アマンダ・シュタインヘーベルが素粒子物理学の楽しさをお伝えします

ILC ニュースライン

※この記事は2021年1月31日に発行されたILC NewsLineの翻訳記事です。

アマンダ・シュタインヘーベルさんは、2016年に米国オレゴン大学で博士課程をスタートした頃、すでに素粒子物理学に強く魅せられていました。大学院の最初の年が半分ほど過ぎた頃、彼女は素粒子物理学以外の分野ー難解な分野ではなく、より実践的な分野ーで研究を進めるべきではないかと考えていました。

「高エネルギー物理学を学びたいと思っていたのですが、責任を持てる仕事がしたいという気持ちもありました」シュタインヘーベルさんは云います。「もっと結果が目に見えるような仕事をすべきだと思っていたのです。なので、大学院の前半は”素粒子物理学はやめなさい”と自分に言い聞かせていました。でも無理でした。なので、高エネルギー物理学の道に進んだのです。」

それ以来、シュタインヘーベルさんはILCとCERNでのATLAS実験、両方の研究をしています。この選択は、ILCとATLASそれぞれの取組みの物理学的な繋がりを見出すとともに、コミュニティの中で人と人とのつながりを作ることを可能にしたのです。

それはある夏のことでした。

好奇心旺盛で、子供の頃から科学教育番組“Bill Nye the Science Guy”のファンだったシュタインヘーベルさんは、自分は科学に関する仕事をするだろう、と常に思っていました。彼女は、生徒数2,000名の小規模校であるオハイオ州のウースター大学に進学し、数学と物理を専攻しました。学業の幅を広げたかった彼女は、学部時代の夏を毎年物理学の研究インターンシップに費やしました。

「現代物理学の研究を学ぶのに一生懸命だったのです」、シュタインヘーベルさんは云います。

2013年の夏、彼女はコロラド大学のインターシップの一環で、フェルミ国立加速器研究所がホストする国際プロジェクトの地下深部ニュートリノ実験(DUNE)(当時は長基線ニュートリノ装置と呼ばれていた)で、ニュートリノに関する勉強をしました。この経験が、彼女を素粒子に夢中にさせました。

「あれは私にとって高エネルギー素粒子実験の初体験でした。初めて実際に手を動かして行う実験の経験は、ものすごく楽しかったのです。」

2015年、オレゴン大学大学院で研究を始め、後にリニアコライダー・コラボレーションのアソシエイトディレクターであったジム・ブラウ教授の研究室のメンバーとなり、素粒子の世界の研究を続けています。シュタインヘーベルさんは2021年に博士号を取得する予定です。

衝突とつながり

オレゴン大学での最初の2年間、シュタインヘーベルさんはILCの粒子検出の研究開発に専念しました。衝突型加速器用に検討されている2つの粒子測定器のコンセプトのうちの一つである、SiD設計が物理的に及ぼす影響について研究しました。彼女が特に注目したのは、微粒子シリコン検出器を用いた、測定器内での粒子衝突から発生する荷電粒子のエネルギーを記録する、電磁カロリメータ―と呼ばれるコンポーネントでした。例えば、測定器の形状の変化がカロリメータ―に現れる粒子シャワーの発生にどのような影響を与えるか、といったをシミュレーションを行いました。

そして3年目には、シュタインヘーベルさんはCERNの大型ハドロンコライダー(LHC)でのATLAS実験に目を向け、ILCと関連のあるヒッグス粒子(物質に質量を与える粒子)に注目しました。ヒッグス粒子はLHCでの衝突により生成される数多くの粒子の一つで、まれに他の粒子へと姿を変えます(崩壊)。シュタインヘーベルさんは、ヒッグス粒子の検出されない粒子への崩壊、すなわちヒッグス粒子から目に見えない粒子への崩壊の過程に着目しました。ATLAS実験では、これらの目に見えない粒子を記述するパラメータの範囲を狭めることはできるのですが、その程度は限定的です。そこでILCが役立ちます。

「ATLAS実験では、必ずしも精密にこの過程を測定できるわけではありませんが、ILCが出来れば、ILCを稼働したとたんに、測定したい『見えない粒子』の限界がわかるのです」とシュタインヘーベルさんは云います。「そのため、これら二つの異なる環境で同じ物理過程を調べ、両方の測定でで起こる複雑な現象を調べています。」

シュタインヘーベルさんはATLAS実験のため、スイス、ジュネーヴ近郊のCERNに3年近く滞在しました。その間にドイツにあるDESY研究所を訪れ、のちにILCのSiD測定器の設計となる研究をさらに進めました。研究者たちは、SiD用に開発された読み出しチップ(1,000ピクセルであることからKPiXと呼ばれる)を使用した高精度シリコン検出器をテストしており、シュタインヘーベルさんはDESYでテスト用粒子ビームを使用してチップの応答を研究することになりました。

「あれは、本当に充実した、完全燃焼の瞬間でした」と彼女は云います。

素粒子を人々に

シュタインヘーベルさんは、素粒子物理学の実験での開発と研究施設をむすびつけるだけでなく、それ以上のことを考えています。素粒子実験を可能にしている人々と科学ファンを双方向に繋げたいと思っているのです。

例えば、SLAC国立加速器研究所が最近主宰したILCワークショップでは、ILC研究に従事、もしくは従事したいと考えている若手研究者コミュニティの代弁者を務めました。彼女の役割は、若手研究者がILCの協力体制を確立したメンバーから受け入れられていると感じられるようにすること、シニア研究者と若手研究者の議論を促進すること、そして、プロジェクトに対する若手研究者からの質問に耳を傾け、対処されるようにすることでした。

「外から見ている若手研究者はいます。ILC物理ケースはだいぶ明確になってきましたが、多くの人にとっては、まだ実用主義的な問題を感じていると思います。」とシュタインヘーベルは云います。「私たちのキャリアのこの早い段階で、ILCが進む道にそれを流用することができるのか?ポスドクに就く機会はあるのか? 私たちがこのような議論をし、皆が話を聞こうとしてくれたこの会議は大きな意味を持ちます。」

それはまた、ILCの共同研究の緊密な結びつきを証明するものでもあり、シュタインヘーベルにとってILCで働くことの楽しい面の一つでもあります。数年前に研究の焦点をILCからATLASに移した時でも、彼女はILCの開発を追い続けました。

「コミュニティの中にいて、何が起こっているのかを把握することができました。コミュニティの連携は緊密で、誰もが何が起こっているのかをよく把握しています。」とシュタインヘーベルは云います。新入生であっても、大規模な実験では再現できないような方法で、ILCを取り巻く全体像を把握することができました。」

このような良好なコミュニケーションはコライダーに従事する全ての研究者に広がるべきだとシュタインヘーベルは云います。また、一般公衆にも。

私たちは、自分達が推進したいプロジェクトとしてのILCの価値を伝えるだけではなく、誰にでも納得のいく形で科学を説明する必要があります。この世界に生きる科学者として、私たちの研究を広く共有したいと願っているからです。これは、私たちのコミュニティ、特にILCコミュニティにとって最も重要なことです。それにはある程度の責任があると思います-私たちが気取った態度を崩し、細かいところを落として、誰にでも自分の研究を伝えることができるようになることです。

一般の人々との関わりは、発見のための貴重なツールであるILCに人々を巻き込むだけでなく、私たちと彼らの考え方を打ち破るようなつながりを生み出すことで、科学者自身の経験を向上させることができます。

シュタインヘーベル自身は、高校や母校の物理の授業で科学のアウトリーチを行ってきました。

「バス停での何気ない会話からたくさんの価値を見出しています」、と彼女は付け加えます。「科学者はリアルで親しみやすく、私たちはクレイジーなアイディアを持っており、それを伝えることも出来ます。あなたもそのクレイジーなアイディアに参加することが出来るのです。」

英語原文