どこかでこのイラストを見たことありませんか?これは「ILC通信」の上部の帯の右端に描かれているILCのイラストです。この美しいイラストは世界中で人気を博し、各国の研究者達に使われていますが、これを描いたのは、日本のイラストレーター沼澤茂美さんです。日本の貢献がこんな所にも現れているなんてうれしくなってしまいますね。
さてイラストを見てまず目に付くのは、真っ直ぐなトンネルでしょう。ILCは地下深くに長さ40kmを超えるトンネルを掘り、その中に直線状の加速器を設置する計画です。加速器とは、素粒子を加速し高いエネルギーの状態にする機械で、素粒子物理の研究をするための代表的な装置のことです。それにしても40kmとは東京駅から真西に向かって八王子市の中心に達する長さですから、想像を絶する長さと言えます。なぜこんなに長い加速器を作る必要があるのでしょうか。それはこれまでに無い高いエネルギーでの素粒子反応を実現し、宇宙創生の瞬間に迫るためです。ILCでは片方の端からは電子を、その反対からは陽電子(注)を同時に「よーいドン」で加速し、ちょうど真ん中で衝突させます。十分に高いエネルギーに達するためには、助走に必要な距離も十分とらなければなりません。また加速器の形状が真っ直ぐであるということも重要です。せっかく粒子を加速しても、途中にカーブがあるとそこでエネルギーが失われてしまいます。われわれ人間が全力疾走しているときに曲がろうとするとオットトトとなって、スピードを落とさないと曲がれないとの同じですね。これは今までの加速器ではなんとか我慢できる範囲だったのですが、これから作ろうとしているILCでは限界を超えてしまいます。そのため長い直線の加速器が必要になったのです。
ところでイラストでは2本のトンネルが平行に描かれています。「アレ?これでは衝突しないぞ」と思った方も多いと思います。ゴメンナサイ、一つ説明し忘れていました。イラスト右側が加速器トンネル、左側がそれに加速用の電波を送るための電源トンネルです。加速器トンネルの手前から電子が、奥から陽電子が走ってきて衝突するのです。
ILCはとても大規模な計画ですから、世界中の物理学者が話し合い、みんなで協力して作ろうとしています。これでやっと名前の由来を説明できます。「国際協力で(International)直線状の(Linear)衝突型加速器(Collider)」を作る計画なのでILCと呼ばれています。
(注)「謎にせまる 陽電子」を参照ください。