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3. 研究成果 3.4 光子・光子コライダーとして トリスタンは電子と陽電子を衝突させる加速器であるが、同時に光子と光子の衝突の観測をすることもできる。電子と陽電子が衝突する際(いわば衝突の直前)に、ある確率で、電子と陽電子のそれぞれから光子が放出され、この光子同士が衝突するわけである。この光子は、厳密には「仮想光子」と呼ばれる短時間しか存在できないもので、普通の光子(実光子)とは少し違うものであるが、その大部分は実光子とほとんど変わらない性質を持っていると考えてよい。実光子同士の高エネルギーコライダーが技術的な理由によりまだ実現していない現状にあって、高エネルギーの電子 ・陽電子コライダーは、光子・光子コライダーとして貴重な実験の機会を与えてくれる。 量子電磁力学(QED)によれば、光子は、電磁相互作用を媒介するゲージボゾンで、点状で構造を持たない粒子である。しかし、実際の高エネルギー光子は、反応する時に、量子力学的ふらつきによって、ベクトル中間子(,,)や、クォーク・反クォークペアのような構造を持ったハドロンのように振る舞うことが知られている。このために、光子・光子の反応(2光子反応とか2光子過程とか呼ばれる)では、 電磁相互作用と強い相互作用の両方が働き、実に多彩な現象をもたらす。 電子からある角度を持って放出される仮想光子(仮想性 "virtuality"の大きい光子) は、衝突する相手の素粒子の内部深くを探索できる能力を持っているので、これを実光子に近い光子(virtuality 0の光子)にぶつけることにより光子の構造の研究ができる。また、実光子に近い光子同士の衝突によるハドロン生成現象を詳しく調べることによっても、光子の構造やハドロン生成のメカニズムに迫るユニークな研究が可能である。 電子から放出される光子のほとんどは、親の電子よりもかなり小さいエネルギーしか持っていない。よって、高いエネルギーでの光子・光子衝突を起こすには、高いエネルギーの電子(高いエネルギーの光子をより高い確率で放出できるので)と高いビーム輝度(1個の電子から高いエネルギーの光子が放出される確率はそれでもまだ小さいので)の両方が必要である。トリスタンはこの両方の特長を兼ね備えた光子光子コライダーにふさわしい加速器である。また、トリスタンのエネルギー領域では、電子 ・陽電子消滅反応の断面積が小さいので、消滅反応よりずっと多くの2光子反応が観測される。これは、よりエネルギーの低い加速器(PETRAなど)およびZボソンの質量に対応するエネルギーを持っている加速器(LEPなど)において消滅反応がより多いことと対照的である。 |
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