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last update:09/06/18  

   image KEKBの性能が設計値の2倍に    2009.6.18
 
        〜 クラブ空洞で新記録達成 〜
 
 
  KEKB加速器は世界最高のルミノシティ(衝突の起こりやすさを示す指標)を誇る衝突型加速器です。2001年以後一貫して世界一の座にあり、ルミノシティ最前線を切り開いてきました。2007年には、「クラブ空洞」という新しい装置を世界で初めて導入し、一層のルミノシティ向上を目指して様々なビーム調整を試みてきましたが、今期の運転でクラブ空洞導入以前の自己記録を更新して、設計値の2倍を超えるルミノシティ2.08×1034/cm2/sを達成しました(図1)。

斜めにぶつける工夫

KEKB加速器は、電子ビームと陽電子ビームを衝突させてB中間子と反B中間子の対を大量生産するBファクトリー(Bの工場)です。80億電子ボルトの電子ビームと35億電子ボルトの陽電子ビームをそれぞれ一周約3kmの別々のリング(円形加速器)で周回させて、リングの一カ所で衝突させます。衝突点には、素粒子反応を観測する巨大なBelle測定器が据え付けられています。KEKB加速器は、膨大な反応例を実験グループに提供し、小林・益川理論の検証を始めとする素粒子物理学の研究に大きく貢献しています。

超高ルミノシティを実現するために、KEKBには様々な工夫が取り入れられています。その一つが、衝突点においてビーム軌道を1.3°の角度で交差させることです(図2)。このわずかな交差角によって、衝突点近くに適切に収束磁石を配置し、衝突点でのビームサイズを小さく絞って性能を高めることが可能になっています。

ビームの中の電子・陽電子は、バンチと呼ばれる塊になってそれぞれのリングを周回しています。衝突点で交差角があると、バンチ同士は図のように互いに斜めに交差することになります。これまでのKEKBの世界記録1.76×1034/cm2/sは、この斜めの当たり方で達成されたものです。ところが、近年の計算機によるビーム衝突のシミュレーションは、バンチ同士を正面衝突させた方が格段に高いルミノシティが得られると予言しています。ビーム軌道に交差角があるままで、正面衝突と同等の当て方にできないでしょうか?そこで登場したのが、クラブ空洞です(図3)。

カニのように横歩き

クラブ空洞は、KEKで開発された特殊な超伝導空洞で、バンチの前後を水平方向に逆向きに蹴ってバンチを進行方向に対して傾ける働きをします(図4)。バンチはカニ(crab)の横歩きのような状態で互いに近づき、衝突点では正面衝突と同等の状態で衝突することになるわけです。これを「クラブ交差」(カニ交差)といいます。これは1988年にスタンフォード線形加速器センターのロバート・パーマーがリニアコライダーを想定して提唱したアイディアです。

クラブ空洞の実用機は、2007年初頭にKEKBの2つのリングに1台ずつ設置され、世界初のクラブ交差によるビーム運転が始まりました。初めての試みであるにもかかわらず、テスト期間後の2007年秋からは、実用的なビーム電流を蓄積して、クラブ交差による順調な衝突実験を続けています。しかし同時に、クラブ交差によって大幅にルミノシティを上げるには、これまでのレベルを超えた精密なビーム衝突調整とビーム収束システムの誤差補正が不可欠であることもわかってきました。特に衝突点の誤差補正が重要です。

タテとヨコのつながりを補正

ビーム内の粒子の水平方向と垂直方向の運動は、互いに相関しないように設計されていますが、現実の加速器では誤差(磁石の設置誤差、ビーム軌道の磁石中心からのずれなど)によって発生する水平垂直結合を補正する必要があります。最近の成果は、この水平垂直結合の補正をエネルギーがずれたビーム粒子にまで適応したことが突破口となって、達成されたものです。これはクラブ交差でルミノシティを上げるために、計算機シミュレーションで予言されていた調整項目の一つであり、補正に必要な歪六極磁石(六極磁石を30度回転したもの)が今年3月新たにリングに設置されていました(図5)。また、前回のニュースでご紹介したようにKEKBの電子・陽電子リングおよび放射光リングへの3リング同時入射が実用化され、蓄積ビーム電流を常に一定に保つことが可能になって衝突調整の効率が画期的に向上したことも、今回の成果に繋がっています。

クラブ交差の成功により、KEKB加速器は、クラブ空洞設置以前と比較して、より少ないビーム電流によって、より高いルミノシティを達成していますから、クラブ空洞は運転電力の削減にも大きく貢献していることになります。



※もっと詳しい情報をお知りになりたい方へ

→KEKBのwebページ(英語)
  http://www-acc.kek.jp/KEKB/
→Belleグループのwebページ(英語)
  http://belle.kek.jp/

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[図1]
KEKB加速器ルミノシティ向上の履歴。クラブ交差によって、設計値の2倍にあたるルミノシティを達成。しかも以前より少ないビーム電流で、より高いルミノシティを得ている。
拡大図(95KB)
 
 
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[図2]
従来のKEKB加速器では電子と陽電子のビームが1.3度の交差角で衝突していた。クラブ空洞によってバンチを適切に傾けると、正面衝突と同等の状態になり、ルミノシティを向上させることができる。
拡大図(45KB)
 
 
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[図3]
上はKEKB加速器トンネル内に設置された超伝導クラブ空洞。下はその断面図。
拡大図上(82KB)
拡大図上(49KB)
 
 
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[図4]
クラブ空洞内でバンチが斜めになるように蹴られる様子。
拡大図(64KB)
 
 
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[図5]
電子リングに20台、陽電子リングに8台の歪六極磁石(六極磁石を30度回転したもの)が新たに設置された。
拡大図(66KB)
 
 
 
 
 

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