世界の加速器科学研究者、一堂に会する ~第1回世界加速器会議(IPAC’10)開催~

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まるでラッシュアワー!? 世界の加速器・素粒子物理学者でごった返すコーヒーブレイク

2010年5月23日~28日の6日間、1200人を超える世界の加速器・素粒子物理学者、学生、産業界の代表が京都に集結した。最大規模の加速器物理の国際会議、第1回世界加速器会議(TheFirstInternationalParticleAcceleratorConference:IPAC’10)が、国立京都国際会館で開催されたのだ。「3年前に、それまで個別に実施されてきた世界の3地域の粒子加速器に関する会議-アジアのAPAC、ヨーロッパのEPAC、北米のPAC-をひとつの会議にまとめることが合意されました。この会議は、新しい会議の第1回目となるもので、粒子加速器の研究者にとって、大きなマイルストーンとなるものです」と語るのは、黒川眞一高エネルギー加速器研究機構(KEK)名誉教授。第1回IPACの名誉議長だ。

会議では、加速器科学や放射光科学、素粒子物理等に関する、各種プロジェクトの進捗状況、理論研究の現状など、96件の発表が行われた。それらに加え、1600件を超える研究者や学生によるポスター発表や約90社からの企業展示も実施された。「そもそも今回の会議は、APAC(アジアの会議)として開催する予定だったのです」と黒川氏。3つの地域会議をひとつの国際会議へとまとめる動きは、5年ほど前から始まった。最も長い歴史を持つ北米のPACは1963年に、ヨーロッパの会議EPACは1988年に開始され、両会議ともに2年毎、交互に開催されていた。会合の予定が重ならないため、会議の参加者は次第に地域を越え、実質的には国際会議へと姿を変えていた。一方、最も新しい会議となるアジアのAPACは、1998年から開始されたが、前身となる「日中加速器会議」の開催頻度を継承して、開催頻度は3年毎。そのため、開催時期が必ず北米かヨーロッパの会議と重複し、APACはアジアの地域会議の色合いを残すものとなり、参加者数も米欧の半数以下であった。

しかし、アジア地域が加速器科学の実力をつけてくるに連れ、国際会議へのアジアの科学者の参加が強く求められるようになってきた。米欧アジアが対等な協力関係を構築していくためにも、「三極体制」の構築が重要と、「まずはヨーロッパがEPACを3年周期で開催するという英断を下したのです。長い歴史を持つPACには、開催頻度の変更に対する抵抗が強かったのですが、最終的には3年周期への変更に同意しました。だったら、ひとつの会議に統合しようというのは、自然な流れでした」(黒川氏)。こうして、初めての世界加速器会議「IPAC’10」開催が実現したのである。

「多くの参加者を迎えて、大きな失敗もなく無事会議を終えることができて、ほっとしています」と語るのは、本会議の議長を務めた生出勝宣KEK加速器施設長。「特に、プログラム委員長の野田章京都大学教授や、開催地組織委員会委員長の白井敏之氏(放射線医学総合研究所:放医研)およびメンバーの方々、JACoW※チームの方々のご努力は本当に大変なものであったと思います。皆が本業の合間にこれだけの会議の準備・運営を、進んで引き受けてくださったことを、心から讃えたいと思います」と、会議を成功に導いた関係者を労った。

※JACoW:JointAcceleratorConferenceWebsite略称。加速器科学関連会議のプロシーディング(発表内容)の管理を行うウェブサイト。国際協力で運営されている。

IPACの開催は、世界の加速器科学の研究者、技術者が、対等な三極体制での研究推進に向けた第一歩。しかし、今後の課題は山積している。「アジアの力を底上げしてくために、日本が、そしてKEKができることは多いと思います」と生出氏は語る。「インドや中国の科学者が外国で研究しようとすると、日本ではなくて米国に目が向いてしまうことが多い。地理的に言えば、日本での研究の方がずっとやりやすいはずです。日本の受け入れ態勢を整備することで、KEKはもっとアジアに貢献できると考えています」。アジア各国における加速器科学は、その存在感を増している。インドの加速器関連予算は、年3割~4割増と目覚ましい伸びを見せており、中国では、1000人を越える大学院生が加速器科学を学んでいる。これまで中国やインドを足しげく訪問し、加速器科学を通じたアジアとの関係構築にも尽力してきた黒川氏は、「アジアの若手研究者に研究の機会を与えることがKEKの果たす役割でしょう。様々な方法で、継続的にチャンスを提供し、日本とアジアの国々との研究者や学生の行き来が当たり前のものになったら、その時初めて、アジアとしての対等な関係が構築できたと言えると考えています」と語る。IPACは、加速器科学の未来に向けた、世界の対等な協力関係の出発点と言えるだろう。次回のIPAC’11は、スペイン、サン・セバスチャンで2011年9月5~9日の日程で開催される予定だ。

講演中の平尾泰男氏(写真:左)

益川敏英氏(写真:右)

最終日の午後には、放医研元所長の平尾泰男東京大学名誉教授と、2008年度ノーベル物理学賞受賞者である、益川敏英京都大学名誉教授を迎えて、「加速器の果たす役 割-基礎物理学からがん治療まで」と題した市民公開講座が実施された。500名を越える参加者が、加速器を様々な側面から紹介する講義に、熱心に耳を傾けた。