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3. 研究成果 3.1 概略 トリスタン実験が開始された1986年には、標準理論はすでに素粒子を記述する正しい理論としてその地歩を築きつつあった。しかしながら、その基本的な構成要素であるトップクォークやヒッグス粒子は未だ発見されておらず、また-の干渉現象や強い相互作用の理論である量子色力学についても実験的に不明瞭であり、標準理論の高水準での実験的検証が強く望まれていた。一方この理論も、より高いエネルギーでの別な理論の低エネルギー近似であるとする考え方が一般的であり、超対称性理論を始めとして標準理論を越える物理を構築する試みが数多くなされ、その実験的な手掛かりが求められていた。 トリスタン実験はこのような背景のもとで、2.4節で述べ たプログラムに沿って実施されたが、今までに得られた主な成果は次のように三つに 大別される。
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このうち1は標準理論の精密な実験的検証に加えて、それまでに確かな実験的証拠が得られていなかった現象について、予言が正しいことを証明したものであり、標準理論を新しい角度から検証したものである。これに属する一連の研究によって、標準理論は現在到達可能なエネルギー領域の現象を記述する正しい理論であることが証明されたと言ってよい。また2に属する研究は超対称性理論等の仮説に基づく新現象の探索や、他の実験結果が示唆する標準理論からは説明のできない現象についての研究で、これらの研究によってより高いエネルギーでの理論に強い制限を与えたものである。一方、3に属する研究は標準理論の範囲内の現象に関するものであるが、光子・光子衝突の物理であるという点で、別に分類するのが適当である。
これらの結果は、電子・陽電子衝突反応というクリーンな体系の中で、総合的に標準理論を検証できる水準に達したことを意味し、特にボトムクォークの量子数、グルーオンの色電荷、相互作用の結合定数といった最も基本的な面を解明し、さらに光子・光子衝突反応を用いて光子中のグルーオンの分布を始めて測定した等の点で大きな意義を持つ。 このような研究成果は、表8に示した手段によって国際的に発表され ている。 図19に物理をテーマとする国際学術誌への掲載論文数を実験開始の1987年より1995年まで一年ごとの数で示した。物理のテーマごとの推移を見ると新粒子探索を中心とする第1期、各相互作用の系統的研究の第2期実験の様子が明瞭にわかる。また、図20には同様に実験技術をテーマとするものの推移をプロットした。当然のことながらこれらは実験開始以前に集中しているが、測定器の性能向上を目指した第2のピークが1992年を中心に見られる。 次に、それぞれの研究成果についてやや詳しく述べる。 |
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