素粒子
物質を構成している最小の単位である粒子。しかし、内部により小さい粒子を含む粒子(クォークからできている陽子など)も一応素粒子と呼ぶこともある。また、クォークや軽粒子にしても「これが最小の単位の粒子でもうこれ以上小さいものからできているのでは無い。」ということを証明することはむずかしい。だから素粒子の明確な定義は無い。力を伝えるゲージボソンや不思議な性質を持つと予想される数多くの未発見の粒子も通常素粒子と呼ばれる。


素粒子の分類
素粒子には多くの種類があるが、すっきりした分類が可能である。第1のグループは、基本的なフェルミオンである。これは、クォークと軽粒子(レプトン)に大別される。前者は、単独では存在せず、ハドロンとよばれる一連の粒子をかたちづくっている。第2のグループは、ゲージボソンで、力の伝達にあずかる。既に発見されているものは以上であるが、未発見の第3のグループであるヒッグズ粒子は、重要な役割を担っており、発見が待たれている。その他、いろいろな性質を持った未発見の数多くの素粒子が、理論により予言されているが、必ず存在するという確証は無い。


新しい素粒子の発見
新しく発見される素粒子のほとんどは、地上に安定な形で存在せず、高エネルギーの素粒子衝突で、一瞬だけ作られすぐこわれてしまうものである。この衝突を起こすために、かつては、宇宙から降って来る高エネルギーの素粒子である宇宙線が使われた。しかし、宇宙線は利用できる粒子の数が少ないので、近年では、電子や陽子を人工的に高いエネルギーに加速する加速器が用いられている。例外として、宇宙線の中や、地表、地中に存在しているかも知れない、安定な素粒子を捜す試みも行なわれている。


質量
平たく言えば、「重さ」と同じものである。しかし、厳密に言うと質量と重さとは全く違う概念である。質量は、物体に付属しているある基本的な「量」であり、それに比例する量のエネルギーに変わることのできる性質である。また、慣性の大きさを決めている量である。重さは、物体が重力場のなかにあるときに、物体に働く力のことである。この力は物体の質量に比例することがわかっている。最近の理論では素粒子の「質量」は、ヒッグズ場との作用に起因すると考えられている。


電荷
素粒子や物体が帯びている電気の量。二つの物体の電荷の積に比例した電磁気力が働く。通常、単位は「クーロン」であるが、ここでは陽子の電荷(1.6×10-19クーロン)を単位にとっている。この単位で素粒子は「2/3」又は「−1/3」の電荷を持つと考えられている。電荷の無い(中性の)粒子には、通常,電磁気力は働かないが、高エネルギー素粒子反応の場合、内部に構造を持つ中性粒子(中性子など)についてはこの限りでは無い。


反粒子
ある素粒子と対になっている反対の電荷を持つ素粒子。例えば、電子の反粒子は、陽電子であり、陽子の反粒子は反陽子である。光子や中性パイ中間子は、それ自身が、自身の反粒子である。質量は,粒子と反粒子で全く同じである。粒子と反粒子は、光子やZボソンから素粒子が作られる時、対で作られる。また、粒子と反粒子が出会うと、両者は消滅して、光子や中間子になってしまう。粒子と反粒子の間には、数多くのほとんど正確な対称性がある。反粒子からできている物質を反物質と呼ぶが、現在、この宇宙に反物質が大量に存在する徴候はない。


スピン
素粒子自身が持っている角運動量のこと。角運動量と言うのは、回転の強さ、とでも言うべき量である。スピンと言うのは「自転」のことで、このイメージでとらえるとわかりやすい。普通、単位はプランク定数を2πで割ったものにとる。この単位で1/2が最小単位になっており、これの偶数倍(整数値)のスピンを持つ粒子を「ボソン」、奇数倍(半整数値)のスピンを持つ粒子を「フェルミオン」と呼ぶ。


アイソスピン
アップクォークに上向きで大きさ1/2のベクトルを、ダウンクォークに下向きで大きさ1/2のベクトルを当てはめた時の、ハドロンにおけるこのベクトルのこと。スピン角運動量と同じ数学的性質を持っているのでこの名がある。強い力はアップクォークとダウンクォークの入れ換え(つまりアイソスピンの向きの反転)に対して働き方が不変になっている。これをアイソスピン対称性という。


パリティ
素粒子あるいはいくつかの素粒子からなる系が、空間の反転(鏡に映すことと等価)に対して対称の時、波動関数の符号の変化をパリティと呼ぶ。パリティは電磁気力、強い力では保存するが、弱い力では保存しない。すなわち、弱い力は、現実の世界と鏡に映った世界で働き方が違うことになる。多数の素粒子から系のパリティは、素粒子自身のパリティと素粒子間の角運動量の両方に起因する。


寿命
多くの素粒子は時間がたつとこわれて別の素粒子(複数)になる。これを素粒子の崩壊と呼ぶ。こわれるまでの平均時間を寿命と言う。これは、素粒子ごとにきまっている。似たような概念に「半減期」があるが、これは寿命の0.693倍である。寿命の短い粒子については「不確定性原理」により、質量の不確定性(質量幅)に寿命の影響がでる。寿命が比較的長かったり無限大である粒子を安定な粒子と呼ぶ。素粒子物理学の業界では、1ナノ秒の寿命を持つ素粒子は安定な素粒子と呼ばれる。


CP非保存
Cとは、電荷の反転のこと、Pとはパリティ変換すなわち空間の反転のことである。CPの反転とはこれを両方とも行うことである。この世のほとんど全てのものはCPの反転に対して対称になっているのであるが、ただひとつ、中性K中間子では、CP保存の破れ(CP非保存)が観測されている。中性K中間子におけるCP非保存は、もっと普遍的な現象のほんの一角が現れたものと考えられているが、その起源はまだはっきりとわかっていない。中性B中間子についても詳しく調べるなど今後の研究の成果が待たれるところである。CPが保存しないならば、粒子と反粒子のこわれ方に少しの差ができるので、これで、宇宙に粒子が反粒子に比べて圧倒的に多いことを説明することができる。


ゲージ対称性
物理量を測る時、その大きさが、ものさし(ゲージ)の目盛りによらないこと。素粒子物理学でよくでてくるゲージ対称性とは、粒子の場が局所的な位相や座標の変換(場所ごとに違う量だけ位相や座標を回転してやること)で結果が変わらないことをいう。これを保証するためにはゲージ場というものが必要である。ゲージ場は、力を伝える粒子(ゲージボソン)として解釈できる。


自然界の4つの力
強い力は、陽子と中性子をもとに原子核を形成します。また、太陽エネルギーを作り出して、地球上の全生物のエネルギーの源となっています。電磁気力は原子、分子を作り、また、虹、雷、オーロラなどの自然現象を起こします。弱い力は不安定な原子核を崩壊させますが、地熱はまさに地球内部の物質の放射線崩壊によって作り出されたと考えられています。電磁気力と弱い力は電弱力として統一されています。重力は渦巻き星雲(M51)などの天体を形作ります。強い力から重力まで、力の大きさは40桁も違います。現在、素粒子の世界では重力は無視できますが、宇宙創成時にはこれら4つの力は同じ大きさであったと考えられています。


電磁気力
電気と磁気の力。19世紀にマックスウェルにより綺麗な形にまとめられた。今世紀には、量子電磁力学が完成し、素粒子の世界における電磁気力による素粒子反応も計算できるようになった。実験との一致は驚くほど良い。光子(電磁場を量子化した粒子)のやりとりによって、電荷を持った素粒子の間に働く力として理解される。


強い力
原子核の中で核子同士を繋ぎ合わせている力。核力とも呼ばれているのはこのためである。原子核の中では、パイ中間子が核子の間に交換されるということでこの力が発生していると湯川秀樹博士により考えられた。質量のない光子と違ってパイ中間子は重いため力の及ぶ範囲はとても小さく(10兆分の1cm)日常生活では、この力に直接お目にかかることはない。クォーク理論によると,この力はクォークやグルーオンの「色」とよばれている性質に起因していると考え、量子色力学(QCD)という理論を使って計算を行う。グルーオン同士も強い力を及ぼしあうことから、低いエネルギーでは強い力は大変強くなり、計算が非常にむずかしくなる(まともにはできない)。


弱い力
中性子のベータ崩壊を説明するためにフェルミによって考えられた。その後、ミュー粒子やパイ中間子も同じ力で壊れることがわかった。現在では、グラショウ、ワインバーグ、サラムが提唱した理論が正しいとされている。彼らの理論では電磁気力と弱い力を統一することができる。そして、弱い力は、W粒子、Z粒子という粒子が伝えるものであり、これらの粒子は光子と同じ枠組みで説明できる(つまり光子の兄弟)。よって、弱い力は、電磁気力の兄弟ということになる。その後、W粒子、Z粒子は発見され、統一理論を検証する実験が多数なされ、この理論の地位は確固としたものになっている。


重力
17世紀、ニュートンは全ての物体はおたがいに引き合うと考えた(万有引力)。これが重力である。今世紀になって、アインシュタインは、重力はエネルギー(質量もこの一形態)が時空間をゆがめることにより発生するという一般相対性理論を提唱した。一般相対性理論は今のところ正しそうであるが、素粒子の世界では量子力学との整合性が悪く根本的な理論ではないとされている。超重力理論、最近では超弦理論などが提唱され、研究されているが、非常にむずかしい問題を含んでおりまだ決着を見ていない。


マイクロ秒、ナノ秒、ピコ秒
時間の単位。それぞれ、100万分の1秒、10億分の1秒、1兆分の1秒。我々にとっては大変短い時間であるが、多くの場合、素粒子にとっては非常に長い時間である。これは、素粒子同士の反応が非常に短い時間になされることによる。


MeV, GeV
原子核物理学や高エネルギー物理学で用いられるエネルギーの単位。前者が、メガ電子ボルト(100万電子ボルト)、後者がギガ電子ボルト(10億電子ボルト)を表す。1電子ボルトは、電子あるいは陽子を1ボルトの電位差で加速したときに与えられるエネルギーである。1.6×10-19ジュールに相当する。特殊相対性理論によると質量とエネルギーは、互いに移り変われるので、電子ボルトは、質量の単位としても使える。1電子ボルトは、1.8×10-33グラムに相当する。高エネルギー物理学が扱うエネルギーはおおざっぱにいって数百MeV以上である。


粒子加速器
電子や陽子などの素粒子あるいは原子核に、電場を使ってエネルギーを与える装置。直線型のものと、円形(あるいはそれに準ずる形)のものとがある。高速の素粒子は、素粒子の構造、反応の研究や、新しい素粒子の探索に役にたつ。また、物質科学、医学、生物学への応用も行なわれている。


粒子検出器
素粒子を検出する装置。運動している電気を帯びている素粒子(荷電粒子)は, 物質中を通ると、通常、電気力によりエネルギーを失う。これを検出することにより素粒子を検出する。このエネルギーは極めて微弱なため、何らかの増幅装置が必要な場合が多い。また中性の粒子は、一度反応をおこさせ、その結果出てきた荷電粒子を使って検出する。


素粒子論(1)標準模型の構成
実験で確認されているいろいろな素粒子反応は、今日では,「標準模型」と言われている理論でうまく説明できる。標準模型の中心となっているのは、電磁気力と弱い力の統一理論(グラショウ・ワインバーグ・サラム理論)とそれぞれ6種類あるクォークと軽粒子のパラメーター(質量、電荷など)であり、これにより、電磁気力や弱い力による反応の確率などはすべて高い精度で計算可能である。また、量子色力学(QCD)を適用すれば、高いエネルギーでのクォークやグルーオンの関与する反応についても正確に計算できる。標準模型の予言と矛盾するような実験事実は今のところ存在しない。標準模型に登場する粒子で唯一未発見なのは、中性のヒッグズ粒子である。


素粒子論(2)標準模型の限界
しかし、標準模型の枠内では説明し切れない事実も多くあり、明らかに、標準模型は「最終的な」理論ではない(電荷を持つ軽粒子はなぜ3種類あるのか? ダウンクォークの電荷は、なぜ電子の電荷の1/3なのか? ニュートリノに質量はあるのか? など)。これらに答えるために、標準模型を越えた理論が探究されている。大統一理論、超対称性理論などがそれである。


素粒子論(3)大統一理論
電磁気力と弱い力の統一理論と強い力の理論である量子色力学(QCD)は、すでにそれぞれが独立に確立しているが、この両者を統一するのが、大統一理論である。大統一理論は、クォークと軽粒子が、対称的に分類できること、双方の理論がともにゲージ不変性を持っていることに着目して作られている。大統一理論には、簡単なものから、複雑化されたものまでいくつかの種類がある。大統一理論が予言する特徴的な現象は非常に高エネルギーの反応におけるものがおもで、加速器実験での実証は困難である。また、大統一理論は、陽子の崩壊を予言するが、これもまだ実証されていない。


素粒子論(4)超対称性理論など
統一理論においては、電磁気力と弱い力が破れるエネルギースケールに対応するヒッグズ粒子が予言されるが、これを単純な素粒子と考えると,その質量の大きさに別の観点から問題が生じる。それを解決する方法として、「超対称性理論(SUSY)」や複合粒子模型が提唱されている。前者は、新しい対称性(超対称性)を仮定するもので、これは、SUSY粒子と呼ばれる大量の未発見の粒子の存在を要求する。後者は、ヒッグズ粒子などが、単純な素粒子ではなく、いくつかの素粒子が集合してできたものとする考えである。双方とも、一応もっともらしい理論であるので、実験的に実証しようという努力が多くなされているが、今のところ、決定的な手がかりは得られていない。




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