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last update:08/09/11  

   image LHC、稼働!    2008.9.11
 
        〜 いよいよ始まる世紀の大実験 〜
 
 
  ぶどう畑が広がるスイス・ジュネーブの郊外の地下約100mに、スイスとフランスの国境をまたがる形で建設された、一周27kmのトンネル(図1)。その内部に設置された世界最大の加速器「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」で陽子ビームを周回させる調整試験がいよいよ始まりました。

14年の歳月をかけて世界中から数千人の研究者が集まって建設を続けてきた、史上最大の実験がいよいよ始まろうとしています。KEKでは、ビーム周回にあわせて欧州合同原子核研究機関(CERN)がリアルタイムに放映した「LHCファーストビームイベント」を職員や関係者が見守りました(図2、3)。

光速の99.9999991%まで陽子を加速

LHCでは陽子(水素の原子核を)光速の99.9999991%まで加速します。これは陽子を7兆ボルトの電位差で加速した場合のエネルギー(7TeV)です。この陽子を、反対方向から同様に加速させた陽子と衝突させることで、高いエネルギーの素粒子反応を観測します(陽子の他にも鉛の原子核を加速する運転がある)。

この正面衝突で宇宙のビッグバンの1兆分の1秒後に相当する超高温の状態が生まれ、そこから様々な新粒子が生まれる様子が観測できると期待されています。その一つが、物質に質量を与えるとされるヒッグス粒子の解明です。また、宇宙の暗黒物質の候補とされる超対称性粒子が発見されることなどが期待されます。

これまでに達成された最高の衝突エネルギーは、米国フェルミ国立加速器研究所のテバトロン加速器の2兆電子ボルト(2TeV)で、LHCはその7倍のエネルギーにまで到達することができます。

LHCでは4つの国際共同実験グループが巨大な測定器を建設しており、それぞれATLAS、CMS、ALICE、LHCbと呼ばれています。このうち、ヒッグス粒子や超対称性粒子の探索を目指しているのはATLASとCMSで、KEKや東京大学、神戸大学など、15の研究機関がATLASグループに参加しています。

またLHC加速器の建設協力として、ビームの衝突点で軌道を絞り込むための超伝導4極磁石をKEKと米国フェルミ国立加速器研究所が共同で開発しました。

3kmごとにビームを入射

10日の「LHCファーストビームイベント」では、日本時間午後4時30分から陽子ビームをLHCの一周27kmの加速器に時計回りの方向に45 度ずつ(約3kmずつ)入射して、ビームの状態の調整を行いました(図4)。それぞれの入射でビームが無事に通過したことが確認されるたびに拍手が起こり、午後5時28分、ビームが無事に一周したことを示すモニター画面が点滅した瞬間、関係者の間で大きな拍手がおこりました。

この様子はCERNのプレスセンターに集まった報道関係者によって世界中に報道され、米国フェルミ国立加速器研究所、KEK、IHEP研究所(ロシア)、トライアンフ研究所(カナダ)からのお祝いのメッセージもCERNのライブ映像として配信されました。

その後、超伝導磁石冷却用低温設備の調整を行い、反時計回りの陽子ビーム(図5)も同日本時間22時過ぎに一周したことが確認されました(図6)。

LHC加速器やATLAS測定器の建設には日本の企業も多数参加していて、お祝いのメッセージの中でもその優秀な技術力が高く評価されていました(図7)。

これからが本番

今回入射した陽子ビームのエネルギーは、LHCの前段のSPS加速器で加速された4500億電子ボルト(450GeV)です。CERNでは今後、トンネル内に設置された数千個の電磁石の調整を進め、1ヶ月から2ヶ月の間に10兆電子ボルト(10TeV)での衝突実験を開始する予定です。超伝導磁石がその性能をフルに発揮して、設計値の14TeVで実験ができるようになるのは、年が明けて2009年初頭になります。

ATLAS測定器では陽子ビーム周回によって発生した最初の事象を記録することに成功しました(図8)。今後は測定器の様々な部分の性能を確認しながら実験データを取得し、最初の物理的な解析の結果が得られるのは1年ほど先になると見られます。

KEKの鈴木厚人機構長はCERNへの祝辞の中で、「世界中の物理学者が待ちわびていた、歴史的な瞬間だ。今後、ビームの調整が順調に進んで、革新的な実験データが得られることに期待します」と述べました(図9)。

ATLAS日本グループの共同代表者の一人で東京大学素粒子物理国際研究センターの小林富雄教授は、「思ったよりもすんなりとビームが回りました。さすがはCERN加速器グループの実力です。これまでの14年間を思うと夢のような気もしますが、これからは現実に初めてのエネルギー領域に踏み込むわけで、武者震いのようなものを感じます」と、その意気込みを語っています。

KEKで昨年までATLAS日本グループ共同代表者を務めてきた近藤敬比古名誉教授はCERNの大ホールに集まった多数の職員とともに歴史的瞬間を見守りました。「LHCビームの一周成功おめでとう。CERNではホールぎっしりの人がその瞬間に大きな歓声をあげ拍手しました。LHCという探索船が完成し船出しました。未知の自然の神秘への探検がいよいよ始まりました。」


LHCビーム周回 写真集  LHCビーム周回 写真集 


※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→CERN研究所研究所のwebページ(英語)
  http://public.web.cern.ch/Public/
→LHC加速器(英語)
  http://lhc.web.cern.ch/lhc/
→アトラス日本グループのwebページ
  http://atlas.kek.jp/
→アトラス実験のwebページ(英語)
  http://atlas.web.cern.ch/Atlas/
→CMS実験のwebページ(英語)
  http://cms-project-cmsinfo.web.cern.ch/
          cms-project-cmsinfo/

→ALICE実験のwebページ(英語)
  http://aliceinfo.cern.ch/
→LHCb実験のwebページ(英語)
  http://lhcb.web.cern.ch/lhcb/
→TOTEM実験のwebページ(英語)
  http://totem.web.cern.ch/Totem/

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[図1]画像:CERN
スイス・ジュネーブの郊外の地下約100mに建設されたLHC加速器。
拡大図(51KB)
 
 
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[図2]
KEKではCERNからの映像をセミナーホールで中継して、職員や関係者がビーム周回の瞬間を見守った。
拡大図(50KB)
 
 
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[図3]
CERNからの映像を見守るATLAS日本グループ共同代表者の一人、徳宿克夫KEK素粒子原子核研究所教授(中央)。
拡大図(74KB)
 
 
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[図4]画像:CERN
LHC加速器へのビームの入射は10日日本時間16時30分から時計回り方向に始まり、8分の1周(約3km)ごとに入射の状態を観測しながら距離を伸ばし、同17時28分頃にビームが一周したことが確認された。
拡大図(24KB)
 
 
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[図5]画像:CERN
反時計回りのビーム入射は、超伝導磁石冷却のための低温設備を調整した後、日本時間22時過ぎに一周したことが確認された。
拡大図(30KB)
 
 
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[図6]画像:CERN Live webcast
反時計回りのビーム一周を確認し、成功を宣言するCERNのロバート・エイマー所長。
拡大図(57KB)
 
 
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[図7]
KEKで行われた記者会見で、LHCについての日本の寄与を説明する鈴木厚人機構長。
拡大図(54KB)
 
 
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[図8]画像:ATLAS
陽子ビームをLHCのリングに時計回りに入射した際にATLAS測定器で最初に観測された事象。陽子ビームがビームパイプの中の残留ガスやビームを制御するためのコリメーターと衝突した際に発生する二次粒子が、ATLAS測定器を通過しながら反応して行く様子が観測された。
拡大図(112KB)
 
 
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[図9]
CERNが世界に向けて発信した映像ではKEKの鈴木厚人機構長からの祝辞も放送された。
拡大図(43KB)
 
 
 
 
 

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