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リニアックでの加速に成功 2007.2.1 |
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〜 試験運転が始まったJ-PARC 〜 |
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多量の陽子を加速して、世界最高の強度の陽子ビームを作る大強度陽子加速器施設「J-PARC」の建設の様子については、これまでにも何度かお伝えしてきました。 KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で建設を進めているJ-PARCには、3つの大きな加速器があります。今回は、その最初の部分、リニアック(線形加速器)が当初の目標のエネルギーまで陽子を加速することに成功したニュースをお届けします。 多量の陽子を加速 J-PARCでは、水素の原子核である陽子を、これまでにないほど大強度のビームにして加速します。加速した陽子を標的に照射し、中性子やミュオン、K中間子やニュートリノなどの、様々な二次粒子を発生させ、分子や原子、原子核、素粒子といった極微の世界を探求する研究が2008年から行われる予定です。研究のテーマは、物理学、化学、生物学などの基礎科学から、ライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など、多岐にわたります。 陽子のビーム強度が強いと、標的に照射した時に発生する二次粒子の強度も強くなるので、世界最先端のテーマの研究を行う環境が整うと期待されています。このため、J-PARCでは、リニアック、3GeVシンクロトロン、50GeVシンクロトロンの3段の加速器を使って順次陽子を加速していきます。 最上流では水素の負イオンを加速 J-PARCの最上流の加速器は、4種類の加速装置が120mほど直線に並んだ線形加速器リニアックです。陽子の周りに2個の電子がくっついた負イオンをここで1億8千1百万電子ボルト(光速の約50%)まで加速します。 正イオン(通常の陽子)ではなく、負イオンにして加速するのは、リニアックから次の円形加速器である3GeVシンクロトロンにビームを入射する際に、すでに円形加速器を周回している陽子ビームと合流しやすくするためです(図3)。 3GeVシンクロトロンでは、入射された水素の負イオンの電子をはぎ取って陽子とした後に、30億電子ボルトまで陽子を加速します。ここで加速された陽子は、一方では物質・生命科学実験施設に導かれ、ミュオンや中性子を発生させることに用いられます。もう一方では、次の50GeVシンクロトロンに導かれて、500億電子ボルトまで加速され、原子核・素粒子実験施設で利用されるK中間子を発生させたり、295km離れた岐阜県のスーパーカミオカンデに向けて打ち込むニュートリノを発生させることに用いられます。 2ヶ月で目標エネルギーに到達 J-PARCの最上流のリニアックで陽子を加速する試験運転が始まったのは2006年10月のことでした。11月21日にリニアックの最初の加速装置である高周波四重極型リニアック(RFQ)を使った加速に成功し、その後、1月24日にドリフトチューブリニアック(DTL)、機能分離型ドリフトチューブリニアック(SDTL)を使って、目標エネルギーの1億8千1百万電子ボルトを達成することに成功しました。これは当初の目標より3ヶ月ほど早い、うれしいニュースです。 J-PARCセンター加速器ディビジョンリーダの山崎良成氏(副センター長)は「リニアックはKEKとJAEAの混成チームで取り組んでいます。両機構の職員が、連日連夜それこそ寝食を共にして一緒になってがんばったことが、お互いの力を足して2倍でなく、2.5倍にも3倍にもしたと実感します。そうして加速の成功に導いたことが、最も誇らしいことです。」と、今回の成功を振り返ります。 今後は加速する水素負イオンの強度を増やして、目標の平均電流である200マイクロアンペアを達成させてから、秋頃に3GeVシンクロトロンへの陽子ビームの入射を目指すことになります。 J-PARCセンター長の永宮正治氏は、「完成まではまだまだ多くの課題を克服しなければなりませんが、今回の成功は、その一歩を力強く踏み始めたという、とても嬉しいニュースです。」と、J-PARCの着実な胎動に手応えを感じています。 いよいよ2008年から本格的に稼働を始めるJ-PARCの活躍にご期待ください。
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