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3. 研究成果 3.4 光子・光子コライダーとして 3.4.2 光子分解過程の実験的検証 2光子反応からハドロンが発生する過程には、以下に述べる3種類がある。光子が、QEDが示すように点状の粒子として、の大きいクォーク・反クォーク対を生成する反応は、direct 過程とよばれる(図41(a))。クォークのが小さいときは、クォークと反クォークはグルーオンを多数交換し、 中間子などに変換する。この場合は、光子はハドロンのように振る舞い、図41(b)に示すように光子・光子散乱は 散乱と同じようになる。この反応は、VMD(Vector Meson Dominance)過程と呼ばれている。 光子がハドロン粒子の様に振る舞った場合に、光子全体が反応に関与するのではなく、光子のハドロン成分に含まれるパートンと他の光子(図41(c)はその一例)、またはパートン同士が二体散乱を行うことがある(図41(d)はその一例)。この様な反応はresolved photon 反応(光子分解反応)と呼ばれ、それぞれ1光子分解反応と2光子分解反応と呼ばれる。これらの反応においては、二体散乱からの大きいを持った2ジェットの他に、生き残ったパートンが作るジェットができる。この生き残りジェットはビーム方向に放出されるので、一般には測定が困難であるが、不可能ではない。 つまりこの過程からは3ジェットや4ジェットが観測されることもある。 2光子反応からの高いを持ったハドロンの生成やジェット生成の測定は、PETRAおよびPEP実験で最初に行われている。測定された断面積はVMDとdirect過程から期待される値より大きかったが、光子分解反応との定量的な比較はなされず、その原因は分からなかった。 AMYグループが同様な測定をした時、VMD+directからのデータの超過は、これらの低エネルギー実験より一層増加している結果を得た。そこで、QCD理論に基いて求められた光子分解反応の断面積を使って計算したところ、測定結果はVMDとdirect過程に光子分解過程を付け加えたものと一致した。結果の一例を図42に示す。 ここではThrust分布についてデータと理論の比較をしている。Thrust は事象の形状を表す量で、2ジェット事象の場合は1に近い値をとり、ジェットの数が増えると小さな値を取る。こうして光子分解反応の存在が初めて実験的に検証された。光子中のグルーオン分布による寄与は、光子分解反応の約半分を占めており、実験データを説明するには不可欠のものである。光子中のグルーオン成分の存在を実験的に検証したのは、この実験が最初である。 その後TOPAZグループも同様の解析を行い、さらにジェットの再構成を行うことにより、ジェットの生成断面積を算出し、図43に示すように、上に述べたのと同じ結論が得られた。これらの結果は、提案されていた光子中のパートン分布関数に制限を与えた。 さらにTOPAZは、2ジェット事象について、それらの事象に含まれている粒子のエネルギーの分布(エネルギーフロー)を角度の関数として描画した (図44)。明らかにビーム軸の近くに、分解反応に固有の生き残りジェットが検出されている。こうして、光子分解反応の存在はより一層確かなものになった。 次のステップとして2光子反応からのチャームクォーク対生成事象の解析が3グループにより行われた。この場合の主な寄与は、 direct反応と、光子とグルーオン散乱による1光子分解反応(図41(c))である。従ってこの測定により光子中のグルーオンの密度を決めることができる。チャームクォーク事象を選別するために、1)*±→0±崩壊モードを使用して、チャームクォークを含むベクトル中間子*±の質量再構成または低いエネルギーの±の捕獲を行う。2)±→0±崩壊モードなどからのレプトン±を捕らえる、などの方法が採られた。 どの実験結果においても、光子中のグルーオン密度として比較的大きな値を与える分布関数を用いれば、 VMD+direct+光子分解反応によりチャームクォークの生成断面積のデータをほぼ説明できることが分かった。しかし*のが2-3 GeV/cより大きい所では、データのほうが理論の予想値より大きく、この食い違いの理由についてはよく分かっていない。 |
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