第八回粒子物理コンピューティングサマースクールを開催しました
2025年7月28日から8月1日の5日間、粒子物理コンピューティング懇談会 [1] 主催によるコンピューティングサマースクール [2] を開催しました。粒子物理コンピューティング懇談会は、素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理分野のコンピューター利用技術に関するコミュニティで、大学院生を対象にした本サマースクールはその活動の柱となっています。2017年から開始した本サマースクールは、今年で8回目の開催となりました。
今年もKEKつくばキャンパスを会場とし、全国の11大学から27名の学生が参加しました。KEK計算科学センターからは7名が講師として参加しました。講習内容は、粒子物理分野で広く使われている「ROOT」「RooFit」「RooStats」(データ解析ソフトウェア・ライブラリ)、「Geant4」(放射線シミュレーション・ツールキット)、「DIRAC」(分散コンピューティング・インターウェア)や、量子コンピュータなど最先端のシステムなど幅広い内容を扱いました。また、計算機アーキテクチャ、コンテナによる仮想化技術、ネットワーク通信の原理、新しいC++言語の記述方法、Git(ソフトウェアのバージョン管理システム)といった基礎的な内容に加え、GPUプログラミングや深層学習など、近年積極的に利用されている技術も扱い、例年と同様に多彩な内容となりました。
今年度は、プログラムを見直し、2つの大きな改善を行いました。1つ目は、リアルタイム・コンピューティング講習の新設です。リアルタイム・コンピューティングとは、即時性が求められる計算処理を指しており、加速器実験ではデータ取得システムやトリガーなどがそれに対応します。基本的な考え方から要素技術、実際の実験での実装、AIを取り入れた最近の潮流までを解説した講習内容です。2つ目は、分散コンピューティングにおける実習の充実です。座学に加えて手を動かしながら理解を深められるように、実際の分散計算機環境を模した実習環境を用意しました。
実習環境はmdx [3] と呼ばれる学術用クラウドサーバーを利用し構築しました。参加者は、サマースクールの期間中に自分で実習テーマを決めて取り組み、最終日に成果発表をしました。実習テーマに取り組むにあたって、参考文献の検索やプログラムコード生成などのために、生成AIを積極的に活用していたのは、これまでにはなかった傾向です。短い実習時間にも関わらず、この講習で学んだ内容を自分自身の研究テーマに取り込もうという意欲が感じられる発表や、機械学習や量子コンピュータに初めて取り組んだ、という挑戦が多く見られた点がとても良かったと思います。参加者した学生への良い刺激を与える場となったと期待しています。


なお、本サマースクールは東京大学素粒子物理国際研究センターと、高エネルギー加速器研究機構による令和7年度KEK加速器科学国際育成事業(IINAS-NX) [4] からサポートを受けて開催されました。