計算科学センター准教授の鈴木次郎氏の研究成果が論文誌  Macromolecular Theory and Simulations 2022-9月号の表紙に

計算科学センター准教授の鈴木次郎氏の研究成果であるシミュレーション計算の結果が論文誌  Macromolecular Theory and Simulations の2022-9月号の表紙を飾りました。

Macromolecular Theory and Simulations の2022-9月号の表紙

鈴木次郎氏ら著者は物質分子の「形」がどのように物性として現れるか、特にその美しい構造に着目して研究を行ってきました。この研究はABCBD型ブロック共重合体の溶融状態における構造(*)をシミュレーション法によって決定しました。ここでは両端のAとD鎖、同様に2つのB鎖がそれぞれ同じ長さで、Cを中心の対称な形の分子とした条件下でブロック鎖の長さの比を変化させたところ、上段に示す3次元構造が得られました。中央ブロック鎖が形成するC (緑、下段左はCのみある特定の方向([100]方向)から見た図)はGyroid構造と呼ばれる3次元構造になりました。Gyroid構造は複数種類の捩れた構造(Gyro-oid)を含む構造で自然界に時折現れ、例えばある種の蝶の羽の特異的な美しい発色に役立っています。A, D (赤と青、下段右はA,Dのみ[100]方向からみた図)は、Gyroidネットワーク構造にトラップされた「らせん」構造となり、Bはこれらの隙間を埋める配置になります(図中では透明)。多くの場合、対となるらせんがあれば互いに逆巻きとなりますが、ここではA, Dのらせん対は同じ巻き方向となる特徴があらわれました。

なぜこのような構造となるのでしょうか。分子の形が対称なためA, Dは幾何学的に同一、加えて分子の両端に位置しているので赤は青に取り囲まれて交互に配置されると思われます。Gyroid構造はいくつかのらせん構造を持っていますが、赤と青の2色の交互配置は[100]方向(下段右)のみ可能(正方形の塗り分け=チェッカーボード)です。このように緑からなるGyroid構造の[100]方向(下段左)にらせん軸が配置(下段中央)した構造となる必然性があります。このように「分子の形」に工夫をして論理を組み立て、その分子の集合体の「構造の形」を計算機シミュレーションにより再現し説明することができます。本研究のシミュレーション演算は、計算科学センターの中央計算機を使用しました。

(*)ブロック共重合体とは、異なる化学的性質で互いに反発(水と油のように)する高分子鎖を複数連結してひとつの高分子鎖としたもの。本研究ではA,B,C,B,Dの4種、5ブロックの連結とし、A,B,C,Dの異種間の反発力(A-B, A-C, A-D, B-C, B-D, C-Dの6種)は同一とした理想的なモデル分子を計算している。溶媒を含まない溶融状態(いわゆる硬いプラスチックを加熱し水飴状として分子が動ける)では、異成分は反発するため同成分は凝集してドメイン(図中の赤、緑、青は、A, C, Dドメインに対応)を作って相分離構造をつくる。水と油の混合物は大きな2相に分かれるが、ブロック鎖は分子内で連結してあるため、その構造周期は分子の大きさ程度(100nm程度)のミクロ相分離構造となる。

DOI:https://doi.org/10.1002/mats.202200015