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3. 研究成果 3.2 標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見 素粒子物理学の描像では、物理的世界は 物質の「基本粒子(素粒子)」と その基本粒子間に働く「力(相互作用)」により記述される。現在の標準理論では、物質の基本粒子はフェルミオンと呼ばれる種類の粒子で、6個のクォークと6個のレプトンよりなる。
図21に示すようにクォークとレプトンは、電荷の異なる粒子で対をなし、3つの「世代」と呼ばれる階層を構成している。フェルミオンの質量は世代数と共に重くなるが、ニュートリノは 全ての世代で質量を持たないことが標準理論の特徴である。標準理論では、3種類の力(電磁・弱い・強い相互作用)があり、それぞれ異なるゲージ粒子と呼ばれる素粒子が媒介することにより起こる。電磁相互作用は良く知られている荷電粒子の間に働く電磁力で 光子を、そして、弱い相互作用はベーター崩壊等に関与する力で±と粒子をゲージ粒子とする。標準理論の根幹をなしているのは、真空の自発的対称性の破れを介したこの2つの力である。 両者は起源を一にし、自発的対称性の破れによって本来質量を持たなかった二種類の中性ゲージ粒子が混合し、質量の大きな 粒子と質量の無い光子に分化したと考えられている。もう一つの重要な要素をなす強い相互作用は、 原子核の中の陽子、中性子を結び付けている核力の本質であり、ゲージ粒子としてグルーオンを媒介し、「量子色力学(QCD)」と呼ばれる理論により記述される。この力は、「色電荷」をもたないレプトンには働かず、クォーク間のみに働き電磁力と比べて数十倍ほど強いが、後述のように他の2つの相互作用とは異なる極めて特徴的な性質を持つ。 電子・陽電子の弾性散乱 +−→+−、レプトン対の生成 +−→+−(=, )、及びクォーク対の生成 +e−→(=u, d, s, c, b) は、トリスタンなどの電子・陽電子コライダーにおける最も代表的な反応である。弾性散乱の場合を除いて、標準理論ではこれらの反応は光子又粒子への電子・陽電子対消滅とそれに引き続く対生成で記述される。 トリスタンのエネルギー領域では、以前の同種加速器と同様に光子を通しての反応が主 であるが、粒子生成のエネルギーにかなり近いため、粒子の影響も十分に測定できる大きさである。 さらにの影響のうちで、粒子そのものを通しての反応の比率は小さく、光子を通しての反応との量子力学的な干渉効果がその大半を占めているという事である。光子ととの干渉現象では、この二種類の粒子の相互関係があらわに現れる。すなわちトリスタンにおける上記反応の測定は、標準理論の最も重要な要素であるゲージ粒子の混合/分化機構の直接的検証となるものである。 一方、電子・陽電子対消滅におけるクォーク対生成反応は、強い相互作用を記述するQCD理論の 定量的な検証の格好の場を提供する。トリスタンでは、以前の同種加速器(PEP,PETRA)よりもエネルギーの高い利点を活かして、後述の様な新しい現象の発見が可能となった。 標準理論は、弱い相互作用から強い相互作用まで 現在到達可能なエネルギー領域の大部分の物理現象を網羅する理論であり、1つの加速器による実験で全て検証できるものではなく、他の実験と 相補・競合して検証を進めるものである。以下に述べるように、その中でトリスタンは重要な役割を果たしてきたと言える。 |
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