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トリスタン計画報告書TOP
 高エネルギー物理学研究所長挨拶
 高エネルギー委員会委員長挨拶
 1. は じ め に
 2. トリスタン計画の概要
 3. 研 究 成 果
 4. トリスタンと加速器科学
 5. 周辺分野との関わり
 6. ま と め
 List of Figures
 List of Tables
 グラビア写真集
 
高エネルギー委員会・委員長挨拶

トリスタン計画最終報告書を刊行するに当たって、大学研究者の一員としてご挨拶申し上げます。トリスタン計画は、素粒子論分野では湯川朝永両博士を頂点に世界をリードしていたわが国が、実験面においても世界の第一線に並んだという意味で、わが国の科学史に残るエポックメーキングな事業でありました。成熟した高エネルギー物理学研究コミュニティの存在は、当該国の経済および及び科学技術が、如何なる水準に照らしても第一級であることの証となるという意味では、一つの社会現象でもありました。

エネルギーフロンティアは、常に未知の新粒子発見の可能性を秘めています。フロンティアでの研究は、高エネルギー物理学者が望む最大の好機であり、私自身その体験を得られたということは研究者としての冥利に尽きる思いです。残念ながら神は我に頬笑まず、結果的にはトリスタンエネルギー領域に新粒子は存在しませんでした。しかし、この冊子に述べられているように、素粒子の標準理論を検証し新理論のテストを行うなど、我々はあまたの成果を挙げることができました。大学での新入生に対して「素粒子の最先端の研究をやれるのだよ」と説明できることは、教育者としてどれだけ誇らしく思えたことでしょう。トリスタンを経験した若手新鋭研究者の研究水準と意識は、私たちの学生時代とは比較にならないほどに高くなりました。現在はトリスタンの第2期計画としてBファクトリー計画を立ち挙げつつあり、次期計画として50GeV陽子加速器、さらには前人未到のTeV領域リニアコライダーの21世紀初頭建設を目指しています。これはおそらく世界に開かれた国際研究所としての形態をとると予想されます。

高エネルギー物理学は、学問的な意味においてばかりでなく、いろいろな意味でフロンティアにあります。高エネルギー物理学研究所は、わが国で最初の巨大科学のための本格的な国立・共同利用研究所でありました。これを機に、高エネルギー物理学分野では、大学の研究が狭い部屋に閉じこもった個人ベースから、共同研究所を使うグループ研究へとメタモルフォーシスが行われました。今やこの潮流はあらゆる学問分野に波及しています。また、東大素粒子研究センターが口火を切り、つづいて1979年から始まった日米協力研究などの国際共同研究は、本格的な国際研究事業のモデルとなり、多様な分野に広がって行きました。高エネルギー物理学は、常に問題提起を行うとともに、事業形態として時代の先端を切ってきたのです。私たちは今、巨大科学と大学研究をどう両立させるかの困難な局面に遭遇しています。リニアコライダープロジェクト達成などさらなる発展のためにには、運営面での巨大科学と大学研究の融和、および更なる国際化が大前提となりましょう。しかし、高エネルギー物理学を学ぶ人々は、常にパイオニアとしての誇りを持つと同時にあまたの障害を乗り越えてきましたし、今後も確実に乗り越えて行くことを確信しています。

高エネルギー委員会 委員長 大阪大学 理学部 教授 長島 順清


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