大型国際共同実験CDFを行ってきたテバトロン衝突型加速器の運転終了

 

国立大学法人 筑波大学
大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

大型国際共同実験CDF(シーディーエフ:高エネルギー陽子反陽子衝突実験)を行っている米国フェルミ国立加速器研究所のテバトロン衝突型加速器の運転が、2011年9月30日午後2時(米国中央夏時間、日本時間10月1日午前4時)に終了しました。

CDF実験は、日米科学技術協力事業の一つとして進められてきたもので、新しい素粒子・新しい物理の探索が30年以上の長きにわたって遂行され、多くの重要な物理の成果をあげました。日本からは、筑波大学を中心に9機関が参加しています(注1)

米国フェルミ国立加速器研究所では、超伝導電磁石を用いたテバトロン衝突型加速器の建設が1979年に開始されました。この加速器を用いた高エネルギー陽子反陽子衝突実験CDFは、日米科学技術協力事業の一課題として実験設計・検出器建設を開始し、1980年には日米伊の国際共同実験として正式に発足しています。

CDF実験は、1987年にデータ収集を開始しましたが、それ以来、世界最高エネルギーの加速器を用いて「重い新粒子の検出」を主目的とした素粒子物理学研究を行い、1994年4月にトップクォーク対生成の候補事象を12個観測しました。この結果は、「トップクォーク生成の証拠」論文として発表されました。1995年には、56個の候補事象を観測して発見を確立しました。1977年に5番目のクォーク、ボトムクォークが発見されて以来、そのパートナーである6番目のトップクォークが多くの衝突型加速器実験で探索されてきましたが、発見されずに20年来の素粒子物理の宿題となっていましたが、CDF実験によって解決しました。このような「トップクォーク発見に対する貢献」に対して故近藤都登筑波大学名誉教授は、1998年に仁科記念賞を受賞しました。

CDF実験では、トップクォーク発見以外にも重要な成果を多く挙げており、代表的なものは、Bs中間子の粒子反粒子振動の発見(2006年)、Bc中間子の発見(1998年)、トップクォークの質量精密測定による質量起源のヒッグス粒子の質量上限の決定(2006年)、ヒッグス粒子直接探索による質量可能領域156GeV~177GeVの排除(2011年)があります。

CDF実験グループの結成当時、故近藤都登筑波大学名誉教授が率いる日本グループは15名おり、全CDFグループ・メンバー87名の2割弱を占めていました。日本グループは、CDF検出器のソレノイド超伝導電磁石、電磁カロリメータ、最内部飛跡検出器、ミュー粒子検出器の設計・製作を担当しました。これらの測定器の製作、物理解析の準備を推進することによって、大型国際共同実験CDFグループの中核の日米伊の3チームがそれぞれ研究開発力をつけるとともに、互いの信頼感を築き、強力な国際共同実験グループが形成されました。

また、CDF実験の準備段階から現在まで30余年の間、大学院教育の場として、筑波大学から48名(日本の他大学からは11名)の博士号取得者と87名の修士号取得者を輩出しました。彼らは国際的な共同実験参加を通して、国際的な視野を持ち、最先端科学の研究を通じて得た最先端技術・知識を有する研究者・高度職業人として、現在、アカデミア・社会の広範な分野で活躍しています。

テバトロン加速器運転終了後は、今後2年程度、収集したデータの物理解析を行います。ヒッグス粒子の探索をはじめとする重要な物理の成果の発見が期待されます。

【用語説明】

(注1)日米科学技術協力事業の高エネルギー物理学分野は、1979年に文部省高エネルギー物理学研究所(当時)と米国エネルギー省高エネルギー・原子核物理部(当時)を中心機関として始められた。米国フェルミ国立加速器研究所のテバトロン加速器に設置されたCDF測定器を用いた「陽子・反陽子衝突による重い粒子の検出」実験は、その事業の一つであり、日米伊の国際共同実験として1979年に測定器建設が始められ、現在はアジア、米国、ヨーロッパから60の研究機関が参加する国際共同実験として実施されている。日本からは、筑波大学物理学系を中心に、大阪市立大学大学院理学研究科、岡山大学理学部、京都教育大学理学部、近畿大学理工学部、高エネルギー加速器研究機構、長崎総合科学大学工学部、福井大学工学部、早稲田大学理工総合研究センターが参加している。

【本件に関する問い合わせ先】

<研究内容に関すること>

金 信弘(きむ しんほん)
筑波大学 物理学系 教授
〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL:029-853-4270
Email: skim@hepsg3.px.tsukuba.ac.jp

<報道に関すること>

和田雅裕(わだ まさひろ)
筑波大学 広報室 報道係
〒305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
TEL:029-853-2040
Email:kohositu@un.tsukuba.ac.jp

森田洋平(もりた ようへい)
高エネルギー加速器研究機構 広報室長
〒305-0801 茨城県つくば市大穂1-1
TEL:029-879-6047
Email:press@kek.jp

関連サイト

米国フェルミ国立加速器
Tevatron加速器
CDF実験
CDF日本グループホームページ
筑波大学

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