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2. トリスタン計画までの状況 2.4 トリスタン実験プログラム トリスタン加速器による電子・陽電子衝突実験は、まず1986年11月にその試運転を兼ねた予備実験、そして1987年5月から本格実験に入り、9年後の1995年に終了した。この長期にわたる運転期間は、ビームエネルギーを上げることにより、エネルギーフロンティアでの実験をめざした第1期(1990年以前)と、ビーム輝度(ルミノシティー)を増すことにより観測される事象の数を増やし、高い精度での実験をめざした第2期(1990年2月以降)に大別される。このプログラムは、毎年開かれたトリスタン物理審査委員会の指導のもとに展開し、また成果もその都度レビューを受けた(表6)。トリスタン実験に関する年表を表7に示す。 第1期:エネルギーフロンティア; 世界最高エネルギーでどんな現象が見えるか? 第1期のトリスタンは、電子・陽電子コライダーとして世界最高エネルギーを誇り、他の加速器では発見できない重い新粒子の探索を期待された。そこで、ビームエネルギーを徐々に上げながら、どのような現象が起きるのかを概観しながら実験を続けた(図17)。とくに、1988年夏に新たに設置された超伝導加速空洞は、ビームエネルギーを上げるうえで絶大な効果を発揮し、世界に先駆けて50から64GeVに及ぶ新しいエネルギー領域での研究を可能にした。実験の解析も、トップクォーク、第4世代レプトン、SUSY(超対称性)粒子などの新粒子の発見をめざして迅速に行われた。これらの研究により、トリスタンで捜索可能な質量領域にこれらの新粒子は残念ながら存在しないことが判明した。 この期間に各実験グループは約50pb-1相当のデータを得ており、物理解析は新粒子探索にとどまらず、クォーク・グルーオン結合のエネルギー変化を初めて立証したり、ニュートリノの数に新たな制限を与えるなどの展開を見せた。 |
第2期:体系的研究; 更に詳しい観測から新たな展開の可能性を集中的に追求 トリスタンよりビームエネルギーの高い電子・陽電子コライダーとして、米国のSLC、ヨーロッパのLEPが、1989年から運転を開始した。これに対応して、ビーム輝度で勝るトリスタンは、さらにビーム輝度を増す改良を行った。特に1990年夏には、衝突 点の近くに超伝導4極電磁石を設置することにより、ビーム輝度を倍増することに成功した(図18)。ビームエネルギーは、加速器を安定して運転でき、かつトリスタンのエネルギー領域の特徴を生かした物理の研究ができるところに固定された。ビームエネルギーを固定することは、同じ条件で多くの衝突事象を集めることにより、高い精度での測定結果を得ることにも有利に働いた。さらに、実験装置に新たな検出器を加えることにより、1つの事象についてより詳しい情報が得られるようになり、測定精度が向上した。また、衝突事象の発生頻度の増加に対応すべく、データ収集システムの改良が行われた。 こうして良く調整された加速器と、機能が増強された実験装置がそろった。この第2期における物理としては、レプトン対やクォーク対の生成反応を用いた電弱相互作用の諸性質の測定、ハドロンジェットの測定による強い相互作用の研究があげられる。これらは、いずれも高い精度で測定することによりトリスタンのエネルギー領域のユニークさを生かすものである。また、高エネルギーでの2光子過程によるハドロン生成の研究は、ビームエネルギー、ビーム輝度の両方が高く、かつ、電子・陽電子消滅反応からのバックグラウンドが小さいというトリスタンの特長を最大限に利用したもので、他の加速器の追随を許さない。この間、LEPでの実験で、レプトン対と同時に2光子が生成される確率が、理論の予想からはずれている可能性が示された。トリスタンでは、これを受けて急遽エネルギーを細かく変えながら(エネルギー精査実験)2光子生成の測定を行い、このような異常を生み出すもとと考えられる新粒子はないことを確認した。 この期間の集中的な実験により、各グループは300pb-1を越える良質なデータを蓄積した。今までは有意な量のデータを得るたびにトピカルな物理解析を行った結果を発表してきたが、今後は全データを使った総合解析の時期に移る。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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