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3. 研究成果 3.2 標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見 3.2.3 電磁相互作用の結合定数の測定 電子・陽電子反応中のZボゾン交換によるものは、現在ではLEP実験により0.1%程度の精密さで実験的に検証されている。一方、光子交換による反応は、トリスタンで精度よく測定できる。このことは、電磁相互作用の結合定数を高エネルギーで実験的に決定できることでもある。 この結合定数は電荷の2乗に比例する量である。通常、電荷は、無限大の大きさをもつ『裸の電荷』がその回りを取り囲んでいる仮想粒子対の電荷によって相殺され、観測される有限値をもつと考えられている。したがって、反応エネルギー()を上げ『裸の電荷』に接近すればするほど、観測される電荷は大きくなると予想される。このような反応エネルギーに依存する電荷の振る舞いは、量子電磁力学によって正確に計算できる。結合定数は反応エネルギー0でひじょうな精度で測定されているが、エネルギー依存性が対数的にゆるやかなため、その実験的検証にはトリスタンによる高エネルギーでの精密実験が必要であった。 TOPAZグループは、次の2つの方法により反応エネルギー=57.77GeVでを測定した。最初の一つは、最も統計の多いハドロン生成断面積によるもので、その測定誤差は積分ルミノシティーの誤差で決定されている。もう一つは、反応エネルギーが57.77GeVである電子・陽電子消滅過程によるミューオン対生成(+−→+−)と、平均反応エネルギー(2 (12))のはるかに低い2光子過程によるミューオン対生成(+−→(+−)+−)断面積の比より求められる。この場合、積分ルミノシティーの誤差は2つの過程で相殺され、その測定誤差のほとんどは統計誤差である。特に、2つ目の方法は、観測される終状態が同じで多くの系統誤差が相殺されるため、高統計の実験にとって魅力的なものである。また、量子色力学過程による不定性もない。これらの結果は、図26に見るように、実験的にがエネルギーとともに大きくなっていくことを疑いもなく示した。このことは、引き続く章で述べるように、強い相互作用の結合定数がエネルギーとともに小さくなることと相まって、すべての結合定数が高エネルギーで一つの値に収束するという統一理論の描像を強く示唆している。 Figure 26: 反応エネルギー=57.77GeVでのTOPAZグループによる電弱相互作用の結合定数の測定。ハドロン生成断面積によるものと、電子・陽電子消滅過程と2光子過程によるミューオン対生成断面積の比からの測定値をプロットした。また、その超精密実験値を入力として計算された理論の予言を正・負の2の関数(曲線)として表わした。 |
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