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3. 研究成果 3.2 標準理論の精密検証とその予言する新しい現象の発見 3.2.1 の質量の決定 現在、の質量は、標準モデルのパラメーターの中で最も精度よく測定されているものの一つである。SLC/LEP実験開始の1989年夏以前では、CERNのコライダー実験(UA1、UA2)による直接測定と、トリスタンデータを主とする電子・陽電子コライダーによる間接測定の2つがあった。後者の間接測定とは、標準理論と実験データとを比較することによってそのパラメーターの最適値を決定するものである。特に、 の質量は各種反応のエネルギー変化をもたらし、トリスタンはハドロン比の測定値をプロットした図22で明らかなように、電子・陽電子コライダーとして初めて の影響に敏感なエネルギーに到達した。もし上の2つの測定値に大きな食い違いがあったなら、標準理論では説明されない新しい現象を示唆することになる。 ハドロン比R は、クォーク対生成によるハドロニック事象(3.2.5参照)の全断面積を、光子交換のみによるミューオン対生成の全断面積の理論値で割った(式5)で定義される。
トリスタンの結果は図23のようにUA1、UA2の大きな測定誤差(質量=92.5±2.5 GeV)の範囲であるが、より小さい測定誤差(1)でその中心値が90.9 GeVと明らかにより低い値を示した。この結果は当時非常に注目され、その後のSLC/LEP実験がどこにピークを探すべきかを教えるデータとなった。LEPでの精密実験による最新の値は図23中にxで示してあり、91.1884±0.0022 GeVとなっている。 また、ハドロン生成断面積のエネルギー依存性に関する解析を行うことにより、の質量と- 干渉項の大きさ を、標準理論を仮定しない一般的な値として求めることができた。この測定結果と、LEP実験のOPALグループのデータ(1993年)とをあわせた総合解析の結果を図24に示す。ここに示されているのは - 平面内の1の制限である。OPALグループのデータのみによる制限(OPAL only)に比べ、TOPAZとOPAL両者のデータを用いた制限(OPAL + TOPAZ)が著しく厳しくなっていることがわかる。これにより 粒子の質量 の決定精度も向上している。この結果、16MeVあった の誤差が、TOPAZのデータを加えることで8MeVまで小さくすることができた。 Figure 22: トリスタン領域でのハドロン比の測定値(第一期)とより低い重心エネルギー(50GeV以下)の電子・陽電子コライダー(DORIS、PEP、PETRA実験)での測定値 Figure 23: 1989 年までのトリスタンデータとPETRAデータによる質量とワインバーグ角に対する制限とその当時のハドロンコライダー(UA1,UA2グループ)による測定値。現在のLEPによる精密測定値をxで示す。 Figure 24: モデルに独立な4パラメーター解析結果:TOPAZとOPAL(1993年)のハドロン生成全断面積に基ずく - の制限。ここで、 はZ崩壊巾のs依存をもつ通常の より34MeV低い値をもち、 は光子とZボゾンの2つの交換過程の干渉項の係数である。 |
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