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実験装置をリサイクル 2006.5.25 |
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〜 再利用が進むK2K実験 〜 |
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目に見えない小さな素粒子の振る舞いを調べるための実験装置にはいつもその時代の最先端の工夫が施されています。世界の最先端の研究を進めるためには、実験装置にも日夜様々な工夫や改良を加えていかなければなりません。しかし、実験装置を細かく見ていくと、装置を最大限に有効利用しようとする研究者の苦心する姿が見えてきます。 加速器で作られた人工ニュートリノを使って、世界で初めての長基線ニュートリノ振動実験に成功したK2K実験グループの工夫についてご紹介しましょう。 アメリカからも寄付 K2K(ケーツーケー)実験についてはこれまでにもご紹介してきました。120億電子ボルト(12 GeV)の陽子加速器で作り出された人工のニュートリノ(図1)を250km離れた岐阜県飛騨市神岡町にあるスーパーカミオカンデに打ち込むこの実験は、1999年から2004年まで行われました。そこで使われた実験装置の多くは、それ以前に使われていた加速器や様々な測定器の部品を再利用したものでした。 加速された粒子をある目的の場所まで導くための電磁石と真空のパイプの組み合わせを「ビームライン」と呼びます(図2)。K2K実験では陽子をアルミ標的にぶつけてパイ中間子を発生させ、それが崩壊することでできるニュートリノをスーパーカミオカンデに打ち込んでいました。このニュートリノビームラインは総勢109台の電磁石で構成されていました(図3)が、そのうち新規に製造されたものは14台でした。残りはBファクトリー実験の前身であるトリスタン加速器で使われていたもの(41台)、このビームラインの既設(23台)、別のビームラインを解体して再利用したもの(16台)、米国SLAC研究所から寄付されたもの(15台)となっています。 世界で初めての長基線ニュートリノ振動実験を成功させるために、SLAC研究所のBurt Richter所長(当時)が全面的に協力してくれたのです。 測定器も再利用 K2K実験では、人工ニュートリノを神岡に打ち込む際に、KEKの敷地の中で前置検出器(図4)を使ってニュートリノの数や性質を調べていました。そのうち、1,000トンの水を溜める「ベビーカミオカンデ」という装置は、1995年にKEKで行われた「E261a実験」で用いられていたものでした。この実験はスーパーカミオカンデで用いられる世界最大の光電子増倍管の水チェレンコフ光の応答を調べるために行われましたが、その時の水タンクがK2K実験でも重要な役割を果たしました。 他にも、電子や光子のエネルギーを測る鉛ガラスカウンターは、トリスタン時代のトパーズという測定器から再利用されたものですし、ビーナスという測定器からはプラスティックシンチレーターやミューオンチェンバーのための700トンの鉄板が再利用されています。信号を読み出すための電子回路なども再利用されました。 新天地で第3の人生 ビーナス測定器から再利用されたミューオンチェンバーと鉄板は、K2K実験終了とともに、J-PARCで開始されるT2K実験に向けて、搬出作業が進められています(図5)。いわば「第3の人生」ですね。 ニュートリノビームラインで再利用された電磁石も、J-PARCのハドロンビームラインに送られ、設置作業が進められています(図6)。 K2K実験の測定性能を向上させるために京都大学などが中心になって新たに制作されたSciBar(サイバー)という検出器(図7)も、今年秋から米国フェルミ国立加速器研究所で行われる「SciBooNE(サイ・ブーン)」と呼ばれる実験で再利用されることが決まっており、米国への輸送を待っています。 この他にもK2K実験で用いられた鉄板はすべて、J-PARCニュートリノ施設のターゲットステーションやビームダンプのヘリウム容器兼構造体や遮蔽体などに無駄なくすべて活用されます。 研究者は世界初の実験成果を得るために各地でしのぎを削って実験を行いますが、一方で測定器などの部品に目を向けると、実験の舞台裏を支えて世界を渡り歩く職人のような「人生」ですね。
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