「SuperKEKBプロジェクト」Belle ll 実験の本格的な物理解析のためのデータ取得(フェイズ3)がいよいよ始まる
#プレスリリース #加速器 #素核研大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK)は、これまでの衝突型加速器KEKB(1999-2010年まで運転)が保持していた電子と陽電子のルミノシティ(衝突頻度)の世界最高記録をさらに40倍にまで高めるSuperKEKB加速器と、衝突点に設置した最新のBelle II 測定器を使い、電子と陽電子の衝突データを取得・解析する「フェイズ3」運転を3月11日に開始しました。 Belle II 実験では、今後数年かけてBelle実験の約50倍のデータ量を蓄積し、宇宙初期に隠された新しい物理法則の探索を目指しています。
これまでの経過
KEKは、小林誠・益川敏英両博士のノーベル物理学賞受賞に結びつく成果を残したKEKB加速器の大幅性能向上を目指して2010年から大改造に着手、2016年2月にSuperKEKB加速器を試運転させた「フェイズ1」、2018年3月には、Belle II 測定器を組み込み電子と陽電子の「初衝突」を観測した「フェイズ2」と、着実に歩を進めてきました。 その後、Belle II 測定器の中心部に搭載されたビームバックグラウンド測定装置 (BEAST)を崩壊点検出器(VXD)に交換し、物理データの取得・解析を行う「フェイズ3」開始に向けた最終調整作業を行ってきました。SuperKEKB加速器はKEKBに比べて、衝突点におけるビームのサイズを20分の1に絞り込み、蓄積ビーム電流を2倍に高めることによって40倍のルミノシティを目指しています。
Belle II 実験の目標
大きくアップグレードしたBelle II 実験の目的は、標準理論では説明できない新しい物理現象の探索です。 電子・陽電子の衝突で大量に作られるB中間子などの崩壊を詳しく調べることで、新しい物理現象の存在を明らかにできる可能性があります。 衝突で対生成されるB中間子、D中間子、タウ粒子などを、前身のBelle 実験の50倍(B中間子対500億事象に相当)ほど生み出し、生成や崩壊の様子を詳しく分析することを計画しています。
実験の背景
私たちの身の回りの物質はすべて原子でできており、原子は原子核と電子の、原子核は陽子と中性子の集まりです。 さらに陽子や中性子はクォークで構成されています。 現在の素粒子物理学では、陽子や中性子を作るクォークと、電子やニュートリノの仲間のレプトンが物質を作る「素粒子」であると考えられています。 クォークとレプトンのほかには、素粒子間に働く力である「電磁気力」「強い力」「弱い力」を伝える粒子と、2012年にCERNで発見された素粒子に質量を与えるメカニズムに関係するヒッグス粒子があります。 クォークは単独では存在せず、強い力でクォークと反クォークが結びついた中間子、クォーク3つが結びついた陽子や中性子などといった形態で現れます。 B中間子は反ボトムクォークと他のクォークが結びついたもので、いくつかの種類が確認されています。
これらの素粒子のふるまいは「標準理論」と呼ばれる理論にまとめられています。 しかし、物質優勢宇宙の謎やダークマターの存在など、この標準理論が私たちの宇宙を記述するには不完全であることはよく知られており、これらの謎は未知の物理法則が存在することの間接的証拠になります。
近年、世界的に、B中間子の研究を通して新しい物理現象に関する数々のヒントが得られています。 これらのヒントが正しいかどうかを検証するために、Belle II 実験で大量のデータを取得します。
用語
SuperKEKB加速器
KEKつくばキャンパスの地下11メートルに設置された電子・陽電子衝突型加速器。 各リングの周長は約3キロメートルで、衝突ビームの重心系エネルギーはおよそ10.5 GeV(ギガ電子ボルト。 1ギガ電子ボルトは10億電子ボルト)。 それぞれのビーム電流設計値はKEKB運転時の約2倍で、陽電子ビームが1.8アンペア(A)から3.6A、電子ビームは1.4Aから2.6Aになっています。
Belle II 測定器
加速器の衝突点の周りを覆う大型の測定装置。 縦、横、高さがそれぞれ約8メートルあり、重さは1400トンになります。 この測定装置の目的は中間子の崩壊で生じた粒子が飛び出した軌跡を検出し、粒子の種類を識別したり運動量やエネルギーを計測したりすることです。 いわば素粒子反応を観察する超高精度の「デジタルカメラ」です。
Belle II 実験グループ
Belle ll 実験グループには現在、日本、アジア・オセアニア、欧米、ロシア、中東など世界26の国と地域から約900人の研究者が参加しており、測定器の設計や組み立て、試験、調整など多岐にわたる業務を行っています。 データ収集後のデータ処理についても、KEKの計算科学センターを中心に世界中の協力研究機関・大学の計算機システムをネットワークで結んで物理解析を支えます。
ルミノシティ(衝突頻度)
互いのビーム中の粒子が衝突し、起こりにくい素粒子反応を単位時間あたりどれだけ起こせるかの指標。 ルミノシティに素粒子反応の「断面積」を掛けると、単位時間あたりに発生する素粒子反応の総数となります。 KEKBが出した電子・陽電子衝突型加速器の世界記録は2.1×1034 cm-2 s-1 で、 SuperKEKBでは80 × 1034 cm-2 s-1 を目指しています。
崩壊点検出器(VXD)
崩壊点検出器(VerteX Detector; VXD)は、B中間子が崩壊した位置を再構成するために必須の検出器です。 これは、内側に「ピクセル検出器(PXD)」と「シリコン・バーテックス検出器(SVD)」の2種類のシリコン半導体センサーを組み合わせた検出器です。 PXDは、2層構造で、人間の髪の毛よりも薄い独自の技術で実装されています。 SVDは、4層構造で、1層の表と裏の両面にシリコンストリップが実装されています。 また、非常に狭いスペースに設置するため、「オリガミ構造」と呼ばれる革新的な独自機構を採用しています。 この最先端の装置の組み立てには10年かかり、世界各地の8つの異なる組み立て現場で150人以上の人々の努力が結集したものです。
ビームバックグラウンド測定装置(BEAST)
BEASTは、ビームのコミッショニング中にその場でビーム背景を測定する目的でSuperKEKB加速器の衝突点の近くに設置された複数の検出器の総称です。 各検出器は、ビーム入射、高速中性子や熱中性子、またはBelle IIに入射する放射線から生じるバックグラウンドなど、様々なバックグラウンド成分の測定に特化して設計されています。 これらの測定結果は、ビーム条件の理解と改善、フェイズ3のバックグラウンドの削減、およびBelle II 実験の期間中に置ける測定器の保護と寿命の確保に使用されています。
KEKBからSuperKEKBまでの年表
お問い合せ先
研究内容に関すること
- 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所
- 教授 後田裕(うしろだ・ゆたか)
- yutaka.ushiroda@kek.jp
- 高エネルギー加速器研究機構 加速器研究施設
- 教授 赤井和憲(あかい・かずのり)
- akai@post.kek.jp
- 名古屋大学 素粒子宇宙起源研究機構(KMI)
- 教授 飯嶋徹(いいじま・とおる)
- Belle II 実験 アウトリーチ・コーディネータ
- iijima@hepl.phys.nagoya-u.ac.jp
報道担当
- 高エネルギー加速器研究機構 広報室
- 広報室長 引野肇(ひきの・はじめ)
- press@kek.jp
- Tel: 029-879-6047 / Fax: 029-879-6049
関連画像
こちらの画像は、KEK公式サイトのイメージアーカイブからダウンロードの上、写真ごとに記載したクレジット表記を入れてお使いください。
SuperKEKB加速器の制御室
Belle II 測定器の制御室
Belle II 測定器の全体図
SuperKEKB加速器の全体図
崩壊点検出器(VXD)の組み立て
崩壊点検出器(VXD)
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