素粒子の性質の測定方法
ここでは、素粒子のいろいろな性質(特性)を実験的に測定する方法について紹介する。ここでとりあげているのは、高エネルギー物理学実験などで使われているおもな方法であるが、これ以外の測定方法もありうるので注意されたい。


速度、運動量、エネルギー
これらは、素粒子や観測者の運動の状態により変化する量であり、素粒子に「固有の特性」ではないが、素粒子の特性を測定する際に必要となるのでここで説明する。
速度は、2つ以上の検出器を用いて、素粒子の通過時間を計り、それで距離を割ることにより求める。これは、飛行時間(TOF)測定と呼ばれる方法である。ほかに、物質中を進んだ時の電離量(電荷の項を参照)を用いる方法(dE/dx検出器)、チェレンコフ光の放出を利用する方法(チェレンコフカウンター)がある。
運動量は、荷電粒子の場合、一様な磁場中を進むときローレンツ力によりカーブ(円弧)を描くのであるが、この曲率半径が運動量に比例することを利用する。こういう検出器を磁気スペクトロメーターと呼ぶ。ただし、この場合、素粒子の電荷を知っていないといけない。電荷を持つ素粒子の電荷は、ほとんどの場合、電子の電荷と絶対値が等しいが、電荷の項にある方法で測定することも可能である。
エネルギーは、電子、光子、高エネルギーのハドロンの場合、粒子を十分な厚さの物質に当てると、そのほとんどすべてのエネルギーを物質中に放出する。このエネルギーを光の明るさや電流量(物質中の電離した電子の全電荷)を通じて測定する。こういう測定器をカロリメーターと呼ぶ。
直ちに崩壊する粒子の運動量(またはエネルギー)は、崩壊後の粒子すべての運動量(またはエネルギー)の和である(運動量の場合はベクトル和)。速度は、崩壊後の粒子系の重心の速度に等しい。


質量
速度と運動量から特殊相対論を用いて、質量が算出できる。崩壊した粒子の場合でも、これは同じである。この場合、質量は、崩壊後の粒子群の重心系におけるエネルギーの総和に一致する。ここで測定されるのは、慣性質量である。重力質量の測定は、重力が弱いことから、陽子などを除くと現在の技術では不可能である。


電荷
物質中を進む荷電粒子は、物質の一部を電離させるが、この電離の量は、荷電粒子の速度と電荷に依存する。速度がわかっておれば、電荷は電離量から求めることができる。ここで測定されるのは電荷の絶対値である。符号は、磁場中で進行方向が変わることからフレミングの左手の法則を用いて求める。崩壊した粒子の場合は、崩壊後の粒子の電荷の和で、これを求めることができる。


スピン
スピンを求めたい粒子を含む2体反応で、その衝突が起こる確率(散乱断面積)と、その逆反応が起こる確率との比から、スピンを求める方法がある(詳細バランスの方法)。また、反応や崩壊現象を詳しく解析し、スピンを決定できる場合もある。この場合、反応前後の粒子間の軌道角運動量を何らかの方法で知っている必要がある。角度分布や種々の対称性がこの決定に利用できる。
ボソンは、崩壊後に偶数個のフェルミオン(0も偶数であることに注意)を含み、フェルミオンは奇数個のフェルミオンを含むので、崩壊前の粒子が、ボソンであるかフェルミオンであるかは、たいていの場合すぐにわかる。


アイソスピン
強い力におけるアイソスピン対称性を利用して、それが崩壊した後の粒子のアイソスピン成分のいろいろな組み合わせの確率比から、もとの粒子のアイソスピンを決定できる。ただし、強い力で崩壊しない粒子の場合は、この方法は使えない。アイソスピン成分の異なる同種の粒子(これらは、ほぼ同じ質量を持っているが電荷が違う)を見つけることによりアイソスピンを決定する。


パリティ
これも反応や崩壊現象を用いる(スピンの項参照)。崩壊する粒子の場合は、崩壊後の粒子のパリティと軌道角運動量が決まればパリティは決定される。通常、これらの方法ではスピンとパリティの両方決定されるが、データの不足により、どちらか一方のみが決定される場合もある。


寿命
寿命が長い粒子の場合は、崩壊までの時間を測定する。崩壊までの時間が短くてそれを直接測定できない場合でも、粒子が運動しており、速さと崩壊するまでに走った距離がわかっておれば時間が計算できる。素粒子の寿命というのは平均寿命なので、多くの粒子についてこれを測定し平均する必要がある。また、寿命は、高速で走っている粒子の場合、相対論的効果で伸びるので、これの補正も必要である。
もっと寿命の短い粒子の場合は、質量の不確定性(幅)から、不確定性原理を用いて、寿命を算出する。


Cパリティ
荷電変換ともいう。粒子のCパリティは、粒子とその反粒子が同じ粒子であるときのみ定義できる。これが、Cパリティが定義されている粒子ばかりの系に崩壊するときは、崩壊後の粒子のCパリティの積として計算できる。そうでない場合は、粒子反粒子のペアを含む状態に崩壊するのであるが、このペアの間の軌道角運動量の偶奇性を求めれば、ペアのCパリティが決定できる。崩壊現象のかわりに生成現象(電子陽電子衝突や2光子衝突からの生成を見る)を用いても良い。


磁気双極子モーメント
磁石の強さに対応する量である。磁場中に粒子を入れ、スピンの向きを磁場と平行にした時と反平行(逆向きで平行)にした時のエネルギーレベルの差から測定できる。また、スピンが磁場の向きに対して平行でないときは、スピンの軸の向きが回転する「歳差運動」が起こるが、この周期からも測定できる。また、素粒子反応で、光子との反応や光子を媒介する反応の強さを精密に測定することによっても求められる。


磁気単極子
磁気単極子(モノポール)はまだ見つかっていないが、いろいろな方法で捜されている。磁場中での振る舞いを見る方法、超伝導コイルの中を通った時に起こる電流を検出する方法のほか、ディラックの予言するモノポールの場合、高速の粒子についても物質中でのエネルギー損失が大きいことや、光子との反応が強い(光子の放出確率が高い)ことを利用する方法がある。




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