ILC基準設計報告書を発表

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基準設計報告書(RDR) を将来加速器国際委員会(ICFA) 委員長のアルブレヒト・ワグナー氏(中央)と国際リニアコライダー運営委員会(ILCSC) 委員長の黒川眞一氏( 右) に提出するGDE ディレクターのバリー・バリッシュ氏( 左)。

ものを作るときには必ず図面が必要になります。図面を描くためにはまずどんなものを作るのか決めなくてはなりません。ごく当たり前のことのようですが、世界中から集まった大勢の人が協力してひとつのものを作るとなると話は簡単ではありません。最初にどんなものを作るかで意見が分かれます。リニアコライダー(ILC)も長年にわたって米国、ドイツ、日本が独自の提案に基づいて検討をしてきました。しかし、このままではいけないと研究者は悟り、どんなものを作るか合意しようと2002年に決意しました。1年あまりの検討の結果、2004年8月に北京で開かれた会合の場で「超伝導加速技術を使ったILCを作る」との結論に至りました。

 
基本技術は決まりましたが、作り方はまだまだいろいろあります。これをひとつにまとめて共通のデザインを固めなくては、図面の描きようがありませんし、部品の開発も出来ません。2005年2月に国際共同設計チーム(GDE)が発足し、今年2月に「基準設計報告書(RDR)」※なるものが完成しました。これが去る2月8日に北京で公表され、将来加速器国際委員会(ICFA)に提出されました。大きな一里塚は何故か北京の会合で築かれるようですね。

 
RDRにはどんなものを作るかが記述されていますが、詳細な図面を描くのはこれからです。単に図面を描けばよい部品もありますし、これから開発しなければならない部品も数多くあります。超伝導空洞のように研究室レベルで作れることはわかっていても、大量に高品質のものを作る技術はこれから確立しなければなりません。ともあれRDRができたことはILCの実現に向けた大きな一歩です。しかも、世界中の大勢の研究者・技術者が一丸となってRDRの完成を目指したことは今後の国際協力体制を作る上でも明るい材料です。

 
RDRの中にはコストが記載されていますので少し説明しましょう。コストは円でもドルでもユーロでもなく、「ILC単位」という耳慣れない通貨単位で表されています。」1ILC単位は2007年初頭の1米ドルなのですが、あえて「ILC単位」を使うのは深い訳があります。今回発表した数字は後で説明する「バリュー」を表すものです。「バリュー」と各国で実際にかかる経費は違うものであることを強調する意味を込めて、「ILC単位」という別の名称を使ったのです。

 
例えば、国連が世界各地からハンバーガーを集めて難民に配る計画を立てたとしましょう。世界中で売られているハンバーガーは全く同じレシピで作られていても、その値段は、材料費、人件費、運送費、営業戦略など各国で事情が違いますから、値段の違いは必ずしも通貨レートの換算だけで済むものではありません。この難民救済プログラムで自分の貢献が全体のどれだけかを決めるのはハンバーガーの数(これが「バリュー」)であって、それにかかったコストではありません。このように国際協力で何かを作ろうとすると、各国の貢献を相対的に図る物差しが必要になるのです。
GDEは、次のステップである工学設計書(EDR)を2010年頃までに完成させることを目指しています。この間に、研究所であれ企業であれ、ものつくりの現場が「ILCを作ることができる」という確信を得られるレベルにまで技術開発を進めなければなりません。

 

※以下のページより、文書をご覧になることができます。(英文)http://www.linearcollider.org/