【KEKエッセイ #13】チコちゃんは知ってる!?氷はなぜ水に浮かぶのか

 

チコ「ねえねえ岡村、この中で一番、暑い夏が似合うすてきな大人ってだあれ?」
岡村「オレ、行かせてもらっていいですか」
チコ「じゃーねー岡村、暑い時、飲みものの中に何を入れる?」
岡村「氷?」
チコ「そうそう、氷入れるよね。その時、飲みものの中で氷はどうなってる?」
岡村「浮かんでる」
チコ「そうそう、浮かんでる。何で?」
岡村「な、なんで!」

ということで、今回の”勝手にチコちゃんに叱られる”シリーズの第2弾は氷です。氷が水に浮かぶことは誰でも知っていますが、なぜそうなるのか。その理由をきっちり説明することは、実はそう簡単なことではありません。
(物質構造科学研究所 瀬戸秀紀)

固体、液体、氷のイメージ図 (Illustration: 松井龍也)

そもそも物体が水に浮かぶ理由は、物体に浮力が働くからです。浮力を発見したのは古代ギリシアの科学者、アルキメデス。このため、浮力の法則は「アルキメデスの原理」と呼ばれます。アルキメデスは風呂に入った時に湯船からあふれるお湯を見てこの原理を思いつき、うれしさのあまり裸のまま外に飛び出したというのは、本当かどうかは別として有名な話です。

アルキメデスの原理を一言でいうと、流体中に物体を入れた時、物体の体積と同じ体積の流体の重さが浮力として働く、です。例えば体積1㎤の物体を水中に沈めると、同体積の水に働く重力(=重さ)と同じ1gの浮力が働きます。この物体の質量が1gより重ければ水中に沈み、軽ければ浮くわけです。物体1㎤当たりの質量は「密度」ですから、水より密度の高い物体は水に沈み、低い物体は水に浮きます。つまり、氷が水に浮くのは水より密度が小さいから。氷山は海の上に頭を出して浮かんでいますが、それは海水中の氷の体積に相当する海水の重さが浮力となり、氷山全体の重さを支えているのです。

では、氷の密度が水より小さいのはなぜか。説明が難しいのはここからです。なぜなら、ほとんどの物質は液体の時の密度より固体の時の密度の方が大きいからです。多くの液体は温度を凝固点以下に下げて固体にすると、液体中に沈みます。これをイメージするために描いたのが上のイラストです。子どもたちがお行儀よく並んでいるのが「固体」、自由に動いているのが「液体」です。整列した子どもたちは決まった位置から動かないので狭い場所に固まっているのに対して、自由に遊んでいる子どもたちは広がっています。つまり、固体に比べて液体の分子は動き回っているため、分子1個あたりが占める体積が大きくなる。だから、普通は液体の密度は固体より小さいのです。

ところが、水の場合は逆です。分子が動き回っている液体の状態よりも、結晶となって分子同士が手を繋いでいる方が体積が大きくなるのです。上のイラストに「氷」のイメージを示していますが、氷の中では水分子の酸素原子と水素原子が繋がって、籠のような構造を作っています。そのため分子同士の隙間が大きくなって、動き回っている「液体」よりも大きな体積が必要になるのです。そのため液体の水よりも氷になった方が小さな密度になって、氷は水に浮くことになるのです。

と言うことで、チコちゃん風に答えるとこんな感じです。
「氷が水に浮かぶのは」
どどん!
「水が凍る時に籠になるからー」

実を言うとこの話には続きがあります。水分子が作る籠は1種類だけではありません。圧力をかけて固体にすると水分子同士の距離が変わり、それに伴って籠の形も変わります。通常の氷は「氷I」と呼ばれるのですが、これ以外に「氷II」から「氷XVIII」まで18種類あることが知られています。

一方、液体中の水分子も完全にバラバラになっているわけではなく、分子が何個か繋がった”小さな籠”を作っていて、これらができたり壊れたりしている、と考えられています。そのような性質があることが水中で働くタンパク質の機能などにも影響している、と考える研究者もいます。

水は最もありふれた物質の一つであるにも関わらず、まだまだ多くの謎を秘めています。そんな水の不思議に取り組む多くの研究者たちに「ボーっと生きてる」ヒマはありません!

TOP