GPUを利用した放射線シミュレーション・コードMPEXS-DNAに関する論文が Medical Physics誌トップダウンロード賞を受賞

計算科学センターの岡田勝吾助教らの論文「MPEXS-DNA, a new GPU based Monte Carlo simulator for track structures and radiation chemistry at subcellular scale」が、掲載されたMedical Physics誌の2018-2019トップダウンロード賞を受賞しました。 この賞は、米国のAAPM Medical Physics誌のonline出版からの12か月の間に最もダウンロードされた10%の論文に与えられるもので、大きな注目を集めている研究であることを示しています。 論文には計算科学センターから佐々木節教授、村上晃一准教授、尼子勝哉研究員も共著者として名を連ねています。

岡田助教による論文の内容の解説
計算科学センターでは学際的研究の一環として、モンテカルロ・シミュレーションによるDNAの放射線損傷メカニズムの解明に関連した研究を進めています。放射線を細胞にあてるとラジカル等の活性種が生じ、それがDNA分子と反応してダメージを与えます(下図参照)。シミュレーションでDNA損傷を見積もることができれば、宇宙飛行士などの低線量被爆による人体への影響をより定量的に評価できます。また、がんの放射線治療の高度化に向けた発展的研究にも繋がると期待できます。

放射線によるDNA損傷の模式図

このシミュレーションでは、細胞核内部の荷電粒子のエネルギー損失分布や活性種の分布を計算します。その計算量は膨大でありCPUクラスタでも数日から数週間という長い時間を要します。研究を進める上で、計算時間がボトルネックとなっております。そこで、グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)を利用した放射線シミュレータ「MPEXS-DNA」を開発しました。GPUは画像処理に特化した並列演算デバイスであり、近年はAIをはじめ様々な科学計算のアクセラレータとしても注目を浴びています。MPEXS-DNAには、Geant4-DNA[1]と同等の物理・化学反応プロセスをCUDAというGPUプログラミング言語で一から再実装しています。水に放射線をあてたときの放射線反応をシミュレートできます。本研究は、2016年にNVIDIA社主催のGTC Japan 2016において最優秀ポスター賞を受賞しました[2]。その後、MPEXS-DNAコードの最適化を進めていき、ハードウェアの性能向上も相まって、計算速度は当時から更に飛躍しております。

Certificationの画像

岡田助教は今回の受賞について、「米国の学会誌において、本論文が注目されていることに大変光栄に思います。MPEXS-DNAはまだまだ開発途上であり、今はDNA損傷の評価モデルの実装を進めています。MPEXS-DNAの研究開発を通じて、放射線生物学分野の発展に少しでも貢献できたらと思います。」と語っています。

参考情報