リニアコライダー・コラボレーション発足

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LCC ディレクターに就任した、リン・エバンス氏

2月21日(木)、カナダ・トライアンフ研究所(バンクーバー市)で行われた国際会議で、世界のリニアコライダー活動を率いる新組織「リニアコライダー・コラボレーション(LCC)」が正 式に発足した。この新組織は、国際リニアコライダー(ILC) と、欧州合同原子核研究機関(CERN) が推進するもうひとつの直線型加速器構想「クリック(CLIC)」をひとつにまとめるもので、これまで独自の研究開発を進めていた2 つの研究グループが協力体制を組んだことになる。

会議終了後に行われた記者会見で、同コラボレーションを率いるディレクターのリン・エバンス氏は「2 つの活動をまとめることには大きなシナジー効果あると考えています。ILC とCLIC はビームを加速する方式に違いこそあれ、周辺機器部分には類似したものが多い。両チームが共通のシステムを使って活動を推進できるように進めて行きたいと考えています」と述べた。ILC では、超伝導高周波加速方式で電子と陽電子のビームを加速する。一方のCLIC は、常伝導技術を使った「ツービーム加速」という全く新しい加速方式が採用されている。

エバンス氏は自らを「加速器屋」と呼び、専門とするのは加速器の設計・建設だ。そこで、副ディレクターに、村山斉氏(カブリ数物連携宇宙研究機構長/ カリフォルニア大学バークレー校) が就任、リニアコライダーの物理研究分野の取りまとめを行う。

エバンス氏が取りまとめるコラボレーションには、ILC と CLIC、そして物理・測定器の3部門がある。エバンス氏が「最 も大変な仕事をすることになる人物」だと言うのが、物理・測定 器部門を率いる、東北大学の山本均氏だ。加速器専門家の研究者 コミュニティは比較的小さく、まとまりがある。しかし、物理・ 測定器の開発研究を行う研究者は、各国の大学等の多数の研究室 などが参加しており、世界中にちらばっているのだ。「これをま とめるのは、並たいていの仕事ではありません」とエバンス氏。 その大役を務めることになる山本氏は「確かに、物理測定器部門 は様々なそれぞれ独立性が高いグループの集まりです。これらの グループがそれぞれ組織に属する利点を認識することが必要で あり、それには先ず徹底したコミュニケーションが不可欠となり ます。大切なのは、共通の明確な目標を持つことです。それはリ ニアコライダーの実現にほかなりません」と語る。

この新設「コラボレーション」で注目すべき点は、グローバ ルなリニアコライダー計画推進にCERN が正式に加わったこ とだろう。CERN は、現在稼働中の大型ハドロンコライダー(LHC)とその前身である大型電子陽電子衝突加速器(LEP)の 建設、運用などを通じて幅広い経験・知見を蓄積している。今回 CERN の研究者がコラボレーションに参加することで、これら の知見がILC の研究推進にも存分に活かされることになる。

今回の会議で、新たなポスト「地域アドバイザー」が新設され ることになった。次回会合までに、人選が進められる予定だ。

記者会見では、記者からの質問に答える形で、これまでILC の国際 活動を牽引して来たバリー・バリッシュ氏からコスト評価の結果も発表された。バリッシュ氏が提示したコストは、77.8 億ILC ユニット。 コストは「ILC ユニット」という単位で表す。これは2012 年1 月の 米ドルを基本にしている。2008 年に発表された日本円建てコストは、 為替レートを使って換算されていた。それから5 年間の円の対ドル為 替レートの変動は非常に大きく、為替レートでは正確な試算は難しい との判断から、今回のコスト試算には購買力平価(PPP)が使われて いる。では、日本円ではどのくらいになるのか? ILC は国際協力プ ロジェクトであるため、日本円への換算は単に為替レートを掛け合わ せるだけでは不十分だ。どこで建設されるのか、そして製造部分のど こをどの地域の企業が担当するかで、数字は大きく変わってくる。記 者会見後に鈴木厚人KEK 機構長は、日本に立地した場合のコストを 「8300 億円」とした。今後1 〜 2 ヶ月でより詳細な計算が行われる予 定だ。

これまでILC の活動を率いて来た国際共同設計チーム(GDE)と 物理・測定器研究者組織( RD) は、今年6月に予定されているILC の技術設計報告書( TDR) 完成まで、新設されたリニアコライダー・ コラボレーション(LCC)とともにリニアコライダー実現を目指して活動を継続する。