ヒッグス粒子がもたらす物理学革命
#ハイライトヒッグス粒子の探索を行っている、全長44m、高さ25mのATLAS測定器
写真提供 CERN アトラス実験グループスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関CERN(セルン)の大型ハドロンコライダー(LHC)では、ヒッグス粒子の探索が続けられています。KEKの研究者も、その探索を行っている実験のひとつであるATLAS(アトラス)グループに主要メンバーとして参加しており、測定器の運用と管理、データの収集や解析に重要な役割を果たしています。ヒッグス粒子が発見されれば、それは物理学に大きな革命を起します。その革命とは、「素粒子の質量概念の変更」です。
質量が大きい=動かしにくいそもそも、質量は、ニュートンの運動の第2法則、F=m×aのmで表される考えです。この第2法則は、質量mの物体を動かし始めようとして速度を変える(加速度a)ためには、力Fが必要です、という意味でした。大きな質量の物を素早く動かし始めるには大きな力が必要なので、質量とは「動かしにくさ」の指標、あるいは「物がじっとしていられる性質」とも言えます。
アインシュタイン博士の相対性理論によれば、質量を持っている物体をどんなに速く動かしたいと思っても、光の速度にすることはできません。実際、周長が27キロメートルの山手線と同じ大きさで世界最大のLHC加速器では、陽子を加速していますが、その速度は光の速度の99.9999991%で、極めて光の速度に近いのですが、100%光の速度にしてしまうことはできません。
この陽子と光の違いは、ひとえに「陽子が質量を持っているのに対して、光は質量がゼロである」ことからきます。質量は動かしにくさの指標でした。逆に言えば、質量がゼロであるとは、「動かしにくさがない」、「じっと止まっていることができない」ことを意味します。あるいは速度を変更できないとも言えます。光は一旦発射されると、即座に秒速30万キロメートルの一定の速度で移動し、吸収されて終わりという運動しかできないのです。秒速30万キロメートルへいたる途中の速度もないし、徐々に止まることもありません。物の質量がゼロであることと、ゼロでないことには決定的な違いがあるのです。
素粒子それぞれは固有の性質を持っています。例えば、電子は電荷を持っているとか、弱い力を感じる能力を持っているとか、スピンが1/2であるとか、そして、固有のゼロでない質量を持っているとか。ところが、LHC実験がヒッグス粒子を見つけると、この考えが大きく変わります。つまり、電子など全ての素粒子のもともとの質量はゼロであり、今見ている質量はヒッグス粒子が関係する効果による後付けの性質だったのだ、と。
もともとは電子や陽子を作っているクォークも質量を持っておらず、止まっているという性質もなかったというのです。そのままであったなら、原子を形成することもなく、星もうまれなかった、生物もうまれなかった、人類もうまれなかったことでしょう。私たちが現在いろいろな営みができるのは、ヒッグス粒子の関係する効果で、素粒子が質量を得る事ができるようになったから、と言えるのかもしれません。
表の右下のヒッグス粒子だけ、未だ発見されていない。
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