8月5日(日)、ILC推進国際シンポジウム「ノーベル賞受賞者に聞く『ILCが開く科学の未来』」開催

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8月5日(日)、お茶の水女子大学(東京都文京区)の講堂・「徽音堂(きいんどう)」において、ILC推進国際シンポジウム「ノーベル賞受賞者に聞く 『ILCが開く科学の未来』」が開催されました。当日は摂氏34.1度に及ぶ猛暑にもかかわらず、ほぼ1,000人の熱心な参加者が集まりました。講演者は米国のノーベル物理学賞受賞者、バリー・バリッシュ博士とシェルドン・グラショウ博士の2名でした。

<バリー・バリッシュ博士について>
バリー・クラーク・バリッシュ博士(Barry Clark Barish、1936年1月27日生まれ) は、アメリカ合衆国の実験物理学者。カリフォルニア工科大学名誉教授「Linde Professor of Physics」。重力波研究の第一人者で、2017年、キップ・ソーン博士、レイナー・ワイス博士と共に、『LIGO検出器および重力波の観測への決定的な貢献』が認められノーベル物理学賞を受賞しました。

バリッシュ博士は、ILCと非常に深い関係があります。

ILCは粒子を加速する方式として「超伝導加速」を採用しています。1990年代には、日米欧がそれぞれILCのような直線型衝突加速器の計画を持っていました。2004年8月に「国際技術勧告委員会(ITRP))」が加速器の基本技術を超伝導加速方式に一本化する勧告を行いました。そして、世界で1つの計画、「国際リニアコライダー = International Linear Collider (ILC)」に統合されたのです。バリッシュ博士は、このITRPの議論を委員長として率いました。

その後、ILC設計のための組織「国際共同設計チームGloban Design Effort)のディレクターを2005年から2013年まで務め、世界に散らばる2000人以上の科学者をまとめて、ILCの最初の設計図ともいえる「技術設計報告書」を完成させました。

バリッシュ博士は、素粒子物理学の研究を進めるために「ベストな選択」が電子・陽電子衝突加速器であると言っています。そして「私たちはその設計を手にしている」と。

そう、それはILCのことです。

講演で、博士はILCの科学と技術を解説し、世界で進められている他の科学プロジェクトにも言及し、「たいていの素粒子物理研究者は将来加速器が必要であると考えており、それがILCだ。」と強調しました。

日本にILCを建設することに賛成との講演を行うバリッシュ博士
画像提供: Yukio Yanagi

<シェルドン・グラショウ博士について>
シェルドン・グラショウ博士(Sheldon Lee Glashow, 1932年12月5日生まれ)は、アメリカ合衆国の物理学者で、ボストン大学の数学・物理学の教授です。

自然界には「重力」「強い力」「弱い力」「電磁力」の四つの力があります。これら4つの力は、宇宙が誕生した頃はひとつの力であった、と科学者たちは考えています。そこで、これら4つの力を統一的に説明しようと研究が進められています。

グラショウ博士は、この4つの力のうち弱い力と電磁気力が深く関係していることを発見しました。電気や磁気、光、そしてある種の放射線はどれも「電弱相互作用」というひとつの力で統一的に説明できることを示したのです。のちに、アブドゥッサラーム博士とスティーヴン・ワインバーグ博士が、この理論に素粒子に質量を与える「ヒッグス機構」(ピーター・ヒッグス博士が提唱)を合体させ、電弱統一理論を生み出しました。この研究により3人は1979年度のノーベル物理学賞を受賞。この考えは現在の素粒子の標準理論の骨格を成す重要な理論です。

講演の冒頭で、「私の講演題目は「ILCの必要性」です。ILCの日本建設を応援するために、1万キロに及ぶ距離を超えやってきました。」と述べ、理論物理学者の観点からILCの秀でている点を説明しました。「ILCの実現は真に本質的なことです。もし、建設されれば、今後何十年以上にわたり素粒子物理学の中心になります。」さらに「また人材や新技術の開発などでも、ILCは素粒子物理学に留まらず、広く日本の科学全般を促進し、多くのスピンオフを引き起こすでしょう。」と講演を締めくくりました。

宇宙について理解しようと努力することは宇宙に生まれたものの
神聖な義務であると講演するグラショウ博士; 画像提供: Yukio Yanagi

またシンポジウムでは、小柴昌俊博士(2002年ノーベル物理学賞)大隅良典博士(ノーベル生理学・医学賞)からのメッセージ映像も上映されました。小柴博士は「ILCが何をもたらすかは建設されるまで本当のところはわからないでしょう。しかし、日本であれ、どこであれ、ILCは新しい物理の可能性を開きますから、ILCが作られることは物理学を進める者の大きな喜びになることは間違いありません。」と。一方、大隅博士は、「日本の教育システムは研究から早急な結果を得ようとするあまり、効率性を重視しすぎているように思います。日本は若者の未知への挑戦に寛容であるべきです。さもないと、若者は挑戦精神を持たなくなるでしょう。」と警鐘を発し、「日本という国は科学で立国していくという考えを示すべきです。そして科学分野で日本が貢献できる有利な領域があるということが重要です。」とも述べられました。

<シンポジムの記録映像の視聴>
バリッシュ博士とグラショウ博士の講演を含むシンポジウムの様子は以下のリンクから視聴いただくことができます。

バリー・バリッシュ博士によるILC応援メッセージの視聴は以下のリンクから。