEKの高崎史彦名誉教授が、Bファクトリー加速器を用いたB中間子系におけるCP対称性の破れの研究業績により、日本学士院賞を受賞しました。

私達の住んでいる世界は物質ばかりで構成されており、反物質だけで構成されたものは存在しません。しかし、最近の宇宙論によるとビッグバン直後に粒子と同じ数の反粒子が生成されたはずであり、その反粒子が消えてしまった過程は大きな謎の一つです。粒子と反粒子の違いを表す「CP対称性の破れ」の研究は、その謎を解き明かす大きなカギとなります。

CP対称性の破れが初めて確認されたのは1964年の中性K中間子の崩壊測定です。この現象が自然に起こるためにはクォークが6種類あればよいとする「小林・益川理論」が提唱されたのが1973年。その後、三田一郎博士(名古屋大学)らの研究により、B中間子の崩壊では、中性K中間子の崩壊よりCP対称性の破れが大きいことが予想され、菅原寛孝元KEK機構長、高崎名誉教授や生出勝宣名誉教授、P. Oddone博士(ローレンス・バークレー国立研究所)らにより電子と陽電子のビームを非対称なエネルギーで衝突させて大量のB中間子とその反粒子である反B中間子を生成する「Bファクトリー」の構想が生まれました。

Bファクトリー実験は日本とアメリカの2つの国でそれぞれKEKB加速器を用いたBelle実験およびPEP-II加速器を用いたBaBar実験として計画され、両実験とも1999年に実験を開始。2001年にはそれぞれ独立に、小林・益川理論の予言したとおりの大きさでB中間子におけるCP対称性の破れを観測しました。高崎名誉教授は、Belle実験の計画段階から、B中間子におけるCP対称性の破れの観測に至るまで、一貫して中心的、かつ指導的な役割を果たしました。

高崎名誉教授は、Belle実験とBabar実験が激しい競争を行った当時を振り返り、「実験を開始した当初は日米で圧倒的な差があり、素粒子物理学分野の先達の方々からは無謀な競争だと言われましたが、大柄な外国人力士を相手に活躍した小柄な日本人力士の写真を居室に貼って、絶対に競争に勝つぞ、と励みにしました。多くの難題がありましたが、素粒子物理学の研究者だけでなく、加速器の研究者たちや関係企業などの尽力もあり、工夫に工夫を重ねて、良い成果を得ることが出来ました」と語りました。

当時の印象深いエピソードを伺うと、高崎名誉教授は「KEKB加速器で陽電子ビームを加速する際、これまでにない大電流でビームを蓄積することにより電子雲が発生し、その影響でビームが不安定になるという問題があったのですが、磁力で電子雲を除去することを思い立ち、書類を留めるマグネットに着想を得て、強力な磁石を大量に用意して一周3kmの陽電子リング全体に設置し、その効果を確かめました。電子雲除去のためビームパイプの近くにソレノイド電磁石を設置するということは、世界中で誰も行ったことはなかったのですが、KEKB加速器の研究開発を主導した生出名誉教授をはじめとする加速器の研究者たちと議論した結果、ソレノイド電磁石を設置して電子雲を除去することにしました。3kmのリングすべてに銅線コイルを巻くことが必要で、私も含めて関係者が総出で銅線コイルを巻きました。ソレノイド電磁石によって陽電子ビームが安定し、KEKB加速器の性能が大幅に向上しました」と振り返りました。

高崎名誉教授は受賞にあたって、これまで氏の研究を支えた多くの関係者へ感謝を述べるとともに、これから研究者を目指す学生に対し「日本の大学で行われている研究は、国際的な競争力があります。ぜひ自信をもって、世界の大学や研究機関と伍して研究を進めてください」とメッセージを述べています。


日本学士院賞を受賞した高崎史彦名誉教授

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