加速器でつながるアジア

アーカイブ
アジア加速器プラザのホームページ

「科学先進国」というと、真っ先にイメージに浮かぶのは、アメリカやドイツなど欧米諸国だろう。事実、20世紀の基礎科学分野をけん引してきたのは欧米諸国。ノーベル賞が生まれたのも欧米なら、その受賞者数も圧倒的に欧米がリードしている。近年、世界的な経済のグローバル化が進み、エコノミックパワーとしてのアジアの存在がクローズアップされることが増えてきた。特に、急速に経済発展を遂げている中国は、13億人という圧倒的な人口を背景に、製造業の拠点としてはもちろん、市場としての重要性も注目されている。ところが、その中国でさえ、科学技術となると、マスコミで紹介される機会は決して多くはない。ともすると後進国のようなイメージがあるかもしれない。しかし、アジアは科学技術の世界でも、非常にパワフル。欧米に次ぐ第三極としてその力を世界に示し始めている。今回は、日本以外のアジア諸国における加速器科学の取り組みについて紹介しよう。
80年代後半、アジアにおける加速器建設の気運が急速に高まった。その背景にあるのがアジア各国の国家計画だ。中国では、88年から中国高能物理研究所(IHEP)で電子・陽電子衝突型加速器「BEPC」が稼働。08年、その性能を大幅にアップグレードした「BEPC-II」が完成し、現在、高エネルギー物理学と放射光プログラム両方の目的で運用されている。IHEPではさらに、国際リニアコライダー(ILC)の主要な要素開発となる超伝導加速空洞の研究開発にも本格的に着手。さらに、国家重大科学技術基礎施設の1つとして、日本の大強度陽子加速器施設(J-PARC)との協力のもと、J-PARCに匹敵する核破砕中性子源の建設も進められている。また、世界トップレベルの放射光施設となる「上海放射光」も、08年に建設が完了。今年2月に硬X線領域のファーストビーム発生に成功している。90年代に放射光施設が建設され、以降活発な活動が続けられている韓国では、今年1月、政府が、希少同位体加速器を中心施設とする、国際的な科学ビジネス地帯の大型建設プロジェクトにゴーサインを出した。やはり90年代に建設された台湾の放射光「台湾光源施設」は、05年に大規模なアップグレードを完了させ、さらに13年稼働予定の新しい施設「台湾光子源施設」の建設を開始しようとしているところだ。さらに、日本も正式にオブザーバー参加しているヨルダンの国際放射光施設「SESAME」や、つくば市にあった放射光加速器を日本の研究者が移転する形で01年に完成したタイの「サイアム放射光源」、シンガポールの小型放射光設備「シンガポール放射光源」など、アジアでは数多くの放射光加速器が活躍している。インドでは、ラジャ・ラマンナ先端技術センター(RRCAT)でINDUS-Iという放射光加速器が99年から運転されており、05年には、INDUS-IIが完成。高エネルギー加速器研究機構(KEK)との協力のもと、超伝導加速技術の研究開発施設の建設も始まっている。

P9013453.JPG_595t

アジアの加速器研究施設の広報担当者ら

このように、進展著しいアジア地域の加速器科学を発展させるため結成された組織が、アジア地域将来加速器委員会(ACFA)。ACFAは、アジアにおける将来の加速器のあり方を検討する委員会で、アジア各国における加速器の建設や利用計画について検討し、提言を行ってきた。ACFAがその建設を提言した加速器は、現在研究開発が進むILCをのぞき、すべて実現している。96年のACFA創設から今年で12年目を迎え、加速器科学におけるアジアの連携は、さらに重要性を増してきている。そこで、アジア加速科学の新しいコミュニケーション・ツールとして「アジア加速器プラザ」ウェブサイト(www.aaplaza.org)が今年3月にオープンした。このサイトは、アジアの加速器研究施設の広報担当者が協力して、中国語(簡体、繁体)、韓国語、英語、日本語で運用している。9月上旬には、担当者による初の会議も開催され、今後、加速器コミュニケーション分野でのアジアの協力の重要性や、今後、どのように発展させて行くかについて具体的な方策も話し合われた。

ILCは現在、米欧亜の三極体制で実現にむけた取り組みが進められている。アジアの協力関係を強固にすることは、ILC実現にとって特に重要である。研究開発とコミュニケーションの両面から、よりいっそうの関係強化が求められている。