謎にせまる:重さの始まり

コラム

黒板の前に座るピーター・ヒッグス教授(画像提供:英国エジンバラ大学、ピーター・タフィ氏)

現代物理学では、宇宙誕生直後の高温高密度のエネルギーが充満した状態ではすべての素粒子に重さがなかったと考えられています。でも、素粒子でできている皆さんの身体には重さがありますよね。「重さ」って、どこから生まれてくるのでしょうか?

パチンコ玉と鳥の羽を同時に落とすと、パチンコ玉は早く、鳥の羽はゆっくり落下します。しかし、もしも空気のない月面で同じことをしたとすると、どちらも同じ速さで落下します。これは、地球上では、鳥の羽が空気抵抗を受けているからです。物を動かす時、同じ力をかけると、重たいものと軽いものでは、重たいもののほうが動かしにくいですよね。ゆっくり落ちる鳥の羽は、見方を変えれば「動かしにくくなっている」とも考えられます。素粒子の重さもこのような「動かしにくさ」から生じていると考えられています。このしくみは「ヒッグス機構」と呼ばれていて、イギリスの物理学者ヒッグス教授によって考えられました。素粒子を動かしにくくしているのは、周りの真空から受ける抵抗だと考えられています。

熱いゼリーを型に入れてかき混ぜると、最初は抵抗を感じなかったのに、温度が下がってくると、かき混ぜるのにだんだん力が必要になってきます。私たちの身体を形作っている素粒子も、このように周りの空間から抵抗を受けていると考えられています。真空には「ヒッグス粒子」と呼ばれる未知の粒子がゼリーのように潜んでいる。これが現代物理学で考えられている「重さの始まり」なのです。