最近「メタボリック症候群」という言葉が話題になったりして、体重の増加が気になりますね。でも、もっと根本的な疑問に頭を悩ませれば体重のことは忘れられるかもしれません。例えば、そもそも物質に重さがあるのはなぜか?それが今日の主題です。
「E=mc2」というアインシュタインの考えた現在の物理学にとってなくてはならない重要な関係式があります。これは、質量に光の速度の二乗をかけるとエネルギーと同じ値になる、ということを示しています。
ボールを投げると、ボールは遠くに飛んで行きます。止まっていたボールは、腕からエネルギーをもらって運動しているのです。これを「運動エネルギー」と呼びます。この時、ボ-ルは運動のエネルギーをもっていると同時に、重力によって下に落ちて行くことでわかるように、重力の下での「位置エネルギー」をもっています。ボ-ルを投げたところから、ボ-ルが飛んで行ってどこかに落ちるまでの間、ずっとエネルギーの総和は変化しません。高校の物理で習う「エネルギー保存の法則」ですね。
では止まっているボールのエネルギーはどうでしょうか。ボールにはボール自身の質量があり、動いていなくても「質量エネルギー」を持っています。E=mc2は、この「物体が運動していない場合のエネルギー」を表す式で、質量が消失すると、それに対応するエネルギーが発生すること、を表しています。エネルギーはいろいろなかたちをとりますが、「質量」もエネルギーの現れ方のひとつ、というわけです。それでは、質量とは何でしょうか?重たい砲丸の球を遠くまで投げるのと、野球のボールを投げるのでは、砲丸を投げる方が強い力が必要です。物理学では、このような「物質の動かしにくさ」を質量と呼んでいます。同じ力を加えても速く動くものほど質量が小さく遅くしか動かないものほど質量が大きい、と言うわけです。
この宇宙に存在するすべての物質は、素粒子からできています。物理学者は、この万物の素である素粒子の性質を調べることで、なぜ私たちの住む宇宙が現在のような姿になっているのかを解明しようとしてきました。そして、全てをうまく説明できる「標準模型」と呼ばれる理論が考えられました。この理論は素粒子の質量がゼロである、ということが条件になっています。ところが、素粒子には質量がある、ということは実験からわかっています。この矛盾を解決するのに考えられたのが「ヒッグス理論」です。空間にはヒッグス粒子が充満していて、素粒子を加速した時に、ヒッグス粒子にぶつかりやすいものほど加速しにくく(質量が大きい)ぶつかりにくいものほど加速しやすい(質量が小さい)と言う考えです。
このヒッグス粒子を見つけること、そして詳細な性質を探ることは、これからの加速器実験大型ハドロンコライダー(LHC)とILCの役割のひとつです。どうして物質には質量があるのか?という疑問はILCが解決してくれるでしょう。でも、どうして体重が増えたのか?という悩みはあなた自身しか解消できませんので、あしからず。