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last update:04/10/21  

   image ニュートリノの質量とは (2)    2004.10.21
 
        〜 二重ベータ崩壊を調べるDCBA実験 〜
 
 
  先週の記事では、スーパーカミオカンデなどの実験でニュートリノに質量があることはわかったけれど、その大きさはまだ測定できないほど小さい、と、お伝えしました。ニュートリノの質量を測るには二重ベータ崩壊と呼ばれる現象を詳しく調べることが有望と考えられています。

二重ベータ崩壊を詳しく調べようとする実験の様子についてお伝えしましょう。

二重ベータ崩壊実験の現状

実験で測定するのは二重ベータ崩壊の頻度とベータ線(電子)の運動エネルギーです。実験方法を大別すると、2つのベータ線の合計エネルギーを熱量計で測定する方法と、個々のベータ線の飛跡を検出してエネルギーを求める方法の2つがあります。前者は事象の検出効率が高く、後者は事象の選別能力が高いという特徴があります。

熱量計を使う方法は数十年にわたって開発研究がなされており今なお事象選別改善の努力が世界中で続けられています。一方、飛跡を検出する方法はカリフォルニア大学、大阪大学やヨーロッパのグループが過去十数年の間に独立に、幾つかの元素を使ってニュートリノを伴う二重ベータ崩壊の半減期が10の18乗年から10の19乗年であることを突き止めた方法です。(10の18乗は1兆の百万倍)

ニュートリノがマヨラナ粒子と呼ばれる種類の粒子であれば、ニュートリノレス二重ベータ崩壊事象という反応が起きることは先週お伝えしました。この事象の半減期の理論予測は通常の二重ベータ崩壊事象の半減期よりもさらに1千万倍から1億倍も長い、いいかえると、反応の起こりやすさが1千万分の1から1億分の1程度にしかなりません。二重ベータ崩壊を起こす親の原子を数キログラム集めても年に数個の事象しか得られないということになります。

そのため実験には数百キログラムから1トンの親原子を測定器内に組み込まなければなりません。大量の原子を組み込むと、本物によく似た信号を出す疑似事象も多くなります。今後の測定器開発については、いかにして多くの疑似事象の中から本物事象を選び出すことが出来るかが研究開発の要点となります。

DCBA実験の概略

KEKで実験の開発が進められているDCBA実験(Drift Chamber Beta - ray Analyzer)は、飛跡を検出するタイプの測定器に属します。この実験ではドリフトチェンバーと呼ばれる飛跡検出器を一様な磁場の中に設置し、親原子から崩壊して出てくるベータ線が磁場によってらせん運動をする飛跡から運動量と運動エネルギーを求めます。

最近のコンピュータとエレクトロニクスの発達のおかげで、このような方法が可能になったのですが、世界で最初の試みなので、DCBA-Tというテスト装置を製作して技術的問題点を探り、一つ一つ解決していっています(図1)。

図2はDCBA-Tのイラストです。一様磁場中に置かれたドリフトチェンバーが中央のネオジム原子薄板から出た2つのベータ線の飛跡を捕らえた様子を示しています。

実際にはこのような事象は極稀にしか起きないので、開発研究には特定の運動エネルギー(50万電子ボルトや100万電子ボルト)を持った電子を放出する同位元素(207Bi)をドリフトチェンバー内に設置して電子飛跡を3次元的に捕らえてエネルギー分解能の向上を図っています。

図3はDCBA-Tで実際に得られている電子のらせん運動飛跡を磁場に垂直な面に投影したものです。800ガウスの一様磁場が紙面に鉛直の方向にかかっているので、電子は反時計廻りにらせん運動しています。らせん円の半径とピッチ角(らせんと磁場垂直面とがなす角度)から運動量と運動エネルギーが求まります。らせん運動の方向から粒子が正負どちらの電気量をもっているかを区別することも可能です。

ドリフトチェンバーは電気量を持たない粒子には感じないので、無数に飛び交っているガンマ線は邪魔になりません。つまりガンマ線に敏感な熱量計型の測定器と違って疑似事象を低く抑えることができます。このことと飛跡から事象発生点が特定できることから、DCBAはこれまでに無いほど高い事象選別能力を発揮することが期待されています。また、構造が簡単なので数百キログラムの親原子をチェンバー内に組み込むことも可能です。

ニュートリノ質量測定の今後

現在予定されているニュートリノ質量測定を概観し今後を展望してみましょう。まず、ベータ線を一つだけ放出するベータ崩壊の測定精度を上げる伝統的方法が、ドイツを中心とする国際協力で進んでいます。トリチウムがベータ崩壊してヘリウム3イオン+ベータ線+反ニュートリノとなる時のベータ線の運動エネルギーを電磁場を巧みに用いて精密測定するもので、KATRIN実験と呼ばれています。この方法で0.2電子ボルトのニュートリノ質量まで測定する予定です。二重ベータ崩壊の方法より感度は良くないのですが、理論の不定性が入らないので信頼がおける結果が得られます。

次にニュートリノレス二重ベータ崩壊実験ですが、現在考えられる最も質量感度が良い方法なので、熱量計型や飛跡型、及び両者を組み合わせたものが合わせて15実験ほど提案されており、盛んに研究開発が行われている段階です(図4)。このうちのいくつかは将来統合されるでしょうが、少なくとも1つは熱量計型、もう1つは飛跡型として、それぞれの特徴を活かした形で残ると思われます。

どの実験も当面の目標は0.05電子ボルトのニュートリノ質量感度を持たせることです。それは、ニュートリノ振動実験の結果から理論的に予測される質量だからです。崩壊の半減期はニュートリノ質量の2乗に反比例するので、これに対応する半減期は10の25乗年程度になります。このように長い半減期を測定するためには前述したように大量の親原子を測定器に組み込み、さらに優れた事象選別能力を達成しなければなりません。世界中のこの分野の研究者が目標に向かって努力しているので実現するのはそう遠くはないでしょう。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→DCBA実験のwebページ(英語)
  http://dcba.kek.jp
→K2Kつくば−神岡間長基線ニュートリノ振動実験のwebページ
  http://neutrino.kek.jp/index-j.html
→神岡宇宙素粒子研究施設のwebページ
  http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/index_j.html
→キッズサイエンティスト:クローズアップKEKのwebページ
  http://www.kek.jp/kids/closeup/k2k/index.html

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[図1]
DCBA-T測定器。
拡大図(68KB)
 
 
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[図2]
DCBA-Tにおけるニュートリノレス二重ベータ崩壊事象のイラスト。
拡大図(45KB)
 
 
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[図3]
DCBA-Tで得られた800ガウス磁場中での電子飛跡。横軸はX座標に対応。約1cm/50カウント。縦軸はY座標に対応。0.6cm/カウント。
拡大図(13KB)
 
 
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[図4]
世界における二重ベータ崩壊実験の将来計画。青字が実験名。カッコ内は使用する崩壊核。
拡大図(50KB)
 
 
 
 

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