世界の超伝導加速器技術が集結 ~KEKで「S1グローバル」始動~

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国際リニアコライダー(ILC)の心臓部である、超伝導加速空洞。その研究開発プログラムには、S0、S1、S2といった「コードネーム」が付けられている。現在、このうちの「S1」が高エネルギー加速器研究機構(KEK)で進行中だ。国際協力によって行われるこのプログラムは、「S1グローバル」と呼ばれている。

ILC計画は、その名が示すとおり国際的な研究プロジェクトだ。2004年から、参加各国の研究者で構成される「国際共同設計チーム(GDE)」が 中心となって、技術開発が進められている。GDEの最も重要な開発課題のひとつが、超伝導高周波(RF)技術。「S1」とは、この超伝導高周波技術のシス テム実証試験の第一段階を指す。クライオモジュールと呼ばれる、空洞を超伝導状態にするために極低温まで冷却し、温度保持をする装置に、8台の空洞を設置 して同時運転する試験のことだ。この試験を国際協力で行うのが「S1グローバル」である。KEKの超伝導試験施設に、米国とドイツからそれぞれ2台、日本 から4台、各地域で高い性能が確認された合計8台の空洞を持ち寄り、イタリアのクライオモジュール※にそのうち4台を、KEKのクライオモジュールに4台 を設置して連結試験を行う。2年ほど前から着々と計画が進められていた「S1グローバル」。去る1月初旬からいよいよ実作業が開始された。

※2009年12月に、イタリア国立核物理学研究所(INFN)が製造したクライオモジュールがKEKに到着した。

昨 年12月、各国から超伝導空洞やクライオモジュールが、続々とKEKの超伝導RF試験施設(STF)に到着した。それに続いて、1月中旬には、ドイツ電子 シンクロトロン研究所(DESY)と米フェルミ国立加速器研究所(フェルミ研)の技術スタッフで構成される空洞組立チームがKEKを訪れ、STFのクリー ンルームで空洞組立て作業を成功裏に完了。ILCの実現に向けた重要なシステム試験である「S1グローバル」は、幸先の良いスタートをきった。

今回行われた作業は、米国、ドイツから送られた空洞4台を、ストリングと呼ぶ連結状態にする作業だ。空洞内部に少しでも汚れやゴミの混入などがあると、加速 性能に大きく影響する。これらの汚染を防ぐためには、最初の連結作業をいかに素早く、確実に行うかがカギとなる。「作業はとても順調にすすみました。7、 8日かかることを予定していたのですが、5日で終わらせることができました」と、チームリーダーである、フェルミ研のタグ・アルカン氏。この空洞組立チー ムは、2007年にすでに共同作業を行った実績がある。フェルミ研が、米国初のクライオモジュールの組み立て作業を行った際、DESYの技術スタッフが フェルミ研を訪れ、技術指導を行ったのだ。「気心がよく知れていましたし、どうやって作業するかも分かっていました。その経験は非常に役に立ちましたね」 と、アルカン氏は語る。今回の組立て作業を成功に導いたもう一つの重要な要素があった。それは「コミュニケーション」である。

「事前に数多くのミーティングを行いました。KEKの作業環境は、ドイツや米国とは全く違うことが分かっていたからです」と、この組立て作業の調整を担当した、KEK の加古永治氏。昨年9月、加古氏は、他のKEKメンバーと共にフェルミ研とDESYを訪問。組立チームがKEKに来る前に、準備すべきものを押さえるため に集中的な議論を行ってきた。「彼らが日本で働くことを念頭に、例えば、どんなことが起きる可能性があるか、どんなものが不足するか、といったことを考 え、慎重に準備を行いました。これが、今回の成功の大きな要因ですね」(加古氏)

「しかし、この成功は単なるはじまりに過ぎません」と語る のは、大内徳人氏(KEK)だ。大内氏は、引続き、これら4台の空洞の冷却試験装置への組込み作業を担当する。「クライオモジュールを冷却するまでは、本 当の成功かどうかは分かりませんから」と、大内氏は気を引き締める。2月には、イタリア国立核物理学研究所(INFN)から3名と、フェルミ研からの1名 のエンジニアチームが、クライオモジュールの組立を行うためにKEKを訪問。さらに、KEKの作業チームが、2月に4台の日本製空洞連結のために、クリー ンルームでの作業を開始した。システムテストは、2010年中頃に始まる予定だ。