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ILC ニュースライン

※この記事は2021年7月27日に発行されたILC NewsLineの翻訳記事です。

ILCのILD測定器コンセプトでは、忙しい日々が続いています。ILDとは “International Large Detector “(国際大型測定器)の略で、現在ILCで行われている2つの測定器コンセプトグループのうちの1つです。ILDチームは、このほど検出器の現状、技術、共同研究の状況などを記述した、中間設計報告書(IDR)を発表しました。

中間設計報告書には、約5年間の研究、テスト、計算、シミュレーションの結果を載せ、技術設計報告書(TDR)に記載されている2011年時点の測定器設計を、最新の技術と新しく得られた物理の標準的な結果に従ってアップデートしています。

ILDのスポークスマンであるDESYのTies Behnke氏は、「我々は多くのことを検討しました。例えば、コストパフォーマンスを最適化するために、性能の検出器サイズへの依存性を調べたり、相互作用領域の設計変更が検出器の性能に与える影響を調べたりしました。ILDで使用することを提案している基本的な技術を検討し、最新の技術開発に対応しました。また、CALICEやLCTPCのような技術共同体と緊密に連携して、ILDのキーテクノロジーの体系的な実証実験を行いました。特に、検出器のサイズはシステムのコストに大きな影響を与えるため、非常に重要です。ILDは、サイズや技術の違いが性能に与える影響を評価するために、小型と大型の2種類の検出器を作成し、1つのシミュレーションモデルで異なるサブ検出器の技術を比較する新しい技術を開発しました。」

では、サイズは重要なのでしょうか?大は小を兼ねる、とは言うものの、そのメリットは必ずしも明らかではありません。「ILCがより高いエネルギーにアップグレードされた場合には、特に大きいことが大きな利点になります」とベーンケ氏は云います。科学者たちは、コライダーの発見の可能性を高めるために、初期運転の後にアップグレードされることを期待しています。

また、ILCの加速器の設計は常に進化しており、測定器はその進化を追いかける必要があります。例えば、衝突ポイント(粒子が衝突する場所)から加速システムの最後のコンポーネントまでの距離は、衝突の進行に大きな影響を与える可能性があり、測定器は、加速器の設計者が最も便利でコスト効率が良いと考えるシステムに適応できなければなりません。測定器の物理学者と加速器の設計者が緊密に連携することで、測定器の前方領域を最適に設計することができましたが、この領域では装置の据付が難しいことで知られています。

このような研究では,イベントや測定器のシミュレーションを可能にするソフトウェアツール群が中心的な役割を果たします。ILDは、シミュレーションツール、再構成ツールへのアクセス、ユーザーがシミュレーションしたイベントに簡単にアクセスできる手段など、強固で拡張性のある柔軟なソフトウェアシステムを開発しました。これらのツールを使って、大規模なシミュレーションデータを入手し、様々な研究を進めることができます。これらのデータセットやILDへのアクセスを容易にするため、ILDはゲスト会員向けのプログラムの用意を始めました。これにより、最小限のハードルで参加することができ、ILDの研究への参加者がさらに増えることを期待しています。

最近までILDのテクニカルコーディネーターを務め、現在はIDT 物理・測定器ワーキンググループの副座長を務めるClaude Vallee氏は次のようにまとめています。「ILDの中間設計報告書は,e+e-ヒッグスファクトリーの測定器に関する最新の包括的な記述となっています。現在世界中で研究が進められているコンセプトに基づく動機づけや、サブ測定器のコア技術、それらの内部統合、測定器全体の構成など、改善の可能性のある主な方向性について、よくまとめられています。ILCプログラムや、より一般的には、e+e-ヒッグスファクトリー測定器の設計に今から取り組もうとしているすべての実験研究者に強くお勧めします」。また、この報告書では、開発が必要な分野や有望な分野を明確に指摘しており、将来的にこのコンセプトをどのように発展させていくかについても言及しています。

ILDのチームは現在、68の様々研究所から約360人の科学者が集まっています。先日、ILDのマネジメントチームの再選が行われました。Ties Behnke氏と川越清以氏(九州大学)がスポークスマンに決定し、Filip Zarnecki氏(ワルシャワ大学)が物理学の調整役に加わり、藤井恵介氏(KEK)と仕事を分担することになりました。また、Mary-Cruz Fouz氏(CIEMAT)とKarsten Buesser氏(DESY)が技術調整を担当します。ソフトウェアチームには変更はなく、Frank Gaede氏(DESY)とDaniel Jeans氏(KEK)が幹事を務めます。

「この最適化されたILD測定器があれば、ILC国際推進チーム(IDT)が現在進めている、ILCでの実験への関心表明のためのプロセスに参加することができます」とベーンケ氏は締めくくります。今後数年間、ILD測定器チームは現在使用されている主要技術を徹底的に調査し、アップグレードしたLHC測定器の建設で得られた経験を取り入れ、さらに性能を向上させるために新しい技術を使用できるかどうかを検討する予定です。例えば、測定器でのタイミングの使用や最新の超薄型ピクセル検出器の使用などです。

ILCにおける測定器のコンセプトについて

ILCの測定器について、現在の計画では、SiDとILDという2つの独立した測定器を想定しています。電子と陽電子を衝突させる場所は1カ所しかないので、測定器はこの衝突点を独占することになります。1台がデータを取っている間、もう1台は脇で待機し、点検や修理を行います。この2つの巨大なハイテク機器の位置を入れ替える独創的な回転方式は、「プッシュプル」(一方が押し込まれている間に、もう一方が引き出される)と呼ばれ、多くの研究対象となっています。

ILDとSiDでは、衝突の研究に異なるシステムを使用しています。これは意図的なもので、一方が他方の発見をチェックし、理想的にはそれがシステムの単なるバグではなく、真の発見であることを確認する必要があるからです。主要な違いのひとつは、前方領域と同様にビームパイプに最も近い位置にある飛跡検出装置です。SiDでは完全にシリコンをベースにしていますが、ILDではタイムプロジェクションチャンバー(TPC)を使用しています。それ以外は、サイズも性能も非常によく似ています。

バーバラ・ワームバイン(IDTチーム 欧州担当コミュニケーター)

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