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トリスタン計画報告書TOP
 高エネルギー物理学研究所長挨拶
 高エネルギー委員会委員長挨拶
 1. は じ め に
 2. トリスタン計画の概要
 3. 研 究 成 果
 4. トリスタンと加速器科学
 5. 周辺分野との関わり
 6. ま と め
 List of Figures
 List of Tables
 グラビア写真集
 
周辺分野との関わり

素粒子物理学の成果は物質観を深めるものであるが、すぐに他の研究に応用される性質のものではない。しかし、トリスタン計画のように、いろいろな意味で大きな動きを伴う大プロジェクトは、当該分野については当然だが、意図するとしないとに拘わらず、必ずや周辺に何らかの影響を及ぼす。一般的にはまず、明快な大課題をかかげて共同研究を進める我々の思考方法や研究形態の、長所と短所とが周囲に見えやすくなり、議論を起こすであろう。しかしここでは、本計画によって周辺の研究分野とどのようなかかわりを生じたかという、高エネルギー物理学研究所を中心にした具体例を挙げるにとどめる。

新たな大加速器計画がスタートしたことの望ましい直接的な影響は、周囲の研究者にとっては
  • 既存の加速器を利用するチャンスが増え、
  • 新加速器システムの一部を有効利用する可能性が生じ、
  • 技術開発の成果を利用できる、
といった形で現われている。

1)高エネルギー物理学分野の研究者の主体が、唯一の研究手段としていた12GeV 陽子シンクロトロンを離れてトリスタン計画に取り組み始めたため、潜在的に多様な二次粒子ビームや高いエネルギーの陽子ビーム利用を希望していた研究者にとり、実験するチャンスが増えた。これにより、伝統的な原子核研究だけにとどまらない、いわゆる「中間エネルギー分野」が育つことになった。

技術面でも、それまでに高エネルギー物理学実験で蓄積されたもの、およびトリスタン計画のために開発・実用化されたものの利用が、実験の推進に役立った。主な例は、各種の測定器技術、高速・多チャンネルのフロント・エンド回路と ADC / TDC、高速・大量データ収集システム、そして超伝導マグネットおよび関連技術などである。こういう面での研究支援体制も、そのまま利用されることになった。

2)章で紹介したトリスタン加速器のための開発、そして加速器性能向上のための実地で培われた技術は数多く、その応用先も枚挙に暇がない程である。広い分野にまたがる加速器科学が、世界第1級のものになったと言える。

3)放射光施設(フォトンファクトリー)の入射器でもあった線形加速器は、2.5GeV の電子ビーム用であったが、トリスタンでは陽電子ビームも必要であるため、陽電子生成機能が付加された。この機能は、最初から意図したわけではなかったが、放射光施設にとって重要なものとなった。電子ビームを蓄積した場合のイオントラッピング現象を避け、安定な光ビームを提供する手段として役立ったのである。逆に、放射光施設での加速器やビームの性質に関する研究成果は、高エネルギー物理学研究のための KEKB(Bファクトリー)計画にフィードバックされている。

4)またこの機能は、低エネルギー陽電子ビームの利用を可能にし、放射光と中性子につぐ第3の物性研究手段を提供することにもなった。

5)トリスタン入射・蓄積リング(AR)は、主リングへのビーム入射のためのブースター加速器であるが、その役割は1〜2時間に1回で済む。そのため建設の早期から、この「あき時間」を放射光利用することが計画され、トリスタン実験が本格化した1987年度から、世界第1級の大強度 X線源としても活躍してきた。使えるエネルギーは放射光リングの2倍以上の 6.5 GeVであり、さらに非常に短い大電流シングルバンチという特徴も生かされている。この優れた特徴は、主リングへの入射器としての性能向上の過程で確立されたものである。

なお、加速器複合体の「有効利用」が進むにつれ、学問分野としても運営の面でも入り組んでくる。こういう多面的なかかわりを基礎科学の進展に生かす方策は、今後の大きな課題である。


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