国際科学ビジネスベルト拠点都市(世宗市)開発計画完成予想図。重イオン加速器は、2011年までに詳細設計を完成し、2015年に建設を終了。2016年からの本格的な研究着手を計画している。図中赤丸部分が加速器建設予定地。
朝鮮王朝の第4代国王、世宗(セジョン)大王。ハングルの制定を行ったことで知られ、歴代君主の中で最も優れた君主として、多くの韓国国民が尊敬する国王だ。その国王の名前を冠した都市が、ソウルの南、約130キロメートルの場所にある。今年1月、韓国政府は、その世宗市を「国際科学ビジネスベルト拠点都市(以下、科学ベルト)」として発展させていくとの将来計画を発表した。
この都市はそもそも、ソウルに代わる韓国の新しい首都にするためにインフラの建設が進んでいた場所だ。しかし、2004年10月に憲法裁判所が首都移転は違憲との判決を下し、遷都計画は頓挫。韓国政府は今年1月11日、計画の修正案を発表。世宗市は、大学や企業、先端科学の研究施設を誘致した教育と科学のビジネス都市へと、その将来像を変えることになったのである。
韓国はこれまで、応用研究を主にする技術開発戦略で急速な経済成長を成し遂げてきた。ところが、応用研究を進めるための源泉技術の保有率が低い、という問題を抱えている。これらの研究開発を進めるためには、膨大な技術使用料を支払う必要があり、これは潜在的な成長率低下につながっている。
「今までの成長戦略の限界が見えて来たのです。これらの問題を改善し、未来の大韓民国の成長動力をつくるために、基礎科学力を世界水準にあげ、これを基盤 に基礎源泉技術を開発し、先端知識産業を育成する成長モデルを提示したいと考えています」と、韓国教育科学技術部・国際科学ビジネスベルト推進支援団団 長、片京範(ピョン・キョンボム)氏は、科学ベルトの建設の目的について語る。また、科学ベルトと全国の主な科学産業拠点との間で基礎科学インフラを共有 することによって、科学的、技術的成果を波及させ、国家成長の中心としていく計画だ。
この科学ベルト構想は、李明博(イ・ミョンバク)大統領がソウル市長時代の2006年に、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、欧州合同原子核研究機関(CERN)及びドイツ重イオン科学研究所(GSI)を訪問したことを契機として立案されたという。科学ベルトには、「基礎科学研究院」、「国際科学大学院」「イオン加速器」、「先端融複合研究センター」の4施設から構成される「世宗国際科学院」が設立される計画になっている。「基礎科学研究院と重イオン加速器は基礎科学を振興させるための一番重要な役割をすることになるでしょう。特に、重イオン加速器は、韓国の基礎科学への情熱を象徴する施設です。この施設が、世界中の優秀な科学者たちを惹き付けることができると期待しています」(片氏)。韓国教育科学技術部は科学ベルトの中核研究施設の選択にあたり、基礎科学の先進国の大型研究施設の事例を分析。科学技術界から意見を集めて、重イオン加速器建設の決定に至ったという。
「加速器を中心とした国際都市」という姿は、将来のILC国際研究所とイメージが重なる。片氏は、「既存の科学技術の限界を越え、新しい機会を提供してくれる巨大科学施設は、競争力のある核心技術の開発や産業競争力確保に必要なものです。世界レベルの研究者や専門家があつまる求心点となり、国際共同協力研究の場として、国家の基礎科学の力量強化に繋がると考えています」と語る。また、基礎科学力のみならず、その波及効果にも大きな期待がかかる。「研究施設の建設過程や研究成果から、先端素材、超精密加工、材料科学、バイオ、医学など、様々な分野における波及的な発展があることも期待しています」。
研究施設そのもの以外にも、「国際都市」としての環境を整えるべく、様々な施策が検討されている。例えば、年平均10億円を投資する研究グループを50ほど設立。その長には研究に関する全権を与える。また、世界的な研究者や国内外の優秀な人材を積極的に誘致し、共同・協力研究を促進。国内と海外の大学及び研究機関に外部研究グループを設置し、国際的な研究ネットワークを構築することに注力する予定。また、ここで創出された基礎源泉技術を土台に、先端知識産業の発展を目指して、ベンチャー企業育成、創業コンサルタント、金融支援などビジネス支援体系も整備して行く。さらに、全世界の人材が一緒に交わるクリエイティブな都市をつくるため、文化、芸術、科学、産業が交流する仕組み作りや、教育、医療などの生活環境についても国際レベルの環境整備を目指すという。どの施策も、国際都市には必須となる要件であろう。ILC国際研究都市建設に向けて、学ぶ部分が多いであろう「世宗国際科学ビジネスベルト拠点都市計画」。今後の動きが注目される。