アインシュタインの一般相対性理論によれば、物質ないしはエネルギ−が存在すると、その周りの空間に歪みを生じます。この物質が運動をすると、空間の歪みの様子が変り、それが波として伝搬します。これが重力波です。したがって、中性子星やブラックホールの合体、ビッグバン直後の宇宙初期の状態のような大規模な質量、エネルギーの変動が重力波の有力な発生源と考えられます。重力波の観測から従来の手段(電磁波、ニュートリノ)では得られなかった宇宙物理的な成果が期待されます。しかし、一般相対性理論で予測されてから約80年、実験研究が始まってから約30年になりますが、重力波の直接検出はまだなされていません。その理由として、重力波の効果で生じる空間の歪みが極端に小さいことがあげられます。2点間の距離の変化を精密に測ることにより歪みを検出できますが、歪みの大きさは10-21程度で、これは地球ー太陽間の距離が原子1個分変化することに相当します。重力波観測では微少な距離変化を精密に測るために、実験技術上の極限的な課題をいくつも解決しなければなりません。そのためレーザーを使った大規模なマイケルソン干渉計が重力波の検出器として活発に研究されています。現在建設中、計画中の主な計画を表1に示します。

表1:主な干渉計型重力波検出器
TAMA 日本(国立天文台) 300m(建設中)
LIGO 米国 4、000m(建設中)
VIRGO イタリア−フランス 3、000m(建設中)
GEO600 ドイツ−英国 600m(建設中)
LCGT 日本(宇宙線研究所) 3、000m(計画中)

高エネルギー研ではこれまでに、低温共鳴型検出器による実験が行われ、カニパルサー(PSRJ0534+2200)からの連続重力波の実験的上限値2x10-22を与えています。また、中性子星の合体の理論的研究も行われています。現在はTAMA計画、LCGT計画と協力した研究を進めています。LCGT計画は、干渉計に低温技術を導入することにより、約2億光年の範囲までが観測可能域に入る目処がたちました。これは、現在建設の進んでいる諸外国の干渉計の観測範囲7000万光年を上回る感度を有することになります。

[参考文献]
計量研究所 編 「超精密計測の開く世界」(ブルーバックス)
中村、三尾、大橋 編「重力波をとらえる」 京都大学学術出版会





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