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トリスタン計画報告書TOP
 高エネルギー物理学研究所長挨拶
 高エネルギー委員会委員長挨拶
 1. は じ め に
 2. トリスタン計画の概要
 3. 研 究 成 果
 概略
標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見
標準理論を越える新しい現象の探索
光子・光子コライダーとして
実験技術の開発
 4. トリスタンと加速器科学
 5. 周辺分野との関わり
 6. ま と め
 List of Figures
 List of Tables
 グラビア写真集
 
3. 研究成果

3.1 概略


トリスタン実験が開始された1986年には、標準理論はすでに素粒子を記述する正しい理論としてその地歩を築きつつあった。しかしながら、その基本的な構成要素であるトップクォークやヒッグス粒子は未だ発見されておらず、また-Z0の干渉現象や強い相互作用の理論である量子色力学についても実験的に不明瞭であり、標準理論の高水準での実験的検証が強く望まれていた。一方この理論も、より高いエネルギーでの別な理論の低エネルギー近似であるとする考え方が一般的であり、超対称性理論を始めとして標準理論を越える物理を構築する試みが数多くなされ、その実験的な手掛かりが求められていた。

トリスタン実験はこのような背景のもとで、2.4節で述べ たプログラムに沿って実施されたが、今までに得られた主な成果は次のように三つに 大別される。
  1. 標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見
    • Z0の質量の決定
    • Z0と光子の干渉の測定とトップクォーク存在の間接的証明
    • フェルミオンの世代数が3であることの証明
    • 強い相互作用の結合定数αsの測定とそのエネルギー依存性の証明
    • グルーオンの自己相互作用の証明
  2. 標準理論を越える新しい現象の探索
    • 超対称性粒子の探索
    • 磁気モノポールの探索
    • クォーク、レプトンの複合性
    • 第2のZ粒子(Z')
    • エネルギー精査実験
  3. 光子・光子衝突反応の研究
    • 光子の構造関数の測定
    • 光子分解過程の証明
    • 2光子反応における共鳴状態の測定
このうち1は標準理論の精密な実験的検証に加えて、それまでに確かな実験的証拠が得られていなかった現象について、予言が正しいことを証明したものであり、標準理論を新しい角度から検証したものである。これに属する一連の研究によって、標準理論は現在到達可能なエネルギー領域の現象を記述する正しい理論であることが証明されたと言ってよい。また2に属する研究は超対称性理論等の仮説に基づく新現象の探索や、他の実験結果が示唆する標準理論からは説明のできない現象についての研究で、これらの研究によってより高いエネルギーでの理論に強い制限を与えたものである。一方、3に属する研究は標準理論の範囲内の現象に関するものであるが、光子・光子衝突の物理であるという点で、別に分類するのが適当である。

これらの結果は、電子・陽電子衝突反応というクリーンな体系の中で、総合的に標準理論を検証できる水準に達したことを意味し、特にボトムクォークの量子数、グルーオンの色電荷、相互作用の結合定数といった最も基本的な面を解明し、さらに光子・光子衝突反応を用いて光子中のグルーオンの分布を始めて測定した等の点で大きな意義を持つ。

このような研究成果は、表8に示した手段によって国際的に発表され ている。 図19に物理をテーマとする国際学術誌への掲載論文数を実験開始の1987年より1995年まで一年ごとの数で示した。物理のテーマごとの推移を見ると新粒子探索を中心とする第1期、各相互作用の系統的研究の第2期実験の様子が明瞭にわかる。また、図20には同様に実験技術をテーマとするものの推移をプロットした。当然のことながらこれらは実験開始以前に集中しているが、測定器の性能向上を目指した第2のピークが1992年を中心に見られる。

次に、それぞれの研究成果についてやや詳しく述べる。
 


  国際学術誌掲載論文物理153篇(うち43は理論計算)
  実験技術110篇
国際会議等招待講演 141回(全実験を代表する総合講演は)
学位取得  94名(うち外国機関から32名)

  Table 8: トリスタン実験の研究成果発表(1996年5月現在)

  
Figure 19: トリスタン実験での物理に関する論文数の推移(1995年12月現在)。赤色の棒グラフは新粒子探索、黄色は電弱相互作用、緑色は量子色力学、青色は2光子衝突過程についての論文を表わす。また、色の濃淡は実験グループを示し、濃い順番にVENUS、TOPAZ、AMY、SHIPグループの論文である。 Figure 20: トリスタン実験での実験技術に関する論文数の推移(1995年12月現在)。赤色の棒グラフはVENUS、緑色はTOPAZ、青色はAMYグループの論文である。


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