「SuperKEKBプロジェクト」加速器が本格稼働しました

 

高エネルギー加速器研究機構(KEK)で、新たに生まれ変わった日本最大の粒子加速器SuperKEKB(スーパーケックビー)が本格稼働しました。 SuperKEKB加速器では、2016年に電子ビームと陽電子ビームを衝突させずに周回させる運転を行いましたが、最終形態への改造を行い、それらを衝突させる段階に入りました。 3月19日には電子ビームをメイン・リングに入射、21日には蓄積に成功しました。ビームの蓄積とは、継続してビームを周回させることを言います。 今後、陽電子ビームをメイン・リングに入射、蓄積し両者を衝突させるための調整を行います。

これにより、本格稼働した加速器による実験を開始し、前身のKEKB加速器が保持する衝突性能(ルミノシティ)の世界最高記録の更新、さらにその40倍の性能を目指し、素粒子物理学の「標準理論」を超える物理現象の発見を目指します。

KEKBとSuperKEKBの違い

SuperKEKB加速器は、2010年まで運転を続けた前身のKEKB加速器を大幅にグレードアップさせるもので、同年から高度化改造を行ってきました。 KEKB加速器と比較して、衝突点におけるビームサイズを1/20に絞り込むとともに、蓄積ビーム電流を2倍に高めて、あわせて40倍の衝突性能を目指します。

電子、陽電子を衝突させることでB中間子と反B中間子のペアなどが発生しますが、KEKBでは、これまでに約10億個のB中間子対を生成し、様々な素粒子物理学の成果を得ました。 SuperKEKBでは、約500億個のB中間子対などのデータを解析し、標準理論を超えた新しい物理法則の解明を目指します。

ルミノシティを大幅に高めるために採用されたのが、長く、細く、極めて薄いバンチ(電子・陽電子の集団)を大きな交差角で衝突させる「ナノ・ビーム方式」というビームの衝突方式です。 イタリアの研究者P.ライモンディ氏が発案したもので、これを本格的に実現する衝突実験は世界で初めてとなります。 ナノ・ビーム方式採用やビーム電流増強のため、SuperKEKBでは、ビーム光学設計の変更、新型ビームパイプへの交換、新しい最終収束用超伝導電磁石の導入、ダンピングリングの新設や入射器の改造など、様々な装置の改良を重ねました。

SuperKEKBに関する用語、数値

SuperKEKB加速器 電子、陽電子ビームの衝突型加速器。各リングの周長約3㎞。ビームラインの深さ地下約11メートル。
ルミノシティ ビーム衝突型加速器でお互いのビーム中の粒子が衝突し、起きにくい素粒子反応を単位時間あたりにどれだけ起こせるかの指標。 「ルミノシティ」に目的とする素粒子反応の「断面積」をかけ加速器の「運転時間」をかければ、発生する素粒子反応の数になる。 KEKBのルミノシティ設計値は、1034 cm-2s-1。 SuperKEKBが目指すのは、8×1035 cm-2s-1
衝突ビームの重心系エネルギー 10.58 GeV。1 GeVは、10億電子ボルト。 電子ビームのエネルギーは7 GeV、陽電子ビームは4 GeV。
ビーム電流 SuperKEKB加速器のビーム電流の設計値はKEKB運転時の2倍に。 陽電子ビームは1.8Aから3.6Aに。電子ビームは1.4 Aから2.6 Aに。
バンチ 電子、陽電子のかたまりのこと。バンチサイズは進行方向6mm、水平方向10μm、垂直方向50~60nm。 各バンチの中に電子または陽電子が約600〜900億個。リングの中に約1500〜2500個のバンチ

各フェイズの意味付け

SuperKEKBプロジェクトは、3段階で構成され、今回の発表は「フェイズ2」のはじまりとなります。

KEKBからSuperKEKBへの高度化改造(2010年〜)

フェイズ1 (2016年2月~6月)

  • ・ビーム衝突無しで、加速器のビーム調整を十分に行い、Belle II測定器を衝突点に導入できる状況を作る。
  • ・Belle II導入に向け、検出器へのBackground(余計な信号)を測定し理解する

  • 衝突実験に向けた改造(2016年夏〜2018年3月)

  • ロールイン(2017年4月11日):Belle II 測定器を衝突点に導入し、SuperKEKB加速器とBelle II測定器が合体

フェイズ2(2018年3月~7月)

  • ・ビーム衝突調整、KEKBの設計値を目指す
  • ・Belle II VXD測定器(崩壊点検出器)を導入可能かの判断
  • ・Belle II データ収集、測定器調整、解析開始

  • Belle II測定器改造(2018年秋~冬)

  • VXDを設置してBelle II測定器を完成

フェイズ3(2019年2月~)

  • ・ルミノシティをさらに上げながら、運転を継続
  • ・新たな物理法則の発見を目指し、衝突反応のデータを蓄積、解析

◇ KEKBからSuperKEKBまでの年表

KEKB / Belle

  • 1988 設計に着手
  • 1994 建設開始
  • 1999 衝突実験開始
  • 2001 世界最高ルミノシティ
  • 2003 設計ルミノシティを超える
  • 2009 設計ルミノシティの2倍を超える →SuperKEKBはさらに40倍を目指す
  • 2010年6月 運転終了

KEKB運転と並行して、SuperKEKB/Belle IIへの高度化検討・設計を進める。

SuperKEKB/Belle II

  • 2010 高度化改造の建設開始
  • 2016年2~6月 加速器調整運転(Phase 1、衝突なし)
  • 2016 Phase 2への移行作業を開始
  • 2017 Belle II をロールイン、衝突点改造を継続
  • 2018 実験(Phase 2)開始

画像集

こちらの画像は、KEK公式サイトのイメージアーカイブからダウンロードの上、写真ごとに記載したクレジット表記を入れてお使いください。

図1 : SuperKEKBプロジェクト全体図

図2 : SuperKEKB加速器 トンネル内部

図3 : Belle II 測定器

図4 : 世界の電子・陽電子衝突型加速器のルミノシティのグラフ

TOP